第八話 優しい老婆
「雪ッ!」
雪が草の上に横たわっている。目は閉じていて意識がないようだ。私は雪の側に駆け寄った。
「雪ッ…… 雪ッ…! 起きてよッ、目を覚ましてよッ!」
私が強く雪を揺する。それでも雪は揺れに身を任せてぐったりと揺れるだけだった。
「どうしてッ! 私が助けてればッ、魔法の実践をしてたらッ!」
私が酷く嘆いていると、
「どうしたのですか?」
と、騒ぎに気づいたユメが起きてきた。
「雪ッ、雪がッ!」
私が必死に訴えると、ユメは雪の姿を凝視した。
「ど、どうしたのですか!? 誰にやられたのですか?」
「ま、魔物……」
「雪さんが1人で戦ってたってことですか?」
「う、うん……」
「そうですか……その魔物って一体どこに…?」
「わ、私が倒した」
と、言うと魔物の死体がある方に目を向ける。
「ほう……って! この魔物ってあれじゃないですか!?」
「………???」
「魔物ランクで毎年上位TOP10に入ってる大型の魔物じゃないですか!?」
「えっ……」
「確か、名のある勇者達を数多く葬ってきたらしいですよ…」
と、遠慮気味に言われてしまった。
「とにかく、魔物のことは置いといて、雪さんを病院に連れて行かないとですよ!」
「そ、そうだね、私が雪を担ぐからその他を持ってくれる?」
「わかりました」
ユメはそういうと魔物の残骸も含めてテントなどを手際よく回収していった。
「はぁ、はぁ、はぁ、、、、」
「アイさん! 何か門が見えてきましたよ!」
「う、ん。急い、で、いこ、う ハァハァ」
私は最後の力を振り絞って走り出した。
門の前に近づくと、二人の騎士が居た。私達が何事もなく入ろうとすると、二人の騎士はこちらに槍を向けて
「貴様ら! この国に入るではない! 今すぐ帰れ!」
と、言われてしまった。
「わ、わかりました……」
変な揉め事になっても困るので大人しく退散することにした。
私達は行く宛もなく、外壁の周りをトボトボ歩き始めた。もしかしたらどこからか入れるかもしれない、と思って。まぁ、騎士の方々がいるぐらいだからそんな抜け道的な場所はなかったんだけどね。私達が途方に暮れていると
「お嬢さんがた、どうしたのかい?」
と老婆に声をかけられた。
「あ、あの……私達の連れが倒れてしまったのですが、門を通してくれなくて…」
老婆は私が背負っている雪を見ると一瞬驚いたような顔をした。
「そうかい、そうかい。なら私の家に入れてあげるよ」
ついてきな、と言うと老婆は歩き始めた。
暫くして、一軒の家の前に着いた。
「ここが私の家だよ」
と老婆は言う。しかし、何故外壁の外に家があるのだろう。外は危険なはずなのに。
「なんで外壁の外に……って思っただろう? 教えてあげるからついてきな」
と言うと老婆は扉をあけ中に入っていった。私達が後に続いていくと、外から見た家の大きさよりも遥かに大きい家だった。
「私はね、魔女なのよ。家の中を大きく作ることだってできるわ。でもねぇ、あの国では魔女は危険だって言われてるからこうして外壁の外に住んでいるんだよ」
「そうだったんですね…」
「おっと、それは置いといて、このお坊ちゃんを空き部屋に寝かせなきゃね。こんなこともあろうかと部屋は常にきれいにしてあるからね」
「「ありがとうございます!」」
私達はお言葉に甘え、雪の部屋の一つ隣の部屋を貸してもらった。
「ところで……雪は大丈夫なんですか?」
「う〜ん……この雰囲気からするに……」
「「ゴクリ」」
「雪くんは……」
ドキドキ
「ヴァンパイア化してるね」