第一話 ゲームへ
私は毎日一人ぼっちだ。学校に行くときも居るときも帰るときも家に居るときもいっつも一人ぼっち。小学校の頃からそうだったから、もう特に何も思わなくなってきた。学校では、片親だからと虐められたり、仲間はずれにされたりしている。家では母はおらず、父はその悲しみになのか、ろくに仕事に行かずお酒ばかりを浴びている。だから、中学校から帰ると年齢を誤魔化して面接をくぐり抜けたコンビニで働いてなんとか食いつないでいる。こういう場面だけでは自分の身長が高くて良かったと心から思う。今日も学校に行き、そのままコンビニへと直行する。
コンビニに入ると、優しく指導してくれる先輩が先に来ていた。
「やっほー」
「こ、こんにちは」
最近やっと人と話せるようになったと言っても過言では無い。一人でいた時間が長すぎていつの間にかコミュ障になってしまっていたんだと思う。学校でも家でも話す人いないし、一人だし。
「そうだ、新商品入荷したから愛月桜ちゃん陳列しといてくれる?」
「わかりました」
忙しいバイトの時間が終わりあとは帰宅するだけだ。正直一日の中で一番この作業が嫌いだ。家に帰ったってなんにも得することなんてないんだから。まぁ、毎日が起きて学校行って、バイト行って、家帰って、寝る。それの繰り返し。
でも、そんな私にものめりこめることがあった。それはゲームだ。お金ないのにどうやって…?と思うかもしれないが、学校のパソコンでこっそりダウンロードしたゲームがある。最近はそれで遊ぶのにハマっている。先生に怒られることもしばしばあるけど。それでも、ゲーム以外の楽しみも見つからずつまらない毎日をおくっていた。はずだった。
バイトが終わり家に帰る途中、何者かに腕を掴まれた。
「は、放して!」
と言ってみるが、あたりは暗く人っ子一人いない。その上コミュ障の私が出せる声なんてたかが知れてる。口元を何かで覆われると、私の意識はそこでプツッと切れてしまった。
起きるとそこは私が全く持って知らない世界だった。のどかな草原が広がり、少し遠くを見れば山や森林などがうかがえる。正直、コンクリートジャングルに住んでいたもんだから別世界のように思えた。あたりを見渡すと私の他にも9人の子どもがいた。私が起きるのを待っていたようだ。あんまりにもたくさんの人に見られてしまったものだから、気恥ずかしさに思わず
「ご、ごめんなさい……」
と言ってしまったが声が小さかったせいか、誰の耳にも届かなかった。するとそこへ何者かが現れた。狐のお面をつけ、胸元に星型のネックレスをつけた人。
「皆さん、ようこそ。ここは、我が組織が作った仮想世界。いわば仮想世界だね」
ゆっくり滑らかな口調でいうと
「早くここから出せよ!」
隣りにいた短気そうな男の子が叫ぶ。
「まぁまぁ、そう焦らないで。今からゲームをしよう」
男の子はゲームがよほど好きなのかその言葉を聞くと何かを言いかけてやめていた。
「僕の名前はライアー。ほら、頭の上にLiarって書いてあるだろう?このゲームの案内人さ。いいかい?君たちはこのゲームの中に閉じ込められてしまった。外へ出るには現実世界へと繋がる扉を見つけること。ただ、それだけ。でも、途中で死んでしまったら脱落だよ?一時間以内に誰かが蘇生させてくれれば生き返るけどそうじゃなかったら脱落。誰か一人が扉に入れば全員助かるよ?でも全員殺られてしまったら……ね?」
最後の言葉に身震いをしてしまう。きっと、その先の言葉は想像したくもないが、きっと「死」か、「二度と家に帰れない」なんだろう。正直、この世界にずっといれるなら一生そのままでいいと思った。家に帰っても私には損でしか無い。
「何かあったらね、そこの森に入る入口のところに塔が建っているだろう?その塔の"最上階"に僕はいるよ。間違えても他の扉に入ってはいけない。入るときは"3回"ノックするんだよ?いいかい?」
皆が黙って頷く。きっとこれは破ってはいけない大切な決まりなんだろう。誰もがそう実感した。
「じゃあ、ゲームスタートォ」
と声を高らかに宣言すると、ライアーは消えてしまった。
この場には9人が残されたが、誰も一言も発しない重い沈黙が始まってしまった。