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おれはお前なんかになりたくなかった  作者: 倉入ミキサ
第十一章:ボクの好きな人
80/127

菊水安樹と井原園


 *


 ピコピコピコピコ、チャラランチャラン、ピプー、ピプー、ドンドコドンドコ、ティルルル……。ポップでエレクトリックな音の理想郷りそうきょうしているここは、ゲームセンター。

 閑散かんさんとした場所から一転、『美晴フウタ』と安樹アンジュの二人は、このショッピングモールで最もノイジーな場所へとやってきた。


 「しかし、入れ替わりに入れ替わりをぶつけて相殺そうさいするなんて……。かなり危険なことやろうとしてる気がするけど、大丈夫かな」

 「成功を……信じて……やってみるしか……ないだろ……。それよりさ……、とにかく……今日は……遊ぼうぜ……。ほら、むこうに……クレーンゲームが……ある……!」

 「フフッ、なんだか明るくなったね。やっぱり収穫しゅうかくが大きかったからかな?」

 「ああ……! 今までは……元に戻りたくても……何をどうしたら……いいか……分からなかった……。でも、今日は……その……方法が……分かったし、戻れる……可能性も……見えてきた……! だから……嬉しい……!」

 「うん、伝わってくるよ。……そうだね。牡丹ボタンさんからもらったペンダントについて考えるのは、また今度でいいか。遊ぼう、風太!」

 「おう……! これ……やろうぜ……、これ……!」


 『美晴』が指差したのは、カプセルをキャッチするクレーンゲーム機だった。カプセルの中にはカギが入っており、そのカギでゲーム機の隣にある景品けいひんが入ったショーケースを開ける、というシステムになっている。


 「ふふん、ボクに任せてよ。まずはお金を入れて、っと」

 「安樹……、おれたちの……狙いは……『エレゼロ』の……カギ……だぞ……!」

 「『エレゼロ』? 何それ」

 「最新の……ゲームハードだ……。最近……よく……CMとか……やってる……だろ……。おれ……、あれが……欲しいんだ……!」

 「そんなの、せっかく手に入れても、ソフトがないと遊べないじゃん。ボクはそっちよりも、ペンちゃんの方が欲しいかな」

 「えぇー……!? デカい……ペンギン……の……ぬいぐるみ……なんて……いらないだろ……! ほら、もっと……右を……狙え……!」

 「ちょ、ちょっと黙って! 集中しないと、何も取れないからっ!」


 *


 それは、小さなラジコンヘリコプター。


 「これか……」

 「これだね」


 二人でクレーンゲームにお金をぎ込んだ結果、手に入った景品は、とても小さなラジコンヘリだった。


 「『屋外でも室内でも楽しめるRCコプター!』、だってさ」

 「ゲームでもなく……ぬいぐるみでもなく……か……」

 「どうする?」

 「どうする……って……お前……。そりゃあ……遊ぶしか……ないだろ……!」

 「だよねっ!」

 「よーし……! やまあらし公園に……行くぞ……、安樹……! あそこで……飛ばしまくろう……!」

 「おーっ!」


 狙いは外れてしまったが、今の二人にとっては、たいした問題にはならなかった。機嫌きげん気分きぶんも良いので、全てを楽しむ余裕があるのだ。『美晴』は男子小学生のように無邪気むじゃきに笑い、それにつられて、安樹も男の子のようにはしゃいでいた。

 ……無邪気にはしゃぐのはいいが、前を見ずに走るのは危ない。


 ドンッ!


 「あいたっ……!?」

 「チッ、いってぇな! マジ邪魔!」

 「す……すみません……」


 走り出そうとした瞬間、『美晴』は通行人に肩をぶつけてしまった。やはり、はしゃぎすぎると注意ちゅういりょくは欠けてしまう。

 ぺこりと頭を下げて通り過ぎようとした瞬間、『美晴』は今ぶつかった相手を見て、ハッと気がついた。


 (げっ……! こいつら、今朝けさもぶつかったわるおんな三人組さんにんぐみだ!)


 二度目の遭遇そうぐう。派手なメイクのパンキッシュガールズだ。

 真ん中に立つリーダー格のパンキッシュガールが、太ったパンキッシュガールと、長細いパンキッシュガールを、したがえている。


 「前見て歩け! ウザキモブサイクっ!」

 「ウザっ!」「キモっ!」


 こういう時期の女の子は、あいさつ代わりに「キモい」などと暴言を吐く生き物だ。あまり気にしてはいけないのだが、『美晴』はその言葉を聞き流せなかった。


 (ちょっと待て。ぶつかったおれも悪いけど、ウザキモブサイクは言い過ぎだろ。しかもそれは、この見た目への悪口だろうがっ!)


 通り過ぎるのはやめ、三人組をにらみつけながら、奥歯をギリギリと噛み締める。

 小さなこぶしにも、グッと力が入っていく。


 「は? 何? 逆ギレしてんの? ブスのくせに、マジキモいんだけど」

 「ブス」「キモ」

 

 さらに見た目をバカにされて、『美晴』はもうガマンできなくなった。

 

 「キモいだの……ブスだの……好き勝手……言いやがって……! 美晴は……、少なくとも……お前ら……なんかよりも……ずっと……!」

 「ストップストップ! ……あはは、すみませんすみません。さようなら」


 割って入って来たのは安樹。穏便おんびんに場を収めようと、ヘラヘラ笑いながら、『美晴』の腕を引っ張った。


 「止めるなよ……安樹……! こいつら……美晴の……悪口を……!」

 「言わせておけばいいだろ。キミが何故なぜ、美晴の悪口でムキになるんだ。それに、ここでケンカなんてしても、面倒なことになるだけだよ。ほら、行こうってば」


 ぐいぐいと、『美晴』の腕を引っ張りながら立ち去ろうとする安樹に。


 「……安樹アンジュ?」


 そう声をかけたのは、パンキッシュのリーダー格の女の子だった。

 

 「えっ? どうして、ボクの名前……」

 「お前、もしかして……菊水きくみず安樹アンジュ?」


 安樹は『美晴』を引っ張るのをやめ、立ち止まった。そして、むこうのリーダー格の女の子の顔をじっと見た。じっと、じーっと、記憶の奥を辿たどるように、じーっと……。

 鮮明せんめいになっていくにつれ、安樹の表情は、その出会いがまるで最悪であることを示すかのように、変わっていった。

  

 「あ、あ……あ……、ああ……あ……!」

 「やっぱり安樹じゃん。あーし(あたし)の名前、井原いはらソノ。覚えてるよね?」

 「そ……、そそ……ソノちゃんっ!?」

 「へー、何してんの? こんなとこで。まだ不登校ふとうこうやってんの?」


 余裕よゆうそうなソノに対して、見るからに余裕がなくなっている安樹アンジュ

 互いに見つめ合い、再会をなつかしんでいるようだが、園の友達のパンキッシュ二人と、安樹の友達のウザキモブサイクは、蚊帳かやそとだった。パンキッシュは園に「誰あれ?」「あれ誰?」とたずね、ブサイクは安樹に「誰だ……あいつ……。お前の……知り合いか……?」と尋ねた。


 それに返答へんとうしたのは、園。

 まともに受け答えができる状態なのは、園だけだった。


 「あいつ? あーしの元同級生でさ、昔は仲良く遊んでた友達なんだけど、実は……」

 「うわぁぁあああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!」


 突然の発狂はっきょう

 安樹は激しく取り乱し、全力疾走でゲームセンターを飛び出した。まるで恐ろしい存在から逃げ出すかのように、ただひたすら遠くへと走った。


 「お……おいっ……! どこに……行くんだ……! 安樹っ……!」

 

 『美晴』はラジコンヘリを小脇こわきかかえ、走り去っていく安樹の後を追った。


 *


 さっきのゲームセンターから遠く離れた、4階のベンチ。暗黒の魔女に出会ったあのベンチへと、『美晴』は戻ってきた。

 するとそこには、頭を抱えてガタガタと震えている安樹が座っていた。


 「ここに……いた……のか……。安樹……」

 「はぁっ、はぁっ……。だ、誰っ!?」


 頭を抱えたままうつむき、顔を上げようともしない。

 もちろん、声で『美晴フウタ』だと判別はんべつできるハズだが、呼吸こきゅう困難こんなんにまでおちいっている安樹の体には、それは無茶な要求だった。


 「どうしたんだよ……お前……。突然……、そんな……状態に……なって……」

 「ふ、風太っ!? 風太なのっ!? はぁ、はぁ、ダメだよ、来ないでっ、ボク、あの、ボクはっ」

 

 言葉だけの制止せいしを無視して、『美晴』は安樹の隣に座った。


 「あっ、あぁっ、来ちゃ、ダメ、なのにっ! ねぇ、風太、いるのっ!? そ、そこに、いるのっ!? ねぇ、風太っ!?」

 「安樹……」

 「い、いるねっ!? どうしようっ、ぼ、ボクっ、うるさい? ご、ごめんねっ! でも、き、聞いてほしい、ことも、あって、キミに話さなきゃ、って!」

 「安樹……!」

 「き、嫌いに、なる、かな!? キミは、ぼ、ボクを、嫌いになるっ!? 怖い、聞いてほしい、けど、怖いっ! やっと、と、も、だち、に、なれた、のにっ!」

 「安樹っ……!!」

 

 無理やり、強引に、ちからくで、『美晴』は安樹に目を合わせさせた。

 引っ張り出された安樹は、もう一度ふさぎ込もうと抵抗ていこうしたが、『美晴』はガッチリと安樹の両腕を掴み、それをさせなかった。


 「おれを……見て……話せよ……! しっかり……聞いてやる……から……!」

 「う、うん、聞いて、ね? ボクも、勇気、出す、からっ」

 

 驚き、大きく見開いた瞳から、安樹はポロポロとなみだつぶをこぼした。


 *


 それから、安樹の呼吸は少しずつ平常へいじょうを取り戻していった。しかし、まだ小さなふるえは止まらないらしく、ソワソワと落ち着かない様子だったが、安樹が「もう大丈夫。キミと話したい」と言ったので、『美晴』はその言葉を信じて、静かに話を聞くことにした。


 「はぁー……。はぁー……。まずは、落ち着く、ね?」

 「無理は……しなくて……いいぞ……。話したい……こと……だけ……話せば……」

 「ううん。キミには、全部聞いてもらいたいんだ。だから、無理をしてでも全部話すよ」

 「全部……? お前の……身に……起こったこと……か……?」

 「うん。ぼ、ボクが好きになった人の、こと」

 「好きに……なった人……? なんだ……? 恋愛れんあいけいの……話か……?」

 「えへへ。ちょっと恥ずかしいけど、聞いてほしいな。ボクが、月野内小学校に来る前の話」

 「来る前……? お前……転校てんこうせい……だったのか……」

 「あれ? 言ってなかったかな? 風太たちがかよう月野内小学校に来たのは、最近なんだ」

 「それで……?」

 「前の学校で、最初に恋をしたのは、普通の……男の子だった。まぁ、その子にはかたおもいしてただけで、何ごともなく、ボクの最初の恋は終わったんだけど」

 「『最初の恋』……? 『男の子だった』……? まさか、お前……!?」

 「そう。次にボクが恋をしたのは、女の子だったんだ。名前は……ソノちゃん」

 

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