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おれはお前なんかになりたくなかった  作者: 倉入ミキサ
第五章:風太の部屋で二人きり
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「共鳴」


 「共鳴レゾナンス」。

 以前、風太の身に起こった「同化アシミレーション」と同じく、入れ替わり状態の人間のみに起こる現象だ。

 

 赤ん坊のころから、人間は他者とのふれあいを求めている。そして、ふれあう相手との関係性によって、得られる安らぎと幸福感の量が変わる。

 入れ替わっている者同士が、右手と右手、左足と左足、頭と頭など、同じ部位の「素肌」を密着させると、身体はかつて一つだった心との再会に喜び、多大な安らぎと幸福感を得る。そして、より強い結び付きを求めようとして、密着している部位の活動を活性化させる。

 そうして得られる効果は、体温の上昇、自然しぜん治癒力ちゆりょくの増加、快楽かいらく物質ぶっしつ大量たいりょう分泌ぶんぴつなど。

 

 それが互いの身体に同時に起こるので、入れ替わりによる「共鳴」と呼ばれている。


 *


 「本当に……ケガが……治ってるのか……!?」


 『美晴』は驚き、自身でもおデコの傷痕きずあとをなぞった。

 しかし、指先の感覚だけでは変化がさっぱり分からない。 


 「ほ、ほんの少しだけ、ですっ。もしかしたら、気のせいかもしれないですけど……でも、わたしには、そう見えるんです」


 この傷との付き合いが長くて、ずっと鏡を見て悩んできたやつが、そう言っているのだ。『美晴フウタ』は自分の指先よりも、『風太ミハル』の言葉を信用した。


 「そうか……。治るかも……しれないのか……」

 「は、はい……。今の行為を、もっと続ければ、ですけどっ」

 「おれと……美晴の……おデコを……もっと……くっつければ……傷が……消える……」

 「あの……ふ、風太くんっ。わたし、どうすればいいのかな……?」


 どうすればいいか、なんて決まっている。決まっているのに、わざわざたずねたということは、ことわられるかもしれないと思っているということだ。

 臆病おくびょうな少女の顔を見せる『風太』を、『美晴』は男として自分で引っ張っていくことに決めた。


 「やるよ……! この身体の……ケガは……おれたち二人の……ケガだ……! 二人で……一緒に……治そう……!」

 

 もう一人で悩むことじゃないと、


 「うんっ……!」

  

 伝えるように。 

  

 「とりあえず……おれが……試してみるよ……。お前は……何もせずに……じっとしてれば……いいからな……?」

 「わ、分かりました。あなたを、待ちますっ」


 『風太』は小さく息を吸って、スッと目を閉じた。

 待機たいき状態じょうたい……だが、両手を胸のあたりで重ねるポーズは、こんな時でも発動している。


 (うわ、女っぽい……! おれが女っぽいと、やっぱり気色きしょくわるいな)

  

 まるで、毒りんごを食べて倒れた白雪姫しらゆきひめ。おそらく『風太ミハル』は、ナチュラルにこの「お姫様のポーズ」をしてしまうクセがあるのだ。

 『美晴フウタ』はかつての自分にドン引きしながら、そっと手を取り、お姫様のポーズを解除した。


 「ふぅ……。では……気を取り直して……」

  

 『美晴』も同じく目を閉じて、身体を重ね、おデコをぴったりくっつけた。


 「「……!」」


 そして、「共鳴レゾナンス」が始まる。

 

 「ふぁ……あっ……」

 「はぁー……。あぁっ……」

 

 まず、脳が一気に活性化し、口からは溜め込んだ息が漏れた。

 混ざり合う、二つ分の吐息。『美晴』と『風太』はあまりにも近すぎる距離にいるため、自然にそれを吸った。 

 

 「はぁっ……はぁっ……」


 そして、震えるほどの快感かいかんが、身体の中で波紋はもんのように広がる。しかもそれはみゃく鼓動こどうのように、何度も、何度も。


 (あぁ、やっぱり気持ちいいな……。でも、それがちょっと強すぎて、怖いくらいだ。なんとか自分の心で、コントロールしないと……)

 (められなくなりそうっ……。気持ちよさを求めて、エスカレートしてしまいそうっ……。理性を、しっかりたもたなきゃ……)

 

 治癒ちゆ快楽かいらく

 メリットばかりが大きい行為であるがゆえに、められなくなったり、理性を失ってしまったりするなどの欠点もある。感情に身を任せず、つねに心で意思いし制御せいぎょしなければならない。

 

 「け、ケガの……ため……だからな……。分かってる……よな……?」

 「そ、そうですね。これは、ケガを治すため」

 「そうだ……。忘れないように……しよう……」

 「はいっ。ちゃんと、覚えてますっ」


 声をかけあって、目的を確認する。自分たちが快楽のためにやっているのではないことを、しっかりと。

 その甲斐かいもあってか、『美晴』は自分なりに区切りをつけて、『風太』からおデコを離すことができた。


 「ん……んんっ……。ぷはっ……!」

 「はぁっ、はぁっ……」

 「あぁー……あっついな……! おい……美晴……大丈夫か……?」

 「うん、大丈夫っ。ありがとう、風太くん」

 「ほら……おデコ……見てくれよ……。治ってる……かな……?」

 「うーん、まだあまり変化はないですね。それより……ふふっ。風太くん、汗でベタベタです」

 「髪の毛が……長いから……めちゃくちゃ……はりつくんだよな……」

 「わたしも、ベタベタ……。二人で汗まみれになっちゃいましたね」

 「じゃあ……、おデコは……これくらいにして……、ちょっと……すずしく……なろうか……」

 「えっ?」


 『美晴』は、自分が着ているシャツのすそを握った。


 「お腹……。くっつけてみたら……どうなるか……気にならないか……?」

 「……!」


 『美晴フウタ』は本来、ここまで積極的な男ではない。そして『風太ミハル』も、本来は恥ずかしがりな女なので、あまり積極性を受け入れたりはしない。

 本人たちは、まだ気付いていない。傷の治りと同じように、ほんの少しずつ、その快楽のとりこになっていることに。

 

 *


 「美晴……。少しだけ……まくるぞ……」


 まずは『美晴』が『風太』のTシャツを下からススッとまくり上げ、胸板が見えないくらいのところで止めた。


 「風太くんは、わたしがやってあげますね……」

 

 そして次は、『風太』が『美晴』のシャツを下からまくり上げ、着けているブラジャーがほんの少し見えるくらいのところで止めた。


 「これで……よし……!」

 「ふふっ……」


 おなかの見せ合いっこ。

 わざわざ脱がせ合ったのは、気持ちを高めるためだ。『美晴』と『風太』は、自分たちがしたその行為に違和感を持っていない。

 

 「おヘソ……の……あたりを……こう……ピトッと……くっつける……イメージで……」

 「風太くん……。おなか火傷痕やけどあとも、これで治るかな……?」

 「治るよ……、必ず……。美晴は……キレイになるんだ……」

 「うんっ……」


 準備はできた。

 あとは、『美晴』が『風太』におヘソをくっつけるだけ。

 

 「来て。風太くんっ」

 「いくぞ……美晴っ……!」

 

 コンコン、ガチャ。

 

 「いぇーいっ! フウくんも、ミハちゃんも、もう涙はれたかしら? 仲直なかなおりの記念に、クッキーパーティーを開催かいさいするわよぉ!」

 

 突如とつじょ、風太のお母さんが登場。

 風太のお母さんこと守利マモリは、クッキーと麦茶を盆にのせて、ムンムンとした熱気のこもった部屋に乱入らんにゅうしてきた。


 「「えっ……!?」」


 息子はというと、ベッドの上。しかも、女の子と一緒。

 まず、体勢がヤバい。女の子が息子に、おおかぶさろうとしている。

 そして、服装もヤバい。女の子と息子は、上半身の服を半分くらいいでいる。

 何より、目付きがヤバい。さっきまでケンカをしていたはずの二人なのに、今はウットリと見つめ合っている。

 

 守利はベッドの上の男女を見て、部屋を見て、もう一度いちど破廉恥ハレンチな様子の男女を見た。

 

 「あっ、ああ、フウくんっ、ミハちゃんっ、きゃああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 パニックになった守利の悲鳴ひめいが、二瀬ふたせ大爆発だいばくはつした。

 

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