表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おれはお前なんかになりたくなかった  作者: 倉入ミキサ
第四章:風太と美晴と春日井雪乃
28/127

男子がやってるカードゲーム


 「おれ……風太なんだ……!」


 『美晴フウタ』は雪乃に、はっきりと本当のことを伝えた。


 「おれも風太だぜ」

 「えぇっ……!?」


 予想していなかった答えが返ってきた。


 「おう、おれも風太だぜ。……だめ、わたし似てないね。あははっ」

 「いや……、冗談じょうだんじゃ……なくてっ……!」

 「あ、あー、コホン。おれは6年1組の二瀬風太だぜ。趣味しゅみは、なんかドラゴンが出てくるカードゲームだぜ。キリッ」

 「なんだよ……その……悪意ある……モノマネは……! たしかに……『バトルドラゴンウォーズ』の……カード……集めてる……けど……! いや……そうじゃなくて……!」

 「男子は何故かみんな持ってるよね、あのカードゲーム。風太くんはルールとか説明してくれたけど、よく分かんなかったし、興味ないよ。わたし」

 「そんなこと……より……、おれが……風太……なんだよっ……!」

 「そうなの? じゃあ、風太くんが二人になっちゃうんじゃない?」

 「へっ……?」

 「わたしの目の前にいる美晴ちゃんの姿をした風太くんと、キッチンでホットケーキを焼いてる風太くん」

 「いや……、あっちが……本当は……美晴で……おれが……風太……」

 「あ! もしかして、男の子みたいなしゃべり方してるのは、風太くんのモノマネだったのかな? 風太くんが来たら、ちゃんと女の子のしゃべり方に戻さなきゃだめだよ?」

 「だから……、おれが……本当の……風太……だって……!」


 話が進まない問答もんどうを繰り返しているうちに、キッチンでホットケーキが焼き上がってしまった。

 

 「できたよ。三人分」

 

 『風太』がダイニングへやって来た。

 おぼんに載せて運んできたのは、真ん中にバターが乗っていて、全体にとろ~りしたメイプルシロップがかかっている、スタンダードなホットケーキだ。

 

 「わぁー! ホットケーキだー!!」


 雪乃は見たままの感想を言った。

 今の興味は完全にホットケーキに向いているらしく、『美晴』の話についてはもうすっかりわすれている。


 「はぁ……」

 「風太く……美晴、どうかした? さっき雪乃ちゃんと何を話してたの?」

 「いや……なんでも……ない……。です……」

 「?」

 

 『風太』に言ったところで、おそらく味方はしてくれない。

 不満げな表情を浮かべながら、『美晴』は甘くて美味しいホットケーキを頬張ほおばった。


 *


 「「「ごちそうさまでした」」」

 

 雪乃が食器しょっきを運び、『美晴』がそれを洗う。料理をしていた『風太』には、その間に休んでもらうことにした。


 「美晴ちゃん、もう食器はこれで全部だよ」

 「ああ……。こっちも……もうすぐ……終わ……終わりますよ……」

 「この後、三人でメガロパに行こうと思うんだけど、美晴ちゃんもそれでいい?」

 「うん……」

 

 この家の近所には、メガロパという名前の大型ショッピングモールがある。

 

 「じゃあ、わたしたちは先に玄関の外で待ってるから、美晴ちゃんも準備ができたら、外に出てきてね」

 「分かり……ました……」


 『美晴』は皿洗さらあらいを終えると、手を拭いて美晴の部屋へと向かった。

 しかし、部屋に向かう途中、外に出ているはずの『風太』とばったり出会った。『風太』は男らしい健康的な両腕で、キレイにたたまれ積み上げられた女物の洋服を抱えている。

 

 「おい……、ここで……何やってるんだ……。お前……」

 「わたしの服を、クローゼットにしまっておこうと思って……」

 「だから……、そういう……のは……おれが……やるって……言ってるだろうが……!」

 「で、でもっ! 風太くん、お皿洗いで忙しそうだったからっ!」

 「あのな……、一応……今……お前は……風太……なんだぞ……! こんなところ……もし雪乃に……見られたら……、どう説明する……つもり……なんだよ……!」

 「ゆ、雪乃ちゃんなら、先に玄関の外へ行きましたよ……?」

 「そういう……問題じゃ……」

 

 と、『美晴』は途中まで言いかけて、やめた。

 これ以上声が大きくなれば、外にいる雪乃の耳にも届いてしまうかもしれない。そしてまた、あいつはケンカの仲裁ちゅうさいをしにやってくる……。


 「と……、とにかく……来い……!」

 

 『美晴』はそのまま『風太』を連れて、美晴の部屋へと向かった。


 *


 二人で手分てわけをしながら、全ての洋服をクローゼットに片付け終えると、『美晴』は『風太』を勉強机のイスに座らせ、ハッキリと言った。

 

 「これぐらい……のことは……、おれが……やる……! お前は……今……おれなんだ……から……、こういうことは……しなくていい……! あと……、近くに……雪乃が……いるってことを……考えて……行動しろ……よ……! 風太が……美晴の服を……勝手に畳んだり……クローゼットにしまったりするなんて……おかしいだろうが……!」

 「は、はい……」


 『美晴』は一方的いっぽうてきに、『風太』をめた。

 責められた『風太』も、黙ってうつむいたまま、自分がやってしまったことを反省していた。

 

 「……」

 「……」

 

 怒られてしょんぼりする『風太』を見ているうちに、『美晴』はなんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 今回の『風太』の行動は、皿洗いで忙しい自分のためをおもってのことだ。悪気わるぎがあったわけではない。

 さらに、さっきからケンカばかりして雪乃を困らせているので、「雪乃のことを考えていない」のは、どちらかと言うと自分の方かもしれない。


 (うーん、ちょっと言い過ぎたかな。おれも美晴をめられるほど周りが見えてるわけじゃないし……)


 少し考えてから、『美晴』は言った。

 

 「あ……、あの……さ……!」

 「はい……?」

 「もういい……から……、おれの……服……選んで……くれよ……」

 「えっ? 服を……?」

 「これから……三人で……かけるん……だろ……? お前の……遊びに出かける……時の……服装とか……、おれ……知らないし……」

 「わ、分かりました。わたしが選びますねっ」

 

 『美晴』は一度、『風太』の善意の行動にまかせてみることにした。


 *


 「お、おいっ……! これを……おれが……着るのか……!?」


 『風太』が選んだコーディネートは、花柄はながらのワンピースと、ひよこ色のカーディガンだった。

 

 「ど、どうですか……?」

 「お前なぁ……」

 「お母さんとお出かけする時に着る、とっておきの服なんですけど……。や、やっぱりイヤですかっ?」


 『風太』は『美晴』の反応を見て、出した服を片付けようとした。


 「いいよ……片付けなくて……! せよ、それ……! 女が……着れば……その服……か、かわいいと……思う……よ……」

 「かっ、かわいい!? 風太くん、い、今、かわいいって言いました!?」

 「なっ、なんだよ……!」

 「こ、この服っ、お母さんがかわいいってめてくれてっ! 風太くんから見ても、か、かわいい、ですかっ!?」

 「女が着れば、な……!」

 「でも、風太くんは今女の子だから……」

 「うるさいなっ……! 言われなくても……分かってるよっ……!!」

 

 なかばやけくそになりながら、『風太』からお出かけ用のワンピースをぶんどり、『美晴』は今着ている服を思い切り脱いだ。脱ぎ捨てた。

 鏡の前で、ブラジャーとパンツだけの姿になり、自分の身体にワンピースをあてがう。サイズも丁度ちょうど良く、着られないということはなさそうだ。

 

 「なぁ……美晴……。やっぱり……これ……って……」

 「いちゃだめっ!!!」


 突然、『風太』が大声でさけんだ。

 ワケも分からず、『美晴』は鏡の方を向いたまま、『風太』にたずねた。

 

 「えっ……!? なんだ……!?」

 「そのまま、前を向いていてっ!」

 「うん……? わ、分かった……!」

 

 と言っても、『美晴』の正面にあるのはかがみ。前を向いたまま背後はいごの様子も分かるのが、鏡の利点りてんなのだ。

 『美晴』は鏡越かがみごしに、『風太』の様子を確認した。


 (あっ……!)


 『風太』は後退あとずさりして、ゆっくりとイスに腰を降ろした。

 その動作の時に少しだけ見えた()()に、『美晴』の目は釘付くぎづけになっていた。

 

 「美晴……」

 「……」

 「ウソだろ……お前……」

 「い、言わないでっ」

 「まさか……お前……今……、興奮こうふん……してるのか……?」

  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ