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おれはお前なんかになりたくなかった  作者: 蔵入ミキサ
第十四章:風太6歳 美晴4歳
119/127

ロック


 *


 「わたしが、歌手!?」


 今にも崩れてしまいそうなボロアパートの、一室(いっしつ)。その部屋の表札には、「端野(はたの)苺子(イチゴ)」という家主(やぬし)の名前が書かれている。

 

 「そう。雪乃が歌手」

 「本当にっ!? 苺子(イチゴ)ちゃん!」

 「苺子ちゃんって呼ぶな。大人だぞ、アタシは」

 「わたし、歌手になれるの!? 歌、あんまり上手くないよ!?」

 「確かに、雪乃は歌が上手くない。ギターも素人だし、何か特技があるわけでもないし、特別顔が良いわけでもなく、スタイルが良いわけでもない」

 「ひ、ひどいー! 悪口いっぱい言われたー!」

 「でも、元気がある。愛嬌(あいきょう)もあるし、誰かに伝えたい想いもある。その想いは、音楽に(たずさ)わる人にとって、一番大事なものだと、アタシは思う。だから、アタシは雪乃をスカウトしたんだ」

 「スカウト……? わたし、スカウトされたの? いつのまに?」

 「あのな……。アタシは一応、音楽プロデューサーだぞ。プロデューサーの家にまで連れてこられて、スカウトされた自覚ないのかよ」

 「いやあ、てっきりお友達になってほしいのかと……」

 「お前なぁ……。いや、もういい! それなら改めてスカウトしてやる! 雪乃、アタシと一緒にロックなシンガー目指してみないか? ギターも歌も、全部アタシが教えてやるから! レッスン料として金は取るけど! どうだ!?」 

 「そ、そんなこと、急に言われても……!」

  

 そうは言いつつも、興味がないわけじゃない。歌うのは好きだし、ギターを触るのも大好きだ。上手くなりたいという願望もある。

 そして何より、思い描くは華やかな世界。女の子なら一度は夢見る、憧れのステージ。


 「うーん。どうしようかなぁ」

 「これでもアタシは、元歌手だ。『BASKET★』ってガールズバンドのリーダーやってた。知らないか? 今の小学生は」

 「知らなーい。テレビとか出てたの?」

 「何度かな。もちろん全国放送だぞ? ネクストブレイクミュージックっていう番組で、歌ったこともあるんだ。えっへん」

 「えっ……。テレビ、出たことあるんだ。変な頭のお姉さんなのに」

 「今、アタシのイチゴヘアーのことバカにしたか?」

 「うん……。ごめんね……」

 「すんなよっ!! アタシのトレードマークだぞ!!」

 「……」

 「どうした? 急にボーッとして」


 追憶(ついおく)。雪乃の頭の中では、「これからテレビや映画にいっぱい出て、ビッグな男になるんだぞ」という言葉が、響いていた。遠い昔に、ひたすら夢を追い続ける売れない俳優(はいゆう)が言った、あの言葉が。


 「パパの……夢……?」

 「ん? 雪乃、何か言ったか?」

 「……ううん、なんでもないっ! テレビとか出られるのって、すごいなって思っただけ!」

 「お、やっとアタシのすごさが分かったか。雪乃も出てみたいだろ? テレビ」

 「わたしは、どうしたいのかな……」

 「えっ?」

 「ごめんね、苺子ちゃん。ちょっと考えさせて。もちろん、挑戦してみたいって気持ちもあるけど……。やっぱり、ママに相談してから決めたいのっ!」

 「そっか。そうだよな。雪乃は、まだ小学生だもんな」

 「うんっ! でも、今日は苺子ちゃんとおしゃべりできて、楽しかったよ! またここに来てもいい?」

 「ああ。また遊びに来な。歌の基本やギターの基礎くらいなら、友達ってことでタダで教えてやる。それで、もし本気で歌手目指してみたくなったら、アタシに教えてくれ。その時は歓迎するよ」

 「苺子ちゃん、ありがとうっ!」

 「あははっ。苺子ちゃんはやめろってば」


 苺子はふところから自分の名刺を取り出し、雪乃に渡した。


 「『おせんべいプロダクション』……?」

 「アタシの所属事務所の名前さ。小さいけど、良いところだよ。ま、興味があったら調べてみてよ」

 「えへへ。わたし、名刺なんてもらったの初めてかも」

 「さて、今日はもう遅いから帰りな。話の続きは、また今度にしよう」

 「はーいっ! じゃあ、わたし帰るねっ!」


 お気に入りのハート型エレキギター。雪乃はそれをリュック式のケースにしまい、背中に背負うと、玄関にある運動靴を履いた。


 「ばいばい、苺子ちゃん!」

 「またな。雪乃」


 ガチャ……バタン。

 苺子は、また雪乃が「苺子ちゃん」と呼んだことに少し呆れながら、閉じ切った玄関の扉を見つめた。そして、じっくりと見つめていた。

 ほんの数秒前までそばにいた、元気いっぱいの女の子。あの子のことを思い出すと、なんだか心に穴が空いたような気持ちになってくる。また会いたいと、思わせてくれる。


 「春日井雪乃……か。面白いやつだったなぁ」

 

 しかし、その刹那(せつな)


 「きゃあああーーーーーーっ!!」

 「なんだっ!? 雪乃の……悲鳴!?」


 雪乃の叫び声。扉の向こうから聞こえてきた。

 苺子は急いで靴を履き、玄関から飛び出した。


 *


 「痛いよー! 手を放してっ!!」

 「ハァ、ハァ……! 大声、出すんじゃねぇよ……! 端野苺子とはどういう関係なんだって、聞いてるだけだろうが……! お前、苺子の家から出てきただろ……?」

 

 玄関から出てそれほど遠くない場所に、雪乃はいた。

 そばには、ハァハァと息を切らした一人の男がいる。雪乃はその男に腕をがっちり掴まれて、逃げることができない様子だ。

 苺子は、男に向かって叫んだ。


 「おい、やめろっ! 雪乃を放せっ!」

 「ふははっ……! 苺子のやつ、出てきやがったか」

 「なっ!? あ、アンタは、継本(つぎもと)流壱(りゅういち)ぃっ!?」


 継本流壱。音楽プロデューサー端野苺子にとって、何かとインネンのある男だ。その継本流壱が、何故かボロボロのスーツ姿で、まるで誘拐犯のように、雪乃を強引に捕まえている。


 「ずいぶん変わり果てたな。アンタ、何やってんだ」

 「ハァ、ハァ……。うるせぇよ、ガキが……!」

 「雪乃から手を放せ。その子はアタシの友達だ」

 「友達ぃ? なんだ、まだ事務所に所属もしてねぇのか」

 「そうだ。アタシがスカウトした子だ。事務所のことについては、これから話を進めるつもりで……今日はまず、友達になったんだ」

 「くくっ、相変わらずガキ臭いことを言ってるな。だが、それならちょうどいい。こいつを俺に寄越(よこ)せよ。ちょうど、素人のメスガキが欲しかったところなんだ……!」

 「な、なんだって!?」

 

 流壱は、地面にペッと(つば)を吐き捨て、苺子に語った。


 「取り引きさ……!! もちろん、金は積む。タキハラが消えた今、分け前も俺とお前の半々にしてやる。ここで俺に恩を売っておいて、損はねぇハズだぜ。だから……この雪乃とかいうガキを、俺に寄越せ」

 「雪乃を使って、何をする気なんだよ……! 何を考えてるんだ!」

 「ふははっ! お前も、この業界にいる人間なら、分かるだろうが。素人の女に価値があることくらい……!」

 「まさか……!」

 「そういう世界だろ? お前のバンド『BASKET★』のヒットでも、俺がプロデュースしてる『ジュエル・ジェイル』のヒットでも、やり方は同じさ……! 華やかな舞台の陰には、権力者に売られた人間が必ずいるんだよ」

 「違うっ! 『BASKET★』は、アタシたちの音楽が評価されたんだっ!」

 「くくっ、そう思ってりゃいいさ。いずれ現実が見えてくるだろうよ。……まあ、とにかく今は雪乃だ。こいつには、充分な価値がある」

 「誘拐でもする気か? そんなの、雪乃の親が警察に通報すれば……」

 「()()()。つまり、社会の闇さ。一度、権力者の手に渡っちまえば、誰も手出しはできねぇよ」

 「……!」

 「俺に協力しろ、苺子……! 今ここで俺と組むなら、この業界で成功を掴む方法を、教えてやる……!」

 

 ギラついた瞳。苺子は、その瞳の奥にある焦りに似た感情を見抜いていた。ここに来るまでに何があったかは知らないが、継本流壱は、今とても余裕がない状況らしい。

 ……かつては、仕事のパートナーだった。苺子がステージの上で歌い、流壱がステージの裏で見守る。そして苺子が歌い終わると、流壱は「まだまだ練習が足りないな」と厳しい言葉や、「今日は良かったぞ。苺子」と優しい言葉を、いつもかけてくれた。自分の本質をしっかり見ていてくれる……高校生だった頃の苺子にとって、流壱はそんな大人だった。あの頃は、流壱を信頼する気持ちも、間違いなくあった。

 そんなかつてのパートナーに、苺子は近づいた。


 「アンタに協力しろ、だって?」

 「ふははっ! ハァ、ハァ……昔を思い出すよなァ、苺子……!」

 「ふざけんなっ……!」

 「あァ?」

 

 バチンッ!!

 情け容赦のない平手打ち。


 「消えてくれ……!! アタシの前からっ……!!」


 苺子は目に涙を浮かべながら、流壱に向かって吠えた。


 「最低だ……! アンタ、最低だよっ!!」

 「ぐぅっ……!? な、なんだとっ!?」

 「もう終わりだ!! アタシの中で、アンタを消すっ!! 二度と、そのツラを見せないでくれっ!!」

 「……!」

 「雪乃から手を放して、さっさと消えなっ!! このゴミクズ野郎っ!!」

 「そうか……! 所詮(しょせん)、苺子もガキだったか。ふははっ、望み通り、雪乃から手を放してやるよ。だが、消えるのはテメェの方だっ!!」


 そう叫ぶと、流壱は苺子に飛びかかった。

 それと同時に、蹴りを一発。腹部に打ち込まれ、苺子は「うっ……!」という声をあげて体勢を崩した。男と女では、やはり力の差が大きいということなのか、その後は反撃する間もなく、苺子は力づくで地面に押し倒されてしまった。


 「()っ……たぁ……!」

 「ハァ、ハァ……。協力しないと言うなら、俺はテメェの口を塞がなきゃならない。まあ、口を塞ぐと言っても、色々な方法があるが……」

 「あ、アタシを、どうするつもりだっ!」

 「そうだな。まずは()()らしをさせてもらおうか」

 「憂さ晴らし……!?」

 「俺ァ、殴られっぱなしでよ。ストレスが溜まってんだ。ふははっ、お前の身体(からだ)が役に立ちそうだな」

 「アタシの身体っ!? な、何を考えて……」


 流壱は太い右腕で、苺子が着ているブラウスをぶちぶちと引き裂いた。すると、イチゴ柄のブラジャーに包まれた胸の双丘が晒し物にされ、(オス)の劣情を煽るように揺れた。


 「ふはははっ。なかなか良い身体になったじゃねぇか」

 「きゃあっ!? 胸がっ……!」

 

 流壱は、もう理性を失っている。

 苺子は顔を紅潮(こうちょう)させ、羞恥(しゅうち)に悶えた。


 「7年前は、まだ女子高生だったよなァ、苺子は。あの頃から魅力的な体つきをしていたが、まさかここまで(みの)るとは」

 「嫌ぁっ……! 継本さんっ、やめてっ……!」

 「さっきまでの威勢はどうした? 強気な態度はどうした? ん? ほら、生意気な口をきいてみろよ。クソガキが」

 「いやだっ……。アタシ、こんなっ……」

 「ふはは、女の顔をしてるじゃねぇか。もっと泣いてもいいんだぜ? その方が、俺ァ興奮するもんでな」

 「はぁっ……はぁっ……」

 

 狂人。苺子はもう流壱を見ていられなくなり、涙を流しながら顔をそらした。

 しかし流壱は、それでも求めてくる。


 (苺子ちゃん……!)

 

 ……()()()()()が、目の前で苦しんでいる。男の人にムリヤリ押さえつけられて、服まで脱がされて、助けを求めている。それを放ってはおけないと、苺子の友達は立ち上がった。

 流壱は、苺子を襲うことに必死で、まだ自分の背後に立つ存在に気がついていない。


 「下も脱がせてやるよ。へへっ、暴れるなよ、苺子」

 「い……けっ……」

 「あァ? なんか言ったか?」

 「いけっ……!」

 「なんだよ。俺に言ってるわけじゃねぇのか。じゃあ、誰に……」

 「思いっきりいけっ!! 雪乃っ!!」

 「雪乃っ……!? そういえば、アイツどこに」


 流壱が振り返ると、そこにいた。雪乃はさっきからずっと、そこに立って準備していた。

 両手で、エレキギターを持っている。小学6年生の女子にとっては、まだまだ重い物体であろう頑丈なエレキギターを持ちながら、大きく振りかぶっている。ロックシンガーには、ギターを叩きつけて破壊するパフォーマンスというものがあるが、まさしくそれをやる時と同じポーズで、雪乃は今、大きく構えているのだ。あとは、全力で振り降ろすだけ。


 「苺子ちゃんを、いじめるなぁああーーーーっ!!!!」


 バキィッ!!


 ────────

 ────

 ──

 

 *


 「というわけなんだよ。風太くん」

 「そうなんだ……」


 あれから一日が経ち、その日は平日。

 月野内小学校。6年1組の教室。2時間目の特別活動の授業の時、雪乃は昨日の出来事を『風太(ミハル)』に話した。机の上には、ボッキリとへし折れた、ハート型エレキギターを置いて。


 「後悔はしてないけどね。ギターちゃんのおかげで、苺子ちゃんを守れたわけだし」

 「それから、お父さん……じゃなくて、継本って人はどうなったの?」

 「目を回して、気を失ったみたい。苺子ちゃんは『あとはアタシが片付けとくから、雪乃はもう帰りな。怖い思いさせてごめんな』って言ってた」

 「そっか……。ごめんね、雪乃ちゃん。あなたにも迷惑かけて」

 「え? どうして風太くんが謝るの?」

 「娘……じゃなくて、知り合いだったの。その継本って人とは。全然仲良くない、遠い昔の、ずーっと昔の知り合い!」

 「ふーん、そうなんだ。わたし、殴っちゃってよかったのかな?」

 「もちろん。わたしも殴りたいと思ってたくらいだもん。雪乃ちゃんがやっつけてくれて、気分がスッキリしたよ」

 「えへへ、それならいいかな」

 

 父親ではなく、一人の悪人が成敗されただけ。美晴は、すっかりそう思えるようになっていた。そして、継本流壱が無事に大人の手に引き渡されたことを、心の中で喜んだ。


 「ねぇ、雪乃ちゃん。歌手の話はどうするの?」

 「歌手? スカウトされたこと?」

 「うん。苺子さんって人の話、受けるの?」

 「そっちは考え中。やりたい気持ちはあるけどね。まずは、ママに相談しなくちゃいけないし、それに……」

 「それに?」

 「ちょっぴり怖い世界だなって、思っちゃって」

 「そっか……。そうだよね、誘拐されそうになったもんね」

 「ゆっくり考えてから決めるよ。……風太くんは、わたしが歌うの上手くなったら、嬉しい?」

 「えっ!?」

 「もし上手くなったら……わたしの歌、聞きたい?」


 雪乃の質問に対して、美晴は『風太』としての答えを探した。


 「き、聞きたい……よね? ううん、きっと聞きたいと思う! 聞きたいよ、雪乃っ!」

 「ほんとっ!? えへへっ、そうなんだぁ」

 「あの人なら、きっと雪乃ちゃんにそう言うハズだもん……」

 「えっ? 風太くん、何か言った?」

 「ううん、なんでもない」


 美晴の心に、少しだけモヤモヤした感情が生まれた。雪乃は魅力的な自分を見つけ出そうと努力してるのに、自分は何もしていない……という、劣等感のような気持ちだ。美晴は、まだまだ自分は雪乃と張り合えるような存在ではないと、(かな)しく悟った。


 「どうしたんだ、風子(フウコ)ちゃん。そんな顔して」

 

 一つ前の席に座っている、健也(ケンヤ)という少年。こちらにくるりと振り返り、心配して声をかけてくれた。とても暖かくて優しい言葉……ではない。


 「うん。ちょっとね、考えごとを……って、風子ちゃんっ!!? 誰がっ!!?」

 「お前に決まってるだろ。帰ってきてくれて嬉しいぜ、メス風太」

 「わ、わたしっ、メス風太じゃないっ!」

 「『わたし』って言ってるじゃん」

 「おれっ! おれは、メス風太じゃないっ!」

 「いやいや、否定すんなよ。お前は、その路線の方が、キャラが濃くてちょうどいいんだ。クラスのみんなも、今日は男の風太が出るか、それとも女の風太が出るかって、楽しんでるんだぞ」

 「わたし、そんな風に思われてるんだ……。え、演技力をあげなきゃっ! 風太くんに、もっとなりきらないと……!」

 「まあいいや。そんなことより、ほら、プリント。あとは、お前と雪乃の名前だけだぞ」

 「名前……?」

 

 健也が差し出したプリントには、名前を書くための空欄(くうらん)が二つあった。

 そのプリントの名目は……「6年生の修学旅行 第一班 メンバー表」。

 

 「しゅっ、修学旅行っ!!?」

 「なんだよ、いきなり大声だして」

 「違うっ、忘れてたのっ! 修学旅行のことっ! 健也くん、この修学旅行って、いつだっけ!?」

 「来週……だけど。おいおい、大丈夫かよ風太」

 

 完全に忘れていた。入れ替わり騒動に関するアレコレで忙しくて、修学旅行のことなど、気にも留めていなかった。

 知らぬ間に、旅行の計画はもう全て決定していたらしい。あとは、名前を書き入れるだけ。


 (風太くん、大丈夫かな……)


 『風太(ミハル)』は『美晴(フウタ)』の身を案じながら、メンバー表のプリントに、少年の名前を書き入れた。


 6年1組 第一班 メンバー表

 ・ 健也(ケンヤ)

 ・ (ソラ)

 ・ 笑美(エミ)

 ・ 緩美(ユルミ)

 ・ 雪乃(ユキノ)

 ・ 風太(フウタ)


 *


 残念ながら、『風太』の予感は的中していた。

 恐れていた事態が、隣の6年2組の教室では起こっていた。


 「なんだよ……これ……」


 修学旅行が来週に迫っていることを聞かされた『美晴』も驚き、メンバー表の名前を見て、愕然(がくぜん)としていた。プリントに名前を書き入れることすらためらわれる……そんな現実が、目の前にあったからだ。

 クラスの余り物である『美晴』が、誰からも避けられる『戸木田美晴』が、修学旅行の班を、自由に選べるはずがない。


 「いいパンチだったよ。美晴ちゃん」

 

 蘇夜花(ソヨカ)の甘い声。

 『美晴』の耳元に、そっと置かれた。


 「ふふっ。楽しもうね、修学旅行」


 6年2組 第一班 メンバー表

 ・ 蘇夜花(ソヨカ)

 ・ 五十鈴(イスズ)

 ・ (カイ)

 ・ 真実香(マミカ)

 ・ 牟田(ムタ)

 ・ 

 

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