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おれはお前なんかになりたくなかった  作者: 蔵入ミキサ
第十四章:風太6歳 美晴4歳
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“迅雷少女弾”


 誰かの大きな背中。少女を軽くおんぶできるほどの、力持ちな男の背中。『美晴』はその背中で、パチリと目を覚ました。


 「ん……」

 「気がついたか?」

 「うん……。ん……?」

 

 目覚めたばかりで、まだ意識がハッキリしない『美晴』に、優しい声をかけてくれる。

 暖かい瞳で、『美晴』を見守っているのは、一羽の鳥。


 「と……!? 鳥ぃっ……!? 鳥だっ……!!」


 鳥の顔が、目の前にある。


 「鳥じゃない」

 「鳥……じゃん……!!」

 「違う。私の名は、正義の味方サンダァアーーーーーーバァアーーーード、マンッ!!!」

 「うわっ……! この……鳥……うるさい……な……!」

 「だから、鳥じゃないって。私の名は、正義の味方サンダ」

 「わ、分かった……! 分かった……から……! ちょっと……静かに……してよ……。寝起き……なんだ……」

 「ふむ。静かにしてやろう」

 「あれ……? でも、この声……って……、どこかで……聞いたこと……ある……ような……?」

 

 『美晴』は自分の記憶を辿り、この鳥と同じ声を持つ人物を探した。男で、高校生くらいで、いつも高圧的な態度をとる……。


 「もしかして……雷太兄ちゃん……?」

 「……!」

 

 鳥のマスクを被っているのに、『美晴(フウタ)』はそいつを、自分の兄だと感じた。さらに背中にペタペタと触れ、その大きな背中が兄のものであると、確信まで持った。


 「雷太兄ちゃん……だ……! 雷太兄ちゃんだよね……!?」

 「ち、違うっ! 雷太兄ちゃんなどではない! 私の名は、サンダァーーー」

 「やっぱり……雷太兄ちゃん……だ……! 声で……分かるし……! 雷太兄ちゃんに……おんぶされてる……のか……、おれは……!」

 「おい! 違うと言ってるだろ! 私の名は、サンダァーーー」

 「なんで……鳥の……マスクを……被ってる……の……? なんで……裸なの……? なんで……おれは……雷太兄ちゃん……の……背中で……寝てたの……? 雷太兄ちゃん……! 教えてよ……!! 何が……あったのか……を……!」

 「うるせぇ、この野郎っ!!」


 サンダーバードマンは、正義を(つかさど)る大きな(こぶし)で、背中に負った少女の頭をポカっと殴った。

 

 「いてっ……! な、何するんだ……!」

 「お前がうるさいから殴ったんだ。背中で騒ぐな」

 「殴ること……ないだろ……!? そっちだって……うるさかった……くせに……!」

 「黙れ。殴られたくなければ、私のことはサンダーバードマンと呼べ。いいな?」

 「わ、分かったよ……。サンダーバードマン……」

 「よーし。それでいい。私は正義の味方、サンダーバードマン。お前を助けに来たのだ」

 「おれを……助けに……? 本当……?」

 「ああ、本当だ」

 「でも……、今……おれを……殴った……じゃん……。正義の味方……なのに……」

 「それはお前が悪い。反省しろ」

 「うーん……なんか、イヤなやつ……。あんまり……助けて……ほしく……ないなぁ……」

 「何を言うか。私が来なかったら、お前は今ごろ、どこかに連れ去られていたんだぞ」

 「連れ去る……? 誰に……?」

 「ふむ、少し混乱しているようだな。では、現在の状況を、お前に説明してやろう。とりあえず、私の背中から降りろ」

 

 『美晴』はサンダーバードマンの背中から離れ、大地に降り立った。

 辺りをきょろきょろと見回してみると、車がまばらに数台停まっており、ここがファミレスの駐車場だということを、思い出させてくれた。


 「そうだ……! おれは……継本流壱に……捕まって……、こんなところ……まで……連れてこられて……たんだ……!」

 「その通り。ここは夜の駐車場。そして、正面を見てみろ」

 「正面……?」


 サンダーバードマンが指差す方向。『美晴』は正面を見た。

 するとそこには、一人の怒り狂った男がいた。


 「ハァ、ハァ……。クソ鳥野郎、いい加減にしろよ……! 美晴を、俺に、寄越(よこ)せっ! ハァ、ハァ……ゲホゲホっ!」

 

 継本流壱。もう美晴の父親とは呼べないあの悪党が、そこにいた。ハァハァと息を切らし、ひどい量の汗を流している。顔は真っ赤になり、瞳は今にも人を殺してしまいそうなくらい血走っている。

 その様子を見た『美晴』は驚き、サンダーバードマンに尋ねた。


 「継本流壱……だ……! おれを……連れ去ろうとした……ヤツ……! すごく……怒ってるけど……、かなり……疲れてる……みたいだな……。なんで……??」

 「ヤツの手からお前を取り返し、私はお前を背負った。そしてヤツを挑発しながら、ヤツの攻撃をひたすら華麗に()けたのさ。ひらりひらりとな」

 「避けた……!?」

 「ああ。普段から体を鍛えているバスケットマンの私と、ただの中年のおっさんであるヤツとでは、体力の差は歴然。お前をおんぶしながらでも、私は余裕で追いかけっこに勝った」

 「そういうことか……! じゃあ……、早く……ここから……逃げよう……! 継本流壱の……体力が……回復する……前に……!」

 「いや、逃げ切れないだろう。ヤツには自動車がある」

 「そうか……。じゃあ……ここから……どうする……? 作戦を……教えて……よ……! サンダーバードマン……!」

 「そうだな。ここは正義の味方らしく、悪党をやっつけるなんてどうだ?」

 「えっ……!? 継本流壱を……倒す……の……!?」

 「ああ。天才的な戦略が、私の頭の中にある。我々を、必ず勝利に導くだろう」

 「おお……!」

 「しかし、私一人では実行できない作戦なんだ。だから……協力してくれるか?」

 「きょ、協力……? 雷太兄ちゃんと……おれが……?」

 

 『美晴(フウタ)』は、心が熱くなるのを感じた。

 素直に嬉しかった。「出来損ない」とか、「愚弟」とか、「劣等」とか、色々言ってきたあの雷太兄ちゃんが、今は自分を頼ってくれている。自分の力を、必要としてくれている。こんなことは初めてで、やっと男として実力が認められたような気がした。お前は二瀬雷太の弟だと、そう言ってくれてるように感じた。


 「うん……! 協力……するよ……! おれは……、何を……すれば……いい……? サンダーバードマン……!」


 しかし、『美晴』の喜びは、この一瞬だけ。


 「よし、分かった。いいか、よく聞けよ?」

 「うん……!」

 「まず、私がお前のケツを蹴る」

 「え……?」

 「おい、聞いてるのか?」

 「ごめん……聞こえなかった……。もう一度……言って……!」

 「まず、お前のケツを思い切り蹴り上げる」


 『美晴』の心に湧き上がった熱い感情は、冷水(ひやみず)をぶっかけられてすぐに消えてしまった。


 「はあぁ……!? おれの……おしりを……蹴るっ……!? なんでっ……!?」

 「飛ぶためさ。鳥のようにな」

 「いやいや……! 意味が……分からないっ……!」

 「私がお前を蹴って、空へと飛ばす。お前はその高さと勢いを利用して、あのおっさんにトドメの一撃をお見舞(みま)いしてやれ。いいな?」

 「よくないっ……!」

 「大丈夫だ。優しく蹴るから」

 「なんで……蹴るんだよ……! その……説明を……しろ……!」

 「私は手を出せない。バスケットマンだから、暴力(ぼうりょく)事件(じけん)を起こしちゃいけないんだ。なので、お前にやってもらう」

 「だからって……、蹴らなくても……いいだろ……! 両手で……持ち上げて……放り投げる……とかさ……!」

 「相手にキャッチされたらどうすんだよ。いいか、こういうのは勢いが大事なんだ。蹴る、飛ぶ、必殺パンチでいくぞ。覚悟決めろ」

 「わ、分かったよ……! やってやる……! 大きく……深呼吸して……すぅー……はぁー……。よ、よし……! 来いっ……!」


 ぷりっと、お尻を少し突き出す。発射準備はこれで完了。『美晴』はぎゅっと目をつぶって、その時を待った。

 サンダーバードマンは、トントンと軽くステップを踏み、少女を数メートル先のおっさんの元までぶっ飛ばす準備を始めた。

 

 「さあ行け。我らが共演、究極(きゅうきょく)電磁砲(でんじほう)。“迅雷少女弾サンダーガールバレット”……!」

 

 右脚、左脚、そして右脚は、(くう)(つか)む。跳ぶ、跳ぶ、飛ぶ。最後は右脚で強烈な、強ーーーーぅ烈なっ、インパクト。


 「いいいいいぃっ……!! いったぁああっ……!!」

 

 ボゴォッ!!


 ────────

 ────

 ──

 

 *

  

 夕方を過ぎ、夜になった公園。その公園の名は、やまあらし公園という。

 鳥のマスクを被ったヒーロー気取りの大男と、ヒリヒリと痛むお尻をさすっている少女は、二人で並んで歩き、公園のベンチまでやってきた。とりあえずベンチに座る……ことはできなかったので、大男は少女をベンチに寝かせることにした。


 「いやあ、ナイスコンビネーション。必殺パンチが炸裂したな」

 「……」

  

 むすっ。

 

 「悪党を、一撃でノックアウトだ。これで一件落着だな」

 「……」


 少女は眉間(みけん)にシワを寄せ、むすっとした顔をしている。


 「お、怒ってるのか?」

 「あんなに……強く……蹴らなくても……よかった……のに……!」

 「いや、その、悪かったって。本気の本気で、ごめん」

 「痛い……! 痛いぞ……! おしりが……痛い……!」

 「ぐぅ……。だ、だから、謝ってるだろ」

 「あー、痛い……! 最悪だ……! 高校生に……蹴られた……!」

 「悪かったって言ってんだろうが!! 何が望みなんだ!? 何でも言うこと聞いてやるから、許せよっ!!」

 「ふーん……。じゃあ、許して……やっても……いいけど……」


 なんとなく、兄の(あつか)(かた)が、弟にも分かってきた……かもしれない。少なくとも、今はもう遥か遠くの存在じゃない。変なマスクを被ってはいるけれど、ちゃんと近くにいてくれている。

 しかし……。


 「とにかく勝ったんだからいいだろ! ほら、グータッチ」

 「うん……!」

 「サンダーバードマンと、えーっと……美晴ちゃんの、勝利に」

 「美晴……ちゃん……?」

 「名前、合ってるだろ? 違ったか?」

 「ああ、うん……! 合ってる……と……思う……」


 雷太と話してるうちに、風太はすっかり忘れてしまっていた。今の自分が、『美晴』であることを。つまり、雷太は目の前にいる女の子を、自分の弟だと認識していない。


 (そっか……。雷太兄ちゃんは、おれのことを美晴だと思って、話しかけてたんだ……)


 距離はかなり縮まったと思ったが、まだ一枚の壁があった。その壁は想像以上に高く、分厚く、風太の気持ちに(かげ)を作るには、充分な大きさだった。

 ほんの少しだけ、心が(くも)る。


 「小学生の、女子だよな? 女だろ?」

 「うん……。おれは……じゃない、わたし……は……『美晴』……」

 「きっと、良い女になるぜ。俺が保証してやる」

 「えっ……? 本当……?」

 「ああ。うちのマネージャー、真音(マネ)と同じくらい上等な女になる。あと5年もすればな」

 「そっか……。は、はは……」


 心の中で、首を横に振る。そして、「それでもいい」と、風太は開き直って笑った。

 今だけは、『美晴』として見られても構わないと思った。


 「雷太兄ちゃん……!」

 「ん? どうした?」

 「雷太兄ちゃん……って……呼んで……いいの……? 設定、もう……忘れたの……?」

 「はっ! そうだ……! 私は雷太兄ちゃんなどではないっ! サンダーバードマンっ! 正義の味方っ!」

 「サンダーバードマンっ……!」

 「ふむ。なんだ、少女よ」

 「雷太兄ちゃんに……伝えて……ほしい……ことが……あるんだ……!」

 「よし、伝えてやろう。言ってみろ」

 「母さんに……一言……! 『お弁当、残してごめんなさい』って……! 謝ってくれ……! それが……、パフェ早食い対決で……勝った……おれたち二人からの……願いだから……!」

 「分かった。もし雷太くんに会ったら、母親に謝るように伝えよう」

 「ありがとう……。サンダーバードマン……」

 

 ようやく尻のダメージが回復した『美晴』は、ゆっくりと身体を起こし、ベンチに座った。

 サンダーバードマンは、その様子を見届けると、静かに立ち上がった。


 「どうやら回復したようだな。これで、私の仕事は終わった」

 「もう……行っちゃうの……?」

 「ああ。そしてもう二度と、お前たちを助けには来ない。サンダーバードマンの出番は、今夜が最初で最後なのだ」

 「そっか……」

 「心配はいらない。お前たちなら大丈夫だ。俺に……じゃない、雷太くんに勝った時のように、二人で力を合わせて乗り越えていけ」

 「うん……!」

 「では、私はこれにて失礼する。もうすぐ、ここに風太が来るハズだから、美晴ちゃんはそいつと合流して、自宅まで送ってもらえ。いいな?」

 「分かったっ……!」

 

 ハハハと高笑いしながら、サンダーバードマンは走り去ろうとした。雷のように(はや)く、空を舞う鳥のように華麗に。

 しかし数歩ほど走って、いきなり立ち止まり、くるりと振り返った。


 「すまーん! 一つ、言い忘れてたー!」

 「なにー!?」

 「美晴ちゃーん! 風太に会ったら、伝言を伝えてくれー!」

 「伝言ー!?」

 「『早食い対決もいいが、次はバスケットボールで勝負しよう! それまでに、俺を超えられるように、たくさん練習しておけ! 凡百(ぼんぴゃく)な弟よっ!!』となっ!!」

 「分かったーっ!」

 「では、今度こそ本当にさらばだっ!! ワハハハハハ!!」

 

 ハハハと高笑いしながら、サンダーバードマンは公園の奥へと消えていった。

 もう二度と、彼が現れることはないと知りながらも、風太は喪失感(そうしつかん)など微塵(みじん)も感じず、クスクスと小さく笑った。


 「『凡百』、かぁ……。ちょっと……だけ……格上げ……かな……?」

 

 そして、少し時間が経ってから、公園に『風太』がやってきた。『風太』は『美晴』の姿を見つけると、すぐにベンチに駆け寄って来て、隣にドカッと座った。


 「風太くんっ!」

 「おう……、美晴か……? 大丈夫……だったか……?」

 「わたしのことはいいんですっ! 風太くんこそ、大丈夫でしたか!? 何かされませんでしたか!?」

 「大丈夫……。無事に……逃げ切った……。ケガも……してない……。お前が……サンダーバードマンを……呼んでくれた……おかげだよ……」

 「サンダーバードマン? わたしは、風太くんのお兄ちゃんとマネージャーの真音さんに、助けを求めただけですけど……」

 「真音さんは……どこに……?」

 「真音さんは、警察に電話をしてくれました。『小学生の女の子が、男の二人組に誘拐されそうになってる』って。今ごろ、ファミレスで警察の人に事情を……」

 「そうか……。やっぱり……高校生って……すごいな……」  


 雷太と真音は、それぞれが何をすればいいかの判断を瞬時に下し、実行に移してくれたのだ。高校生の二人は、とても心強い味方だったと、『美晴』は改めて実感した。


 「真音さんは、『もしも美晴ちゃんが無事だったら、そのまま家まで送ってあげて』って、言ってましたけど……」

 「雷太兄ちゃん……も……同じこと……言ってたな……。あとは……高校生に……任せて……、おれたちは……もう……帰ろうか……」

 「あ、でもっ! 今日のこと、まずお母さんに報告(ほうこく)しておきたいですっ!」

 「じゃあ……病院に……寄ろう……。もちろん……二人で……一緒に……な……」

 

 今回はなんとかなったが、まだまだ問題は山積みだし、邪魔してくる敵も多い。まとめて解決する手段はなく、一つ一つ、乗り越えていくしかない。雷太が教えてくれたように、二人で力を合わせて。

 

 「ふぅ……」

 

 ぐっとノビをして、息を吐き出す。

  

 「『美晴ってやつは……存在すら……望まれてない……』、って……」

 「うん。わたしも、美晴なんか消えたほうがいいと思ってた」

 「そんな……わけ……ないから……な……? 勝手に……いなくなるな……。ここに……いろ……」

 「はいっ。あなたという、騎士のそばに」


 風太のヒーロー気取りのカッコつけと、美晴のお姫様ぶったメルヘン脳は、実はすこぶる相性がいい。それに本人たちが気づけば、もう少し距離が縮まるかもしれない。


 *


 ところ変わって、ここは二瀬(ふたせ)()。風太の実家である。

 ガチャッと音を立て、誰かが玄関の扉を開けた。風太のお母さんこと「二瀬(ふたせ)守利(マモリ)」は、帰宅した小学生の息子を出迎えるつもりで、玄関までやってきた。

 

 「フウくん、おかえ……」

 「あ……」

 

 フウくんじゃない方の息子が、玄関にいた。


 「え!? ら、ライくんっ!!? ライくんなのっ!!?」

 「うわっ、うるせぇな」

 「ライくん、どうしたの!? 突然帰ってきて!」

 「声がデカいって。静かにしろよ」

 「なんで帰ってきたの!? 学生寮、追い出されちゃったの!? ライくんのことだから、きっと隣人とトラブルになったのねっ!?」

 「違うっ!! 追い出されてねぇよっ! まるで俺を、トラブルメーカーみたいに言いやがって」

 「いや、ライくんはトラブルメーカーでしょ。いつもフウくんのこといじめるし、同級生に酷いこと言って泣かせたりするし。私は昔から、汚い言葉や暴言はやめなさいって、注意してるのに」

 「昔から……口うるさいババアだったなぁ、そういえば。とにかく今日は、ケンカをしにきたわけじゃないんだ。ただ、メシを食いに来ただけなんだよ」

 「メシ?」

 「風太と会って、色々あったんだよ。それで、なんか色々あって……。説明するのは面倒だな。とにかく、メシを食わせてくれよ。いつもの、変な野菜料理でいいからさ」

 「分かったわ。晩ご飯、作ってあげるわね。でも、その前に……」

 「ん?」


 ピシャッ!! バチンッ!! ベチンッ!! 

 激しい往復ビンタが、雷太の(ほお)を三度捉えた。


 「いてぇっ!? このクソババア、いきなり何すんだっ!!」

 「クソババア?」

 

 鬼。

 

 「ひぃっ!?」

 「お母さんに向かって……口うるさいクソババア、だなんて。しばらく会わない間に、また一段と口が悪くなったわねェ。ライくん?」

 「あっ……! いや、その……!」

 「(まな)息子(むすこ)には抱擁を。バカ息子には制裁を。それが、我が家のルール。忘れたとは言わせないわ」

 「い、言い間違えたっ……! 母さん、ごめんっ……!」

 「()ぇーーーっ(たい)に、許さーーーーーんっっ!!!」

 「うわぁーーーーっ!!? 助けてぇーーーっ!!!」


 雷太は、久しぶりに実家へ帰ってきたことを後悔した。

 

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