幕間 その28 呪いと治癒魔法
魔子が生み出す魔素を対価に六属性精霊と契約して魔法を生み出す。これはこの世界における基本原理である。魔法使いが魔素を対価に、外界のエレメントに干渉することで魔法を発動するのに対し、戦士たちは魔素を対価に、自身の体内のエレメントに干渉することで身体能力の強化を行う。これは、内と外どちらのエレメントの操作に長けているか、によって魔法の使い方が分かれているのであって、根幹的な力の源は魔素であることに変わりはない。
生物の体内のエレメントは宿主に隷属し、どれほどの魔素を以てしても、外部から宿主の体内エレメントへ直接干渉することは出来ない。これはつまり、生物の体内に直接火魔法を発動させ内から燃やす、といったことは出来ないことを意味するが、その反面、治癒魔法を他人へかけることの難しさを示している。
治癒魔法をかける場合、まず術者は対象者に触れる必要がある。軽い外傷ならばそれで治癒可能だが、大怪我となると体内のエレメントに深く干渉する必要が生まれる。その際使用されるのが、回復ポーションである。回復ポーションとは魔素を含んだ液体であり、服用することで体内エレメントを活性化させ、軽い毒や、疲労ならばこれのみで回復させる効果がある。術者の魔素が込められた回復ポーションを治癒魔法と併用して使用することで、対象者の体内エレメントへの干渉を可能にし、大怪我の治癒を実現している。
治癒魔法は、怪我や症状に合わせて六属性エレメントを繊細に制御する必要がある。そのため、属性の相性が大きな問題となり、極端に特定の属性を苦手とする場合、治癒効果は期待できない。近年の魔子回路によって解決できているのは、先に述べた軽い外傷を癒す程度までである。
この治癒魔法と全く同じ理屈で、全く逆の効果を生むのが、呪いである。対象者が呪いの装備を身に着けている程度ならば、取り外すか、破壊すれば解呪される。しかし、身体に刻まれた呪いの解呪は困難を極める。何故ならば、対象者生来のエレメントと、呪いのエレメントが複雑に絡み合う体内で、呪いのみを排除するという途轍もなく繊細で膨大な解呪魔法が必要となるからである。
呪いと治癒魔法にはもう一つ共通点がある。それはどちらも直接生き死にに干渉できない、という点である。どれほどの治癒魔法であっても死者を蘇生する力を持たないし、呪いには生者を直接死に至らしめる効果はない。意外なことだが、どれほどの呪いであっても、死にたくなるほどの苦痛を与える、までが限度なのである。
最後の決断は、あくまで生者の選択に委ねられている。




