幕間 その23 勇者教団
勇者教団とは、歴代の最強勇者を主として崇め、主の望むままに仕えることを教義に掲げる宗教組織である。主が正に神のごとき力を持つ勇者であることが、教団の信仰と結束を高めている。教義の上での最高権威は主本人だが、教団の組織運営を担う最高権威には大司教を据え、その下の七人の司教がそれぞれの役職長を担当している。大司教は都市の施政や、教団の方針決定、更には勇者の任命などを執り行うが、主の前では大司教ですら一信徒に過ぎない。
勇者教団は、タワーの魔法障壁を超える勇者を導き鍛える修練の場を起源としている。勇者へ与えられる特権も死地へと送り出すせめてもの手向けが発祥である。いつの時代においても、勇者教団は全てを歴代の勇者に授けてきたが、歴史の事実として、一人として帰還を果たした勇者はいない。
それから現代に至り、タワーの魔法障壁からの帰還方法が見つかったことが、勇者教団の役割に微妙な変化をもたらした。勇者への恭順を誓う力ある信徒たちを中心に、勇者と共闘する遠征部隊が組織され戦果を挙げた。これまで六度の魔界遠征を実施し、無事帰還を果たした。そして第七次遠征を計画中である。
現在の勇者を任命する基準は、特に優れた魔子を持つことが、まず必要な条件である。そして、その強さをもって人類に貢献、もしくはそれに代わる功績が認められる事で任命を受けられる。しかし、魔子の大きさだけでは人の強さの絶対基準にはならない。なぜなら、戦いを分析し、戦略を立て思考し、戦術を用いて勝負するのが人の戦いだからである。しかしながら、あらゆる人の試行錯誤を淘汰する絶対的な力を持ったクレメンタインの出現は、否応なしに教団にも変化をもたらした。
現在の教団は、勇者クレメンタインを主としており、クレメンタイン教団とも言われている。そのクレメンタインの元には、コートランド、モーレンズ、紅月の三騎士が仕える。この三人は何れも勇者の任命を受けるに値するほどの力と実績を持つが、あえて任命を受けず、クレメンタインから勇者の特権を授与される形を取ることで、主に対して絶対の忠誠を誓っている。
クレメンタインの影響力は教団内に留まらない。美しさも振る舞いも素養も礼節も、全てがまるで神の贈り物であるかのように、その存在自体が優雅でまばゆい輝きを放つクレメンタインは、教団とは無関係な者にも人気が高い。ミーヤもその一人である。クレメンタインの代となった勇者教団はその影響力によって、長い歴史の中で類の無い繁栄を迎えていた。
しかし、光り輝くほどに深く濃い影をもたらすこともある。現大司教のブレバーンは、勇者と教団の政治的なバランスを調整する手腕に長けた人物だが、クレメンタインという非凡な勇者を前に、しばしば頭を抱えている。タワー信仰を発祥とする勇者崇拝を受け継ぐ伝統派と、クレメンタインという究極の勇者への個人崇拝派の対立は、教団の舵取りを難しくさせている。




