幕間 その13 火竜亭の酔っぱらい
昼間から飲んだくれている火竜亭の酔っぱらいたちとは何者なのか。結論を端的に言えば、彼らは冒険者である。冒険者と言ってもピンキリで、彼らはキリの更に底にいる。彼らは魔法障壁を超え、魔界に足を踏み入れるほどの勇気も実力も持たず、かといって冒険をあきらめ、真面目に手に職をつけることもしない。日々を自堕落に過ごしている。悪党に成りきることもできない彼らは、冒険者崩れと言った方がより正確だろう。
そんな彼らの食い扶持は、訳アリの依頼、タワーの魔法障壁周辺の夜間警備、崩れた道や橋などを直す人足、彼らのコミュニティ内の相互援助など多岐にわたる。時には、人里に現れた野獣駆除なども請け負う。ただの野獣なら彼らでも問題なく対応できるが、野獣の中には稀に、強い魔子を宿した魔獣が生まれることがある。彼らも冒険者として一応の装備と能力はあるが、対峙する獣がそれ以下である保証はどこにも無い。そもそも、そこから逃げ出した連中であることは周知の事実であり、彼らの仕事は最初からそこまで期待されていない。彼ら程度で倒せるならば、それで良し。倒せず逃げ出した、逃げ出す間もなく食い殺された、その様な事態になれば、そういった情報を元にして、王国の軍事を司るクラウンナイツの討伐部隊が編成される。彼らは所詮捨て石に過ぎないし、彼らもそれを自覚している。




