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勇者様は裏切らナイ  作者: 世葉
第一幕 約束の指輪
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第24話 勇者様、まだ寝ている

 オレンたちに小鳥のさえずりが日の出を教える。二人は今日もとても心地よく目覚めた。二人は食卓でいつもの様にそろって食事を摂っている。オレンの昨日の疲れは相当なものだったが、それ以上に気分が軽い。ミーヤもミーヤで気分が良いようで、鼻歌交じりにみかんを食べている。(兄は勇者が好き。と分かったことがそんなに嬉しいのだろうか?)と、オレンは心の中で少し戸惑う。

「なぁミーヤ。この国の有名な勇者ってさ、どんな人がいるの?」

 オレンは興味本位に少し遠回しに話題を振ってみる。

「ふ~ん。やっぱり気になる? まあそうよね~。いいわよ、教えてあげる。」

 と、ミーヤは昨日から相変わらずで、ニタニタと粘着性が高い。

「まず、『メティスの大盾』よね。リーダーのブラッド、美剣士の陸奥、それに家に来たエルフのルーナさんに、あとは、魔法使いのヒナさんとか、ヒナさんとか、ヒナさんとか?」

 オレンは笑顔で聞いているが、心の中では(妹じゃなかったら殴りたい!)と歯噛みする。

「このパーティーの戦闘力は相当なはずよ。六色ワンドを手に入れて、攻守に隙も無いんじゃないかしら。」

 しかしそこは流石のミーヤ、情報の分析は冷静で的確である。

「次に、『コハクフクロウ』。この人たちは大盾に比べると戦歴は地味だけど、縁の下の力持ちって感じ? 魔子回路を開発した功績は輝かしいものよ。これが無かったら、私のカカマジもやれないもの。」

 と言い、テーブルのスピーカーをポンポンと叩く。

「タワーの向こうから帰ってくる方法だって、この人たちの仲間が考えたはずよ。さしずめ、頭脳派勇者ってとこかしら?」

 それを聞いて、ミーヤは魔法障壁とその突破法について知ってたんだと、オレンは気づく。しかし、その程度の事は学校で習う事なのかと思い、あえて言及しなかった。その代わり、オレンは昨日の出来事を正直に話した。

「昨日、その人たちに会ったよ。」 「あらそうなの?」

 オレンの報告に対して、ミーヤの反応は意外とそっけない。クレメンタイン一筋を自称するだけあって、他の勇者に対しての興味は薄いようだ。実際に会えば、ルーナの時の様になるのかもしれないが…。

「あとは、『塩の天秤』。最近一気にのし上がった、この国で一番新しい勇者パーティーね。でも、リーダーのカラダリンは大商人ってこと以外よくわからないのよね。」

 ミーヤはお手上げという仕草を見せる。オレンは、まだ知らない勇者の情報を聞いて、興味を持った。

「よくわからないんだ?」

「…なんてゆーかね、色んなところに名前が出てきて、逆に何やってるのかわからないのよね。そういう意味じゃ成り上がり商人らしいんだけど、勇者の地位は金で買ったとか、実は裏社会を牛耳るボスなんて噂もあるし、かと思ったら慈善事業もしてるみたいだし…。」

「へー…。」

 オレンは確かによくわからない人物像に納得したが、一方でそんな人物が勇者であることを不思議に思う。

「で! 最後は、勇者の中の勇者、クレメンタイン様! 今更、説明するまでもないけど教えてあげる。って私がクレメンタイン様のことを語ること自体恐れ多いことなんだけど、聞かれたからにはしょうがないわよね。クレメンタイン様は、勇者の中でも一番特別な存在なの。勇者教団が認める歴代最高の勇者! 誰もが羨み女神さえも嫉妬する美貌!! その足元に傅くのは、姫を守護する三人の騎士!!! 他にも他にも、稀代の歌姫! 料理の天才! 容姿端麗! 才色兼備! 珍魚落雁! 形容する言葉は数知れず、はぁ~、ホント夢みたいな存在よね。」

 ミーヤは食べているみかんを吹き出さんばかりに、テンションを上げてとても早口で解説する。その姿は兄のオレンでも少し怖いと思う。

「今の勇者教団は『クレメンタイン教団』って言われてるわ。それほどクレメンタイン様の力は絶大で、誰一人異議を唱える者なんていないのよ。」

 勇者クレメンタインという存在は、前々からミーヤに聞かされて、ある程度は知っていた。といっても、勇者という存在が特別だったオレンにとって、その違いがどれだけのものなのか、いまいち分かっていなかった。しかし、勇者と少なからず関わりを持った今のオレンには、ミーヤの口ぶりから察するクレメンタインは少し怖いとすら思う。ミーヤを疑う訳ではなかったが、(あの人たちが到底敵わない勇者とは、一体どれほどの力を持っているんだろう?) という疑問が脳裏に浮ぶ。だが、それを聞くと、更にミーヤの炎が燃え上がりそうなのを恐れて、少し話題を変えてみることにした。

「…そのみかんさ、美味しいの?」 その疑問は、昨日のヒナにも感じたものだった。

「え? 美味しいわよ。」 ミーヤはいきなり話題が変わって、少し怪訝に答える。

「そっかー…。」

 そう言って、オレンはミーヤが剥いたみかんを一房取って口に入れる。これまで何度も試した結果と変わらない、何とも言い難い刺激が口を襲う。それは、美味いと形容するのは難しい味であることは間違いなかった。

 オレンは今まで、母親の思い出を大事にしたい妹が、無理しながらみかんを食べていると思っていたが、ヒナとミーヤの反応を見て大きな違和感を感じた。(ひょっとして母さんも、美味いと思っていたのかな?) そんな疑問が生まれたが、今のオレンに答えは分からなかった。

「はい、ほら、もう仕事しないと。」 そうこうしていると、ミーヤが急かす。

「ほいほい。じゃ、行こっか。」

 二人は日課のリンゴの収穫を行うため、果樹園に向かう。気持ちの軽さも手伝って、仕事も軽く運んだ。いつもの通りに仕事を片付け、そのあとミーヤは学校に向かった。残ったオレンは片付けをしながら、次の仕事の準備を行う。圃場に残った今年のリンゴは、もうあと残り三割といったところだ。

「最近色んなことがあるけど、この仕事だけはちゃんとしないとな。」

 全体を見渡しながら独り言を呟く。これまでの思い出とここ数日の出来事、色々な想いが頭の中で揺らぐ。思いを巡らす中で、オレンは昨日の夜、寝る前に見た母の日記を思い出した。


”今日は少し調子が良かったので、果樹園を少し歩いてみた。オーシュは心配したけど、オレンとミーヤが支えてくれるから、と説得した。晴れた日差しと、良く実ったリンゴの香りが風に乗って、とても心地よい。子供たちと木陰で少し休憩する。ふと気づいたら、そこには小さな石碑があった。そこにあると知らなければ気付かないほど小さなもので、お墓の様にも見えるけれど、名はなくただ、短い古い言葉が刻まれている。オーシュに聞いても、昔からあって言葉の意味はわからない、と。この土地の守り神なのかしら? そう思って子供たちとお祈りした。”


 オレンはその記述を頼りに、石碑を探してみる。そして確かに、それはあった。みかんの木の元の石碑は、丁度陰に隠れ、確かに言われなければ気づかない場所にあった。当時の事をオレンは覚えていなかったが、この発見は母親と再会したような気持ちにさせる。オレンは信仰心に厚いわけでもないのだが、それでも、少し祈る。その石碑にはこう書かれていた。


”汝は我を知らざらば 汝は汝らを思ひぬべし”


 オレンの知識では解読は難しい。考えたところで、オレンには何が正しいともわからない。(「コハクフクロウ」の人たちなら分かるかもしれない、今度会ったら聞いてみよう。)と考え、仕事に戻った。

 この石碑や、みかんの味はオレンに新たな疑問を与える。それが意味のある問題なのかすら理解し難い疑問なのだが、今のオレンはそういった発見が、ただ楽しかった。

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