弟子③
実質前話の追記です。
自分とノクラミス氏が荷物の手配やお互いの連絡先などを簡単にやり取りし終えたのを見届けるや、ミネスはエリィオの頭を再びガシリと一撫でし、ノクラミス氏とジィグィに礼と別れを告げ(食事代は全額ノクラミス氏持ちになるようだ)、テーブルを囲む結界を抜け歩みを進めた。自分も同様に感謝と別れを告げ、エリィオに今後の生活について訊ねながら、それに続く。
「おい、判ったか!? 今の!?」
「休戦協定スルーして南西の緩衝地帯越えてウェルギスの前線部隊の奴らを皆殺しってマジかよ!? ヤバすぎんだろ!」
「いや、モリェカ山のミスリル鉱山第一層に未発見のルートがあるって話だぞ! ドワーフの遺した防衛機構を迂回する為に、隣の山を一つ吹き飛ばすらしい……」
「いや、ついに”銀影”が私兵部隊を設立するんだろ!? 俺は絶対に志願するぞ!」
「「マジかよ!?」」
どうにかして我々の会話から情報を得ようと周囲のテーブルで声を殺して控えていた客達は、各々が読唇によって得た情報について口々に語り合い始めた。熱を帯びた彼らによって、先程まで静まり返っていた薄暗い店内はにわかに騒がしくなる。しかし残念ながら、それらは全てジィグィの魔法、幻惑のフィルター越しの情報であり、全て各人の脳内でその潜在的な願望を元に生成されたデタラメである。
「あー、盛り上がってるとこ悪いが!」
与太話とはいえ、あんまり有る事無い事を言い広められても面倒なので、店の出入り口の扉に差し掛かった辺りで振り返り、一応釘を刺しておく。騒がしかった店内は再び水を打ったように静まり返った。視線が集まる。
「さっきまであんたらが見てた話の内容は全部幻惑、幻だからな! 実際は……」
むさい男たちが固唾を飲んで自分が次に放つ言葉を待っている。なかなかにおかしな光景だ。せっかくなので、勿体ぶりながら言葉を続ける。
「……叡智の継承の、近々実装される……俺と”銀影”の新カードについての話だ!」
言い放ち、店を後にする。還元者による地道な草の根社会貢献活動について、そろそろ一定の評価を得てもいい頃ではないだろうか。例えばそう、満を持してのカード化という形で……うん。隣を歩くエリィオが驚愕に目を見開いてこちらを見ているが、それほど見当外れな事は言っていないと言っても差し支えないほどの頑張りを見せている今日このごろであると自負してもいい頃合いであるからして――
「……………………」
「「「マジかよ!!!」」」
店内は再び熱狂に包まれた。
*
今度こそ話が進む……はず