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禁術使いの還元者  作者: モリヤスハルキ
5/15

弟子①

現場に向け出発する一行。

 王都を出て大通りをそのまま真っ直ぐ進んでいくと、すぐに大きな街道――アーディ街道に行き当たる。向かって右に曲がれば南西のエカド皇国へ、左に曲がれば北西のウェルギス王国へと続いていくこの街道の歴史は長く、大陸中央北部に連なるガルサコ山脈を越える数少ない交易ルートとして、古来より人々に重宝されてきた。

 

 そのちょうど中ほどに位置している青きエンジュ王国は山越えの要衝であり、同国を挟んで睨み合う両大国の緩衝地帯として幾度となく戦火に晒されてきた。それでも、街道を行き交う人やモノの流れは常に途絶える事はなく、それは休戦中とはいえ戦時である今でも変わらず続いている。


 大通りから見て正面、街道と交わる突き当たりに聳え立つ一際大きな建物はこの国で最大の宿駅であり、多くの荷運び人や馬、そしてそれを護衛する傭兵や冒険者で賑わっている。併設された酒場を訪ねると、言われていた通りすぐに目的の人物を見つけた。


「失礼、シニュスさんですか?」

 

「ああ、はいそうです。還元者様並びに”銀影”様、それと、お連れの皆様がた。お待ちしていました。シニュス=モリーです。お会いできて光栄です」



     ✳︎


  

 待ち合わせた黒髪の男、将威級(B級)冒険者シニュスと簡単に挨拶を交わし、情報を共有する。どうやら灼緋炎刃(クリムゾンエッジ)の護送には当時”蒼炎”以外に中堅どころの冒険者パーティが2隊雇われており、彼はその内の1つ、南方の風(サザンウィンド)のリーダーを務めていたらしい。


「今でも信じられないんです、サァクゥがあんな真似をするなんて」


 打ち合わせの後、酒場を出て宿場で手配した馬を待っていると、シニュスは目を伏せながらうめくように呟いた。サァクゥ、とは彼のパーティで治療役(ヒーラー)を担当していた魔法使いの女のことである。


 襲撃を受けた際、彼女は応戦する仲間達の背中に向け過剰治癒(オーバーヒール)――回復系統の攻撃魔法である。治癒力の過剰励起によって、対象の体組織を内側から破壊する上位の魔法だ――を放ちパーティを壊滅状態に追い込み、それが契機となって賊に灼緋炎刃(クリムゾンエッジ)の奪取を許すこととなった。


 その後、“蒼炎”によって盗賊達やもう一人の造反者と共に昏倒させられた後に捕らえられ、現在は国境付近の砦の牢に投獄されている、とのことだった。


「彼女とは話を?」


 自分にあてがわれた馬の手綱を受け取りながら、シニュスに問いかける。馬の首を撫でる。気性の穏やかそうないい馬だ。


「いえ……私は比較的軽症だったので、”蒼炎”(ガルエライ)さんが失踪してしまった後、砦から兵士を呼んで来て盗賊と彼女達を引き渡すまで立ち会ったのですが……意識を取り戻した後も彼女は酷く怯えていて……話しかけても震えているばかりで、何も聞き出せませんでした」


 シニュスは変わらず視線を落としたまま答えた。彼女とは同郷だったらしい。歳も近かったようで、色々と思うところがあるのだろう。


「精神操作か、はたまた脅迫か……彼女が潔白である可能性はいくらでもあります。いずれにしてもちゃんと調べてみない事には判りませんが……それまでは、彼女については一旦考えないでおきましょう」


 幸いこちらには暗示や洗脳などによる精神干渉の影響も読み解ける高位魔法、高位精神捜査ハイ・マインドスキャンを扱えるハーフエルフもいる。”蒼炎”を確保したら、次はその辺りの調査に入ることになるだろう。

 

「そうですね……すみません、お気を遣わせてしまって」


 シニュスはそう言って力無く笑うと、(あぶみ)に足をかけ一息に自分の馬に跨り、宿駅の外へと進み出た。他の者もそれに続く。


「皆さん、準備はよろしいですか。それでは、ご案内いたします」


 残りの者が街道に出てきたのを確認すると、シニュスは先導を切って馬を駆けさせた。ここから目的の場所までは、距離にしておよそ80キロほど、時間にして約3時間の行程となる。


 先頭をシニュス、その後ろに自分、そしてピアとエリィオの2人を乗せた馬が続く。殿(しんがり)はミネスだ。少年(エリィオ)がここに連れ来られるまでに一悶着あったのだが、それを語るには少々時間を遡る必要がある――。


     ✳︎



「どうかこのエリィオを、還元者様の下でお使い頂けませんでしょうか」


 半刻ほど前、貧民街の酒場にて。打ち合わせも済み、そろそろ出発すべく場をまとめようとした矢先、依頼人のノクラミス氏から突拍子もない”お願い”をされた。


「えっ、と……それはどういう……?」


 突然の事に面食らいながらも、どうにか尋ね返す。


(お使い頂く……戦略的な何か……囮? いや、そういう意味ではないな……還元者である自分の下で……いわゆる使用人……丁稚奉公……つまり……)


「このエリィオは(わたくし)、不肖セクィオ=ノクラミスの子ではありますが、年の頃13にして魔法の才明るく、よく気の付く自慢の息子です。きっとお役に立てるでしょう。是非とも、還元者さまの……お弟子に迎えて頂けませんか」


「お願いいたします!」


 父親の言葉を受け、息子(エリィオ)も頭を下げる。


(弟子かぁ……)


 急にそんな事を言われても困るというか……自分も還元者になって日が浅く、ミネスの弟子として絶賛鍛えられ中の身である。師としてこんな幼い子を教え導くなど、到底出来そうもないのだが……。

 

「いいだろう」


「おお! ありがとうございます!」


「ちょい!?」


 逡巡する自分をよそに、二つ返事で承諾するミネスに対して驚きのあまり思わず変な声が出る。


「弟子を持つことはお前の成長にも繋がるだろう。私にとっては、世話をしなければならないヒヨっ子がお前の他に1人増えたところで大して違いはない。それよりも……」


 ミネスはそこで言葉を切り、少年(エリィオ)に向き直る。


「弟子に入ると言った以上、それなりに覚悟は出来ているのだろうな」

☆試される少年の覚悟――!

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