古武道 大豪院流合気道術−1
時が経つのは早いもので、放課後
「じゃーねー、ばいばーい」
「また明日ねー、咲ちゃーん、カナタくーん、チェリー」
運動部が賑わい始めているグラウンド
校門を出て駅へ向かう数人のグループと別れ、カナタ、チェリー、そして咲は、徒歩での帰宅だ
「今日からは3人で帰れるね」
「いつも2人で帰っとるん?」
「毎日ってわけじゃないけどね」
「ふーん
それで2人が付き合ってへんゆうのも信じられへんわ」
「「ないない」」
身長172センチのカナタ
150センチないチェリー
1人セーラー服の、160センチの咲
凸凹トリオだが、見た目だけなら誰もが振り返る
チェリーとカナタは、学校から歩いて10分ちょっとのお隣同士
咲は少し離れるが、そこから5分もかからない場所に自宅があり、現在、敷地内に道場も建設中というバブルぶりである
すっかり仲良くなった彼女達(1人は戸籍上は彼)は、通学途中にある小さな公園に差し掛かった
「咲ちゃんが一緒なら、霧崎弱男が出ても安心だね、カナ」
「俺達、制服じゃないだろ」
何気なく言ったチェリーの言葉に、咲の表情が硬くなるが、それは一瞬
「どうかした?咲ちゃん」
チェリーはカナタの方を向いていた
咲の顔のこわばりに気づけたはずもない
だが、チェリーは咲に聞いた
「ん、んんー
偶然やろうけど、一昨日、近くで弱男が出たやん
惜しいことした思ってな」
「まだ制服代弁償させようとか思ってるのかよ
警察に任せとけば、そのうち捕まるよ
もしかして、弱男捕まえるために東京に来たんじゃないだろうな?」
咲の制服が切られて反撃した事件以来、近畿地方での弱男の犯行がなくなっている
一部では、咲にびびって逃げたとも噂され、御守り代りに、咲のブロマイドを持ち歩く者もいた
「でも、実際は危ないよ
ナイフ持ってるんだし」
チェリーが心配するように、傷つけられた者がいないとはいえ、それは“まだ”であって、いつ犯行がエスカレートするかはわからない
「アイツはたぶんやらん
服を切ることが目的や
理由はわからんけど」
「どうしてそう言える?」
下校中の学生が話す内容ではないが、咲の確信めいた言い方に、カナタは食いつく
「一昨日の事件、聞いたやろ?」
2人が軽く頷く
一昨日の事件
近くの高校の生徒の下校途中
制服を切られた男子学生は、臆することなく犯人を追いかけた
しかし、途中で見失ってしまったらしい
この男子学生は、陸上部の短距離のエースで、都大会でも決勝に残るほど足に自信があったのに
公園の入り口にある、フェンスによしかかる咲
チェリーは、小さなキノコの形をした門に腰掛けた
「捕まらへんねん、アイツ
ちょっと普通やない
いきなり現れて、いきなり消える」
少し反動をつけて、フェンスから離れた
「カナっちゃん
ちょっと黙って立っててや」
カナタに近づき、左腕をポンと叩く
「うおっ!」
呆然と立っていたカナタは、いつの間にか自分の顔の横に、咲のつま先があることに気づき、思わず声をあげた
「なっ?
見えへんかったやろ」
2人に身長差があるにも関わらず、柔らかな右脚は、綺麗に首すじへのハイキックの形で入っていた
「全然わかんなかった」
カナタは少し遅れて背筋に走る何かを感じた