転校生−6
「うるさいぞ、桜」
怒られた
「おほん」
静かにイスに座りなおし
「アタシの推理はこうよ」
語りだした
「結構前だけど、咲ちゃんが優勝してた大会のスポーツニュース見たの思い出したのよー
その時は道着着てたけど、アタシの記憶が確かならば、下に着てたTシャツはそんーなにふくらんでなかったと思うんだよねー
つまり!
その、はわわなおっぱいは偽物
犯人は、その中にいる!」
「たわわ、な」
カナタと咲の関係の話を自分でふったくせに、ずーっと咲の胸ばかりが気になって見ていたチェリー
どうだと言わんばかりに、堂々と咲の胸を指差した
またおかしなことを、と周りの女子は思い、なんて素晴らしい展開だ、とその更に外側に位置する男子は思った
「あーはん
なるほど
つまり、この子猫ちゃんはウチが盛っとるんちゃうかと、疑ってるワケやな」
ついさっきまで、カナタとの話を盛ろうとしていた咲は、チェリーのあごスジに指先を滑らせながら立ち上がる
留め具を外し、セーラー服のスカーフをしゅるり
「ニセモンやと言われて、そのまま引き下がる様ではウチの女がすたる
自分で確かめといでや」
座ったまま、身動きがとれないチェリーの顔に胸を押し当て、頭を抱え込むように抱きしめた
数秒の静寂
「どうや?」
「はわわだ、、、はわわだわ、、、
それにいいにほひだぁー」
「せやろ
つか、テコンドーしとる時は、サラシ巻いとるんやで」
「はわわー」
学年で、お家でペットにして飼いたいランキング堂々1位のチェリーと、人種、地域、環境、好みなど、様々な理由で80億人分の価値観があるであろうが、美人、という曖昧な概念を、黄金比率という数字で表現するならば、この学校での美人ランキングを軽々と塗り替えた咲の突然の行為に、面倒くせぇの増えたな…と、カナタは額に手を当てて天を仰ぎ、私も私もと、ビリケンさん並に御利益を求める女子
そして、最も多感なセブンティーンの男子生徒達は、衝撃的な光景が脳裏から離れず、立っている生徒は座ったり、座っている生徒も立ったりしていた
「私達も咲ちゃんって呼んでいい?」
「ええよ」
「俺達も」
「かまへんで」
「なんで東京に?って聞いても平気?」
「大丈夫やで
ウチのおかげか、実家の門下生が増えてもうてな
おとんが浪速の商人根性丸出しで、東京に支部作る言うてな」
「でも、この学校にテコンドー部なんてないよ?」
「かまへんねん
前の学校でも部活でやっとったワケやないし、組み手の相手は、実家に腐るほどおる
ほんで、東京の大学から練習に参加してええって言われててな」
「じゃあ、卒業したらその大学に?」
「せや
やからごめんな、みんな
受験勉強頑張ってや」
「それじゃあ、なんでこの学校選んだの?」
「それはカナっちゃんにナンパさ「理事長と君の爺さんが知り合いなんだって、昨日君のおじさんが言ってただろ
俺がいたのは偶然」
「彼氏は?」
「今はおらん」
「今は、ってことは…」
「それはノーコメントにしとこか」
「セーラー服可愛いね」
「この学校、みんな私服やもんなぁ
でも、ウチ、そないに可愛い洋服持っとらんし、これで通うつもりやで
それでええんやろ?センセ」
「理事長の許可は出てるから大丈夫だ」
「咲ちゃん、お昼カレーにしない?」
「なんでやねん」
こうして、転校初日にも関わらず、早くもクラスに馴染んでいく咲
人見知りをしない、元来の明るさ、という本人の素養も大きいだろうが、米男の粋な計らいと、チェリーの他人巻き込み型の性格が、そうさせたのかもしれない