体育館にて−4
『ウフフフフ』
その異様さに気付けたのは、150人以上いる体育館の中で3人だけ
最初は壇上にいたチェリー
「あれ?」
遅れて咲とカナタ
「カナっちゃん
これって…アレか?」
「・・・」
覚えのある感覚に、焦りを感じる
「おーい
カナー、咲ちゃーん」
「チェリーちゃん、教頭センセにイタズラしてないで、こっちおいで」
まるで時間が止まったかの様に、今、体育館の中で動いているものは、3人しかいなかった
いや、もう1人?
『ウフフフフ』
「!」
食堂で耳にした歌らしきものが聞こえたカナタが見つけたのは、天井に挟まったバレーボールの近くを飛ぶ小さな何か
虫にしては大きく、鳥にしては異形
体長50センチほどの、羽根ではなく、真っ白な翼の生えた人型生物だった
「天使やんか」
カナタは、こいつはいったい何を見たら驚くのか、と疑問に思ってしまうくらい素直に感想を述べる咲の肩に手をおいて「チェリーを頼む」と、アゴで伝えた
…また出たのか
カナタは考える
おそらく、今、俺たちはあの悪魔の結界の中にいる
何がどうなって、他の人間が止まっているのかは、この際どうでもいい
それはいくら考えたところで、自分の常識では答えは出せない
俺達だけが動けるのは、きっと、一度悪魔の力に触れたことがあるからだろう
問題は、アイツの目的が何で、この場にいる俺達に何が起き、どう対処すべきかだ
「ナニあれー?
いーねー、飛べてー」
トコトコと歩いてきたチェリーの感想を聞き、未知の生物を見た時の反応って、ひょっとしたらこいつらが正解で、俺が間違ってるのかな…と、自分を見つめ返しながら、現状では危険は少ないのかもしれないと感じたカナタは、パタパタと飛び続ける何かを睨みながら様子を伺っていた
一見、天使の様な生物の翼からキラキラと舞い散り出す銀の粉
重力を無視したかの様に体育館の天井に広がり、ゆっくりと、半分ほど落下しては消えていく
…くそっ
大丈夫なのか、これ
何をどうすりゃいいんだ
「きれー」
「メルヘンやな」
アホな顔して見惚れる2人をよそに、カナタは、ひとまずこの場を離れるべきだと考える
だが、残った奴らはどうなる?
俺達だけが逃げるってのも…
でも動かないんじゃーよ…
カナタの考えがまとまる前に、謎の生物と銀の粉は、すーっと消えていった
「桜君、いつの間にそこに?
まあ、いいです
このあと、卒業生の答辞、理事長からの挨拶、最後に卒業生が順に退場して式は終わります
卒業生が退場する時は、全員立ち上がって拍手で送ってあげてください
皆さんも、来年は自分達の番なので、流れは覚えておくように」
背広に収まっていたネクタイと両ポケットが全開で出ていることに気づいていない教頭が、何も無かったかの様にマイクに向かって喋りだした
…まじか
突然動き出した体育館で、自分達だけが立ち上がって浮いている状態になり、急に恥ずかしくなったカナタは、急いで席に戻る
「何やってんだよ、カナタ
大丈夫か?」
お前もな、と、時が止まっている間も寝ていた紋児にチョップをかまして、椅子に座って思考を戻す
…もしかして、本当に天使だったのか?
みんなにも変わりはないかようだが…
だったら、居たよ!天使!
確かに、前に出てこいとは思ったけど
確かに、何か綺麗だったけども
なんだよ!
あいつらヒマか?
卒業式祝いに来たってのか?
今日じゃねぇよ!週末だよ!
終末と間違えてないか?(笑)
…いやいやいや、落ち着け、俺
声の限りに叫びたいが、喉が痛くてできないカナタには、身悶えるしかできなかった