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デビルさん  作者: おかき
閑話
33/83

完成披露会襲撃事件−2

 

 咲が弱男事件で有名になった時、一気に門下生が増え、プチバブルがやってきた

 だが、合気道自体の知名度の低さか、その人気もやや下火になりつつあった

 咲の芸能界入りの話があった時は、これはチャンス!と思ったが、本人にその意思がなかった為に、泣く泣く引き下がった

 咲に関しては、是非ともオリンピックに出て、大豪院の名を売って欲しいと願っている今日この頃


 厳は総合格闘家としてアメリカで活躍しているが、軽量級のため、日本ではマニアの間でしか大豪院の名は知られていない

 しかし、日本を主戦場とするなら、間違いなく大晦日の主役になれる実力


 そして、全日や親日といったメジャー団体ではなく、どちらかと言えばコミックショーの色が濃い浪速プロレスで【大Going☆TOU】というリングネームの三男、闘

 こちらは、本人のたゆまぬ努力による強さと、鮪の地道なツイート作戦により、少しずつ名も売れてきた


 このネームバリューを武器に、大豪院の名を売り込む


 時空の驚くべき人脈により、盛大に行われる今日の東京支部完成披露会

 失敗はでけへんで、と、腕をカッポンカッポンと鳴らし、完成したばかりの道場の扉を開ける鮪氏であった




 大豪院流合気道術は、この世に生を受けた瞬間からの、じんわりと汗の滲む様な修錬と、脈々と流れる彦兵衛の血筋によってのみ、極める事が出来る

 よって、門下生はもちろんのこと、最高師範の鮪でさえ、大豪院流の真の使い手ではない


 鮪が使える合気道の技は、大豪院流のほんの一部

 あとはhow-to本を読んだり、他の合気道道場の天井裏から覗いたりして学んだものだ


 だが、時空が、何の才能も持たない者を直弟子にしたり、婿養子だからといって最高師範の座を与えたりする筈がない

 決して、孫達が1人として跡目を継いでくれないからという切ない理由でもない


 本来、受けの武道である合気道

 人体の構造を理解し、相手の力に自分の力をプラスして返すのが基本となる

 だが、初めて時空が鮪に稽古をつけた時、受けの受け、つまり、鮪の力を利用した時空の投げ技を、更に受け流した

 もちろん怪我などさせるつもりはなく、手を抜いていた時空だが、これには驚き、次は怪我をさせるつもりでコテンパンにしたのだが


 インド人も吃驚するほど、異常に柔らかい関節

 ぐるぐるバットもなんのそのな、尋常ではない三半規管

 常人とは違う、戦闘中の突飛な発想力


 鮪は、武道家としてではなく、生き残るための生存能力の高い人間として認められ、一番弟子として時空の側に居れたのだ



 何故、鮪にそんな能力があったのか?


 そこには、時空や椿でさえ知らない秘密があった




「動くな」

 立食パーティー用に並べられたテーブルに、届いたばかりのオードブルを運んでいた鮪の背後に、黒装束の男が苦無を手に現れた


「むっ⁉︎ 何奴?」

 枝豆、唐揚げ、海老や昆布巻きが入った豪勢な器を持ったままなので鮪は動けない


「掟に従い、死んでもらう

 念仏を唱える時間だけはやろう」

 首筋に添えられた苦無を持つ手に力が入る


「掟やて?今更何を

 ワテは頭から直々に許されてるんやで」

 鮪は冷静に答える


「頭領は死んだ

 今は俺が頭だ」


「死んだやと?

 あの頭でも、寄る年波には勝てんのか…」


「さあ、キサマも親父の後を追うがいい」

 漆黒の刃が、鮪の頸動脈に…


 ーザクッー




 黒装束の男の苦無が刺さったのは、どこから現れたのか、ただの丸太の木

 道着と袴を残して、いつの間にか中身が入れ替わっていた


「悪いが、まだおかーちゃんを悲しませる訳にはいかんのでな」


 “サクサクサクッ”

 何かが黒装束の男が立っていた場所に突き刺さり、男は飛び退いた

 声のした天井の隅を見上げると、赤フン一丁の鮪が、オードブル片手に壁に張り付いている

 床に刺さった何かは、ワカサギの甘露煮だった

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