霧崎弱男−6
「さて、これでそのうち誰か来るやろ
もう逃げられへんし、逃がす気もないで」
万が一、弱男と出会った時の為にシミュレーションは何度もしていた
・まず、人を呼ぶ
・捕まえる
・そして、倒す
一件落着
It's a パーフェクトプラン
・人が来なかったら?
・そもそも捕まらないのが問題であって
・その必要あるのか?
ツッコミどころは多数あるが、咲の頭で考え抜いた結果であった
「さあ、隠れとらんで出てこんかい!
ちんちん付いとんのやろ」
そして静寂
「やはり勘は鋭いようだな、ケケケ」
木立の後ろから現れた弱男に、少しだけ安堵する咲
この違和感がただの気のせいで、もし弱男がいなかったら、ただ恥ずかしい独り言を叫んだだけになってしまっていたところだ
あの時と同じ格好
白のニット帽にサングラス
顔半分を隠すマスクをしている
どこにでも居そうな紺のジャンパーに、茶色のズボン
ただ、対峙してみて初めて分かったことがある
異様に前屈みな姿勢
顔が前に突き出ていて、両手両足をやや広げた格好は、ハブと戦わされているマングースに似ていた
「ケケ、助けを呼んだところで、誰も来ない
悪魔の力に触れたことのない人間には、この結界は見えないし入れないからな
2度目とはいえ、俺の存在に気付けただけでもお前はキケンだ
俺の楽しみを邪魔するな、ケケケ」
左手、左足を前に、拳を軽く握って半身に構えたオーソドックスなオープンスタンス
重心を一定の場所に置かず、独自のリズムで肩を揺らす
大豪院流にテコンドーをミックスした、咲独特の構え
…なんか言っとる
…けどまだや
…これでは戦えん
咲の耳には何も入っていない
逸る気持ちと、落ち着かない気持ちを鎮める為に、心の中で7の段を繰り返す
「今度は制服だけじゃなく、お前の記憶も切り刻んでやる」
「咲ちゃん!」
何度目かの7の段
7×6でつまずき、6×7に数え直した時に、体育館裏にチェリーの声が響いた
「ぐべらっ」
吹き飛ぶ弱男
弱男の視線が、チェリーの声に反応したと同時
真空飛び膝蹴り
テコンドーで言うところのティオ・ムルチャギが、弱男の頬に突き刺さった