霧崎弱男−5
「ふーん
一口に大学って言っても、いろんなトコあって、迷っちゃうよね」
「まーな
でもどうせ選ぶんなら、大学の名前で選ぶんじゃなくて、先生とか、教えてくれる内容とか知った上で決めたいよな」
ふらふらと校舎の中を歩き、高校とは違った雰囲気の講義室や、やけに大人に見える大学生を見ながら、チェリーとカナタは話していた
「咲ちゃんはいいよねー
もうこの大学でテコンドーやること決まってるんだし」
「スポーツで入るってのも大変だぞ
怪我とか出来ないし、なにより強くなきゃだし
ま、強くってのは、アイツには関係ないか」
アメフト部と柔道部が競って2人を追い越していく
「チェリーは大学とか考えてるのか?」
生まれた時から小中高校と一緒
いつも隣にいるため、離れることなど考えたことはなかった
しかし、いつまでも子供でいられるわけじゃない事もわかっている
チェリーの頭ならば、カナタの行ける大学より、ワンランク上の大学も狙えるから
違う大学に行ったからといって、2人の関係が変わるとも思えないが、なんとなく今まで避けていた話題だった
「んー、まだ
ケーキ屋さんになるには、どこの大学に行くのがいいのかわかんないし」
「それ本気だったの?」
「半分はねー
でも、カナにしか言わないけど、留学するとか、外語大に行くとか、外国語の勉強もしてみたい
翻訳のお仕事には、ずっと興味があるから」
「チェリー…」
2人にしかわからない空気が流れた
それは決して重苦しい空気ではなく、どこか懐かしい空気
カナタは次の言葉を見つけられず、前を歩くチェリーは、今、どんな顔をしているのかを想像する
ピロン♪
2人の携帯が同時に鳴った
「あっ、咲ちゃん終わったって
正門集合ー」
「集合て…
アイツ1人で戻って来れると思う?」
2人はすでにキャンパス中央、正門が見えている場所に居たのだが、カナタは、集合をかけた人物の能力に疑問を投げかけた
「うー、難しいかも
咲ちゃん、おトイレに行く時、毎日教室出てから逆の方向に1回行って“しまった!”みたいな顔してるもん」
自分では決してバレていないと思っている事でも、大概、周りの優しさで隠されているものだったりする
「迎えに行くか」
この時、すでに咲は迷い始めていたのだが、2人は知る由もない
「きゃー
助けてー」
途中で会えると思っていたが、結局体育館の入り口にまで着いてしまった2人の耳に、かすかに聞こえた叫び声
「アイツの声だ」
声がしたのは体育館の外
渡り廊下の非常口から外に出たカナタは、一瞬どっちに行けばいいか戸惑う
チェリーは先に走り出した
「こっち
男の人の声もした
“助けて”って」