霧崎弱男−4
…やっぱりな
大学のテコンドー部に顔を出し、挨拶を終えた咲
全日本クラスの選手も数人在籍しており、全体的にかなりレベルも高い
だが、高校生にして日本チャンピオンである咲が練習に参加するということで、大学生のお姉さん方に「ご指導お願いします」と、逆に体育会系のノリで頭を下げられ、少し困ってしまった
練習を少し見学させてもらい、高校優先だが、週に2、3回は参加するということで話をつけ、今日のところは、お荷物2人もいることだし、帰ることにした
…これは間違いないで
『終わったで
正門集合な』
と、おそらく構内をうろうろしてるであろう2人に連絡を入れたまでは良かった
2人と一緒に来た時の体育館の入り口とは、別の出口から出てしまったのがいけない
時空のいらない特技である方向オンチと、考える前にとりあえず行動してしまうところを、隔世遺伝で色濃く継承してしまっている咲は
…間違いなく知らん場所や
迷っていた
どこをどう歩いたのか、何故か校舎から外れ、さっきまで居たはずの体育館裏に出た
…こりゃ、カナっちゃんに迎えに来てもらう方が早いか
最初からそうすれば良かったのだが、乙女の矜持というか、何故か方向オンチだということを知られるのが恥ずかしい咲
そして、諦めてスマホを手にしようとした瞬間、違和感に気付く
…なんや?
…なんやろ?
急に視野が狭くなったというか、周りに意識がいかなくなったというか、とにかく、落ち着かない
キョロキョロと辺りを見回してみるが、特に変わった様子はない
咲にはこの感覚に覚えがあった
1年前のあの日
…お前か?
気づきもせずに背後を取られたという屈辱
倒す気で入れた渾身の蹴りを避けられたという屈辱
この1年、表には出さないように明るく過ごしてきたが、片時も忘れたことはなかった
武道家として
大豪院を名乗る者として
…お前やな
背中に感じる焦燥を振り払うため、咲は絞り出すように大きな声を出した
「キャーーーーーーーーーーー
助けてーーーーーーーーーー」