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霧崎弱男−1
『アイツダ…』
「…あいつだ」
たとえ日中、人が行き交う街中でも、誰の意識も向かない場所は存在する
『マチガイナイ…』
「…まちがいない」
そんな薄暗い建物の陰から、何者かが見ていた
『ドウシテココニ…』
「…どうしてここに」
抑揚の感じられない
『ソウカ…』
「…そうか」
重なる二つの声
『モウイチド…』
「…こんどこそ」
ほんの少しだけボリュームが上がった
『キリサイテヤル』
「たすけてくれ」
それは狂気か
はたまた、懇願か
誰にも聞こえることのなかった声は、そのまま闇に消えていった