ブザービーター
マウスカーソルを定期的に見失ってそろそろ本格的に視力がヤバいと感じて来ました
さぞ悔しそうな声が画面上から絶えず聞こえてくる。
どうやら完全にご立腹の様だ。
「よくも弟をやりやがったな……!絶対に許さねえぞ!」
「何でチーターの癖に一丁前に許さないなんて言えるんだよ。お前」
その台詞を吐きたいのは今までお前らに煽られてきたプレイヤー達の方だろうに……
一体どの面下げて義憤を感じてるというんだ。
俺のツッコミなど意に介さずスカルブラザーズ(兄)はこちらに銃口を向ける。
「目障りなんだよ!とっとと死ね!!」
聞くに堪えない暴言と共に再度襲ってくる銃弾の嵐。
先程と同じように回避モーションを駆使してくぐり抜ける。
依然やる事は変わらない。
的確に相手の心を削って、隙を作り出す。
そうして、合間を縫ってこちらからも攻撃を加えていく。
「クソが……マジで当たんねぇ……くそぉ!!」
じわじわと体力が削れていくにつれ、次第に相手の焦りが濃くなっていく。
たった1発を当てるだけ、その程度のミッションをこなせないのはさぞ苦痛だろう。
当然の結果だ、2vs1ですらままならなかったことを1vs1で簡単に出来るわけがない。
軍配は既にこちらに傾きつつある。
他に先程までの戦況と変化を挙げるとするならば……向こうが怒りを抱えている事だろうか。
奴らは無駄に兄弟愛が強いらしく、弟の仇を取ろうと血眼になっている。
……だがそれが何だと言うのだろうか?
〈戦場の鉄則その3、常に感情を制御せよ〉
怒りによって覚醒し、敵を倒すと言うのは漫画やアニメじゃお決まりの展開だが……
そんなものは所詮フィクション特有のご都合主義に過ぎない。
断言しよう。戦場において怒りが人を強くするなんてことは100%無い。
むしろ邪な感情は思考を鈍らせるだけ。
デメリットしか生まないんだ。
常に己を俯瞰した視点で見つめ直し、冷静沈着にその都度最適解を導き出す。
それこそが……軍人に求められる理想の思考である。
「はぁ……ふ、ふざけんなよ。何でこうなるんだよ!」
「凄いにゃ…本当に逆転してる」
既に敵の体力ゲージは残り2割を切っている。
ここまで来たらどっちが優勢かなんて今更聞くまでも無いだろう。
お互いの立ち位置の方も完璧だ。
もう負ける要因など万に一つも……
「こうなったら、あれをやるしかねえな」
「……何だと?」
突然の兄の一言に、ほんの僅かに体を強張らせてしまう。
この期に及んでまた奥の手があるのか?
常識的に考えればはったり、もしくは悪あがきが関の山だろう。
しかしこいつらはチーター。常識が通じない存在である。
もし急にダメージ無効なんてやられたらさすがの俺でもどうにも出来ない。
試合中に設定できるのかどうかは知らんが、可能性が0ではない以上勘繰ってしまう。
「勝負ってのはなぁ……生き残った奴が勝ちなんだよ!!」
意気揚々と叫んだ兄は、勢いよくこちらに背中を向けて駆けだした。
紛れも無い敵前逃亡である。
……あ、それだけ?
「ビビッて損した……タイムアップでの引き分け狙いか?」
残り時間は既に30秒を切っている。
もし時間切れになれば試合結果は体力の差に関わらず強制的にドローになってしまうのだ。
去り行く背中に猫宮さんが叫ぶ。
「おいこら!あんだけ煽っておいて逃げるにゃ!せめて正々堂々最後まで戦え!」
「まあまあ。確かにこの状況なら相手からしたら逃げるしか道はないんだし」
「い、いやそうにゃんだけど……」
卑怯と罵りたくなる気持ちは分かるが実際最善の選択でもある。
今まで目も当てられない程酷い立ち回りを乱発されたが……最後の最後で悪くない動きをするじゃないか。
マイナスをリカバリーできないと察したら二次被害を抑える。
勝てないと悟ったなら負けではなく引き分けに持ち込むのは個人的に全然ありだと思うな。
「だからって、逃がさないぞ」
そう呟いた俺は、完璧に狙いを定めて……
最後の一発を放った。
「……ははっ」
「そんにゃ……嘘でしょ?」
「ふはははははははは!!最後の最後でミスるとはなぁ!!」
弾丸は、敵から僅か右方に逸れた地面に着弾した。
生存を確信した兄は高らかに歓喜の叫びを上げる。
『10』
同時に、ゲーム内音声がカウントダウンを始めた。
「残念だったなぁ!結局お前は俺を倒せなかった!!」
『9』
「引き分けにはなるが……実質お前の負けみたいなもんだろ!」
『8』
「ふざけんにゃ!チート使っておいて倒せない方がよっぽど恥ずかしいよ!」
「うるせえんだよ!なんて言われようが俺は生き残ってるんだ!」
『7』
「確かにお前の腕前は凄かった。でもな?」
『6』
「最後の最後で外してちゃ……意味ねーんだ」
「外してないよ」
毅然と言葉を遮る。
そう、俺は全く狙いを外してない。
着弾箇所も、敵の立ち位置も……何もかもが計算通りだ。
『5』
「……いやいや、今更強がった所でもう」
「さっきも言ったよな?足元に気を付けろってさ」
『4』
「それが何だって言うんだよ!」
「俺が狙ってたのは最初からお前の背中じゃないって事だ」
そう、俺の狙いは初めから別にある。
だからこそここまで誘導してきたんだ。
『3』
俺が狙撃した物、それは……
『ほいっと、じゃあ私ここに罠仕掛けときますね』
あの時猫宮さんが置いてくれていた地雷だ。
『2』
「……あ」
兄の間抜けな声と共に、周辺が光り輝く。
衝撃を感知した地雷は……やがて強大な爆発へと変貌する。
『1』
そして……
『ぜ』
アナウンスがタイムアップを告げる直前で、俺の画面にKINGの文字が浮かび上がるのだった。
評価やブックマークをして頂けると大変励みになります。
軍人時代の過去編はいつかじっくりやりたいなぁと現時点では思ってます
罠を仕掛けた……に関してはチートプレイヤーで描写しているので是非読み直してみてください