戦場の鉄則
スピード感を重視してなるべく場面展開を速めてみました
読みにくかったら申し訳ございません。
それと皆様の応援のお陰で日間ジャンル別ランキング一位を達成することが出来ました
身に余る光栄です。本当にありがとうございます。
訓練校時代の座学の時間、いの一番に言われたことを思い出した。
「いいか、戦場を生き抜く上で何よりも強大な武器となるもの。それは経験だ!」
教官は俺たちをしっかりと見つめながら力説を続ける。
「どんな状況においても瞬時に最善択を選び抜く対応力こそが何よりも軍人には求められる!」
本当に……その通りだった。
戦場で命運を分けたのは単純な力の強弱でも武器の有無でもない。
幾度となく苦難を乗り越えた果てに得ることができる……経験値だ。
「……嘘でしょ?本当に全部避けてるの?」
闇雲に乱射された弾丸を紙一重のところで躱していく。
超高速でしゃがみと回避を併用させれば、これ位の事は容易に出来るのだ。
……まぁ容易にとは言ってもひたすらキー入力を連続して行わなければいけない為死ぬほど指が疲れるのだが。
勝利の為ならそれも些細な問題に過ぎない。
ぶっちゃけてしまうと、この回避方法は付け焼刃も同然だ。
本来ならこんなことを続けていてもすぐに限界が来るだろう。
しかし既に撃ち合いを始めてから1分以上経っているが俺は生きている。
何故かと言うと……
「クソがぁ!どうなってんだよぉ!」
「何でこんだけ撃ってんのに一発たりとも当たんねぇんだ!?」
シンプルな結論、こいつらには実力と経験が不足しているからだ。
何で当たらないかって?圧倒的に撃ち方が悪いんだよ。
ていうか、そもそも基本の立ち位置からしてなってない。
〈戦場の鉄則その1、数的有利を活かして立ち回れ〉
スカルブラザーズはわざわざ二人並んで俺の正面から発砲して来ている。
何故2vs1だと言うのに同じ方向に居るんだ?
常識的に考えれば囲んだ方が着弾率が上がるのは自明の理だろう。
チートにかまけて脳死でプレイしているからこうなるんだ。
更に言えば……エイムも単調すぎる。
二人共発砲する際に敵の現在地しか見えていない。
物事を線ではなく点でしか捉えられていないのだ。
だからこそ俺が少し動くだけで当然弾は外れていく。
例えば退路を塞ぐように撃つとか、回避方向をある程度予測するとか……
些細な工夫をするだけで改善されるというのに。
今は攻撃を避ける事に全神経を注いでいる為こちらから仕掛ける事はまだ出来ない。
だが、常に相手の周りを旋回してプレッシャーをかけていく。
少しでも、奴らに焦りを感じさせられるように。
「ちくしょう……何だよこいつ気持ち悪ぃなぁ!」
「どこまでも単純だな」
本当に面白いくらい思った通りに事が進んでくれる。
完全に向こうは困惑しているようだ。
……そもそも、俺からしたら一発も当たってはいけない状況なんてそう珍しいものじゃない。
現実の戦場を体験している人間にとっては日常茶飯事に等しいんだ。
培ってきた経験は一週間程度で消えやしない。
やがて、待ちわびた千載一遇のチャンスがやって来る。
「あ、やばい兄ちゃん弾切れた!分けて!」
「あぁ?お前なぁ……ちょっと待ってろよ」
〈戦場の鉄則その2、敵に手の内を晒すな〉
言うまでも無いだろう。戦場どうこう以前の話である。
兄ちゃんという台詞から察するに多分弟の方だよな?
チートの内容を簡単に喋ったり、弾切れを敵にまで報告したり……
これじゃあ自ら隙を晒しているのと一緒だ。
そして、その隙を見逃すほど俺は甘い人間じゃない。
アイテムを渡す弊害で連射が止まった刹那、即座に弟の方に狙いを定める。
「馬鹿野郎!!前見ろ!」
「……え?」
「遅い」
反応する暇さえ与えず、一発の威力が極めて高いショットガンを頭部目掛けてぶち込む。
「ぐぁ……!」
鈍い音と共に、一気に体力が七割以上削れていく。
理想はワンパンだったが……まぁ許容範囲内だ。
慌てて兄貴の方が盾になるように前へと立ちはだかる。
「お前は急いで弾補充しろ!ここは俺が守る!」
「に、兄ちゃん……ありがとう」
もう奴らからは先ほどまでの余裕は微塵も感じられない。
少なくともチートのお陰で絶対勝てる筈、という脆弱なイメージは消えているだろう。
その証拠に二人共しっかり俺を睨み据えている。
ここまで警戒されていたら今から下手な追撃は出来ないな。
ま、と言っても既に終えてるから何も問題は無い。
じっと見つめてくるスカルブラザーズに向けて忠告してやる。
「俺なんかより自分たちの足元、よく見といた方がいいぞ」
「「あ?」」
その瞬間、発砲の直前に放っておいたグレネードが爆発した。
兄弟は避けようもなく爆風によるダメージをもろに食らう。
ショットガンによる射撃が狙いだと思ってたかもしれないが本命はこっち。
むしろ弟への一撃はこれを隠すためのカモフラージュだったという訳だ。
かく乱や牽制に使われがちなグレネードだが、勿論武器としても使える。
しかも範囲の割には中々に高威力とコスパもいい。
「はぁ……はぁ……お前、よくも俺の弟を……!」
爆発後の黒煙から姿を見せたのは一人だけ。弟は今のグレネードで削り切れたのだろう。
最も兄の方も体力は既に半分を切っている。
おまけに先ほどまでとは違って完全な1vs1。
状況はもうこちらが断然有利とまで言っていい。
ここで呆然と黙りこくっている猫宮さんに話しかけてみる。
「ね?案外行けるもんでしょ?」
「あの、少なくとも今の一連の動きは人間には出来にゃいです」
……ん?何か若干引かれてないか?
まるで化け物でも見たかのような声音で返されて少しショックである。
彼女も相当な実力を持ったプレイヤー、全弾避けるくらいなら余裕で出来そうだが。
まあいい。今はそれよりも……目の前のラスト一人に集中すべきだ。
更に調子をかき乱そうと、俺は残った兄に向けて煽りをかましておく。
「一発でも当てりゃそっちの勝ちなんだ。最後まで諦めんなよ?」
「この野郎……!」
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次回でいよいよ戦いが終わります。
いやぁ……思ってたよりずっと長くかかりました。
一日二話投稿を二日連続でやれると自分が無敵になったかのような錯覚に陥る。