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苦手意識

300万pv本当にありがとうございます。


今回は桐原さんの過去話から入ります。

昔から人と接して何かをするのが得意じゃなかった。


それは本当に生まれついてのもので、私自身も改善法が分からない。

自分と何か違う考え方をしている存在が居るというだけで無意識に怖いなって思ってしまう。

頑張って歩み寄ろうにも、ゲームと違って人付き合いにきちんとした攻略法は無いんだ。



ひたすら頭を悩ませながらもただいたずらに時間だけが過ぎていく。




そうして人生の転換点を迎えたのは、高校に入って3ヵ月の時。


「ねぇねぇ、えっと……桐……先さん?だっけ。何してんの?」


何時ものように机に顔を伏せるだけの私を数人のクラスメイトが取り囲む。



「……え?」


誰とも関わろうとせず、黙々と寝たふりをするだけの代わり映えしない毎日。



そんな私の日常はたかだか10分ほどの休み時間の間に崩れ落ちた。



混乱する私など意に介さず、彼女達は次々と一方的に会話を進めていく。



「いやさー休み時間になってもいつも一人で寝てるからさ……え?大丈夫?学校生活楽しい?」


「家でもそんなんなの?それ学校以前に人生楽しくなくねって感じなんだけど」

「ふふっ……!ちょっと早希、あんた言い過ぎだって!」

「人生楽しくないはさすがにヤバいっしょ……!」

「え?いやだって正論じゃん!スマホすら見てないんだよ!あはは!!」



「……」


終始レッテル貼りの嵐。

私が何も喋らずとも、既に彼女達の間では【人生がつまらない人間】という認識が固まっていたのだ。

当然、悲しさや怒りの様な感情が私の中に湧き上がって来たけど……それ以上にあの時は、周りから早く消えて欲しくてたまらなかった。


……どうせ嫌いならいっそ無関心で居てくれればいいのに。


そんな事を思いながらも、どの道返答を返さなきゃこの地獄は終わらないと悟った私は……






……なんて答えたんだっけ?



思い出せない。

……思い出したくも無い。



唯一覚えているのは、その答えによって彼女達の嗜虐心に一層火を付けてしまったという事だけ。




そうして一年が経つ頃には私は学校に明確な拒否反応を示すようになる。


既に平凡な日常とやらは影も形も残っていなかった。





家にこもりっきりの生活が始まってからは、ひたすら24時間の長さに気付かされる毎日だ。



朝8時ごろに起きて、お母さんが用意してくれた朝ご飯を食べて、お医者さんがくれた薬を飲む。

その後洗い物と家の掃除を終えたら、後はひたすらベッドに身を預けるだけ。


そうやってただ、一日が終わるのを待ち続ける。


最初の頃はお菓子作りとかゲームとか……思う存分趣味に没頭してみようかとも思ったけど、数日と経たず飽きが来た。

勉強の合間を縫ってやっていた時は凄く楽しかった筈なのに。




寝て、起きて、食べて、寝て、食べて、寝て、寝て。


終わりの見えないルーチンワークを何度も何度も何度も何度も無意味に繰り返していく。





そんな植物の様な存在になり下がった私ですら、両親は優しく支えてくれた。



「心配しないでいいからね。絶対にお母さん達は貴女を裏切らないわ」

「茜はここまでよく頑張って来たからな。なぁに、ちょっとくらい休んだってバチは当たんないさ」



お母さんもお父さんも、そう言っていつも私を慰めてくれる。


その愛情に安らぎを感じる反面、自己に対する罪悪感も同時に募っていった。





『このままでいいのか』と、毎晩自分に問いかける。



いい訳がない。



いい訳がない……けど、それでも一度止めてしまった足を進めるのは難しくて。

毎日毎日思い悩んで、その都度自己嫌悪を繰り返していく。

やがて身も心もギリギリの状態になった所で、私はようやく配信活動に出会う事が出来た。



配信を始めてからは、少しだけ心が軽くなった。



こんな私でも楽しみに見てくれる人が居る。

毎日応援する人が増えてくれる。



他人との関わり合いから隔絶しかけていた私は、そんな事実が何よりも嬉しかった。




次第に人気が出始め、企業にスカウトされ、名のあるゲーム大会で優勝して……少しずつお金も稼げるようになってくる。

最低限のコミュニケーションを取ってさえいれば基本一人で居ても誰にも咎められない。

私にとっては最も理想的な環境に住み着くことが出来たんだ。




でも、心の中に残った人に対する苦手意識はどれだけ躍進を続けようと薄れてくれない。




数千個の高評価より、たかが10程度の低評価が目についてしまう。


数万人の応援の声より、一人の心無いコメントの方が長く頭に残ってしまう。



私の事が嫌いな人間の心情がどんなものか、細かな部分まで想像してしまう。


最終的に脳内を埋め尽くすのは学生時代に植え付けられた苦い記憶だけ。




嫌わないで欲しいという願いが傲慢なのは分かってる。

分かっていても、実際嫌われることは何よりも怖い。

何か些細なミスだろうと、それを境に私に対して悪印象を抱く人間が増えるのではないだろうか。

そんな杞憂を抱えて、何度も足をすくめてしまう。




……今回もそうだ。



頭では分かってる。


もうすぐ猫宮さんがこちらに向かってくるのだから、急いで迎撃準備を行わなければならない。

師匠の頑張りを無駄にしちゃいけない。

皐月お姉ちゃんの期待を裏切っちゃいけない。



それでも、私の意志はかつての悪意に絡まれてぐちゃぐちゃになってしまう。



どんどん視界は狭まり、平衡感覚が揺らいでいく。



『毎日毎日そんなんであんた生きてる意味あんの?』

『私だったら虚しくてとっくに死んでるよ』

『あんたの味方なんてどこにも居ないから。同情誘っても意味ないよ?』


【初心者が大会荒らすなよ】

【貴方が参加すると聞いて見る気なくなりました】

【空気読めってマジ……kakitaの足引っ張んなよ……】

【練習したところで無理。身の程わきまえな】



「はぁ……はぁ……」



動悸が止まらない。




「桐原さん……!お……ついて……じょ……ぶ……から!」


終いには師匠の声すら耳に届かなくなってくる。




分かってるんだ。


ここで負けてしまったら何もかもが無駄になってしまう。

だから、こんなことしてる暇なくて……早く、挑まなきゃいけないんだって。


けれども……頭の隅で考えてしまう。



もし負けてしまったら?

皆の期待や頑張りを全て裏切ってしまったら?



一体何人の好意が、反転して嫌悪へと変わってしまうのだろうか。



それが私にとっては何よりも怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて。




また自縄自縛。

いつまでも肝心な所は直せないまま、過去にばかり目を奪われてしまう。

駄目だと分かっていても負のループに陥ってしまう。




私は……どうすればいいの……?

評価やブックマークをして頂けると大変励みになります。



大会編、後5話くらいになるかと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] 作者はここまでよく頑張ってきたからな。なぁに、ちょっとくらい休んだってバチはあたんないさ
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