プレッシャー
序盤神視点的な奴です
【えぇ……】
【草】
【kakita逝ったああああああ】
【まさかの自爆】
【的確に全方位に迷惑かけながら散っていってて草】
【爆発オチなんてサイテー!!】
【悪魔と言うか最早死神だろ】
【うーんこの】
【正に外道と言わざるを得ない】
【は?これで大会終わりなんか?】
【又旅ちゃん今日も今日とて不憫すぎるんよ】
選りすぐりの強豪たちによる乱戦は誰にとっても予想外の結末で終わり、コメント欄はひと際の加速を見せる。
その中には幾つか否定的な意志を見せる視聴者も少なからず存在していた。
が、決着が着いたのは乱戦に限った話であり大会そのものが終結した訳では無い。
爆風が吹き抜いた後、猫宮又旅はただ一人、瀕死の状態ながらもそこに立ち尽くす。
「み、皆様見えておりますでしょうか!?まだ本大会は終わっておりません!!終わっていませんよ!!」
「……従来のルールであれば間違いなくやられていましたね。体力値を増やした結果、kakita選手の目論見にも少々狂いが生じたようです」
「さすがにあの短時間でkakita選手と言えども完璧な計算は不可能でしたか……いや、でも、ねぇ……!」
「…………本当に、最後まで底が知れないプレイヤーでしたね」
◆
『……それで、私が黄泉乃さんを倒した後で師匠と合流して一気に……って感じ…なんだけど……』
『成程……それなら確かに行けるかもしれない!いい作戦だよ、桐原さん!』
『で、でもこの作戦……凄く師匠の負担が大きくなっちゃうんだけど、大丈夫?』
『任せてくれ。俺にできる事なら何でもやって見せるさ!』
〈You Are Dead! 〉
メッセージを前にふっと息を吐き、俺は淡々と自己分析を重ねていく。
……自信満々に彼女に宣言したものの、終わってみれば色々俺自身の不備も多く見つかった。
特に目立つのは最後の黄泉乃さんの狙撃に対する避け方だろう。
あれはもっと早く察知出来ていたとしても避けれるかどうかは分からなかったが……だとしても微かに判断が遅れたのも事実。
最善を見据えた場合として、今後の改善点の一つとなる部分だ。
さて、次は評価点について。
「ただ……その後の立ち回りは我ながら中々良かったな」
リカバリーとしては充分な成果を残せたと思う。
根本の目的である時間稼ぎは充分。
更にそこからアサルトラグーンを蹴落とし、猫宮さんに瀕死の重傷を負わす事も出来た。
決して完璧ではないにせよ……ギリギリ及第点には乗ったと言う所だろうか。
あの局面でそこまで巻き返せたなら総合的には中々悪くない。
「後はまぁ……桐原さん次第って訳だ」
俺は一度瞬きを行いつつ、改めて今の状況を整理してみた。
現在猫宮さんはほぼ瀕死の状態……だったのだが。
「あっぶにゃい……アリスちゃんから包帯全部貰ってなかったらもう勝ち目無かったよ」
猫宮さんは次々と包帯を使用し、失った分の体力を少しずつ取り戻している。
恐らくチームで装備を整えようとしていた段階で拾った回復アイテムは全て猫宮さんが管理していたのだろう。
ダメージを受けやすい近接戦闘を一任されていたのなら彼女に回復手段を渡すのは当然だ。
だがしかし、元々雀の涙程の残量。
包帯が底を尽きるまで使おうと彼女の体力はぎりぎり半分以下の所で留まってしまった。
もうこの損失分を取り戻す手段は存在しない。
対して桐原さんは依然体力マックス、正に万全の状態だ。
リロード等の準備を行う時間も充分あった。
加えて彼女には他の追随を許さない程洗練された読み合いの力がある。
それでも純粋な実力じゃまだ猫宮さんには敵わないだろうが、体力差を考えてみれば十中八九軍配はこちらに上がる筈。
間違いなく今の段階で有利なのは桐原さんだ。
……が、まだ唯一の懸念点が残っている。
当初の時点から本番まで、結局改善は望めなかった著しい問題。
あれが発揮されてしまっては、今まで丹寧に積み上げてきた要素は全て吹き飛ばされてしまうだろう。
頼む……今回ばかりは鳴りを潜めてくれ……!
そんな祈りを行いつつ、俺はスピーカーに顔を近づけて桐原さんに激励を送る。
「桐原さん……後もう少しだ、頑張って!!」
自分としては極力プレッシャーを掛けないよう優しい言葉と声音を選んだつもりだ。
ただ、それでも……言葉の本質を判断するのはあくまでも受け取った本人。
正直、心配は要らないかと思っていた。
開始前から多少の緊張は見えていたが、あれは全然普通の範囲だ。
むしろ本番直前という事を考えるなら比較的いつもより落ち着いていたとすら言える。
その後戦闘が始まってからも……別段おかしな所は見受けられなかった。
索敵も攻撃も移動も上手に出来ていたし、何なら作戦提案なんてことまでしてくれた。
無事作戦も遂行し……当初と予定は食い違ってしまったが、それでも好条件で最終戦を行える。
足をすくめるどころか、勇み足気味になってもいい位の現状。
プレッシャーを感じる余念などあり得ないだろう。
しかし、俺の想定はものの見事に外れてしまっていた。
「……」
待てども桐原さんから返事は帰って来ない。
彼女の性格なら、普通相槌の一つや二つは打つだろうに。
「……はぁ…はっ……はぁ……」
代わりと言うようにスピーカーから聞こえてくるのは、極めて不規則な呼吸音だった。
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