道連れ
最早風前の灯火の様な体力値。
それでも、0にならなければまだ終わりじゃないんだ。
意に介さず殺る気を見せる俺に、プラントはさぞ嫌そうに鼻で笑う。
「ふっ…何やろうなぁ。俺、今までのkakita君の堅実な姿勢に割かし好感持ってたんやけど」
「そりゃどうも。界隈の大御所、プラントに褒めてもらえるなんて光栄の至りだよ」
「……けどな、今の状況じゃあんたはおっそろしい悪魔にしか見えへんねん」
「はは……誉め言葉として受け取っておこうかな」
笑って濁すが、若干複雑な気分でもある。
実際現段階で彼に抱かれてるのは悪印象なのかもしれない。
少なくとも相方を一方的にやられた以上、胸中穏やかではないだろう。
勿論ネタ混じりである事は承知済みだし真剣に受け取りはしないが、お世辞にも悪魔と言う呼称に好印象的な雰囲気は覗けなかった。
……まぁいい、悪魔だろうが魔王だろうが上等だ。
むしろ、化け物レベルの実力を持ったプレイヤーが揃い踏みしてる大会なんだ。
それ位のあだ名がなきゃそうそう渡り合ってはいけない。
恐怖的な呼ばれ方を嫌悪するのではなく、逆に堂々と乗っかって行こうじゃないか。
悪魔という表現に見劣りしないよう、どこまでも冷酷に動いてやる。
とは思ってみたものの、プラントの体力値は俺より僅かに多い。
このまま単純に撃ち合ったとして先に死ぬのは間違いなくこっちだ。
故に正面戦闘はまず論外とする。
現状において求められるのは発想を180°転換させた相手の思考を乱す行動。
だったらここは……心苦しいが、事前に考えていたあの非道極まりない戦法を実践するか。
「もう好き勝手させんで!ここで引導渡したる!!」
「生憎ただじゃ死ねないんだ。……出来れば使いたくは無かったが、こうなったら俺も最終手段を取らせてもらう」
「な!?ま、まだ何か隠し玉があるんか!?」
あるんだなこれが。
はったりでも何でもなく、この場だからこそ使える秘密の作戦。
多分同じ相手には一生に一度しか通じないであろう切り札だ。
そう、その作戦とは……!
「……という訳で本っっ当にごめん!!猫宮さん!非常に申し訳ないが一緒に道連れになってくれ!!」
そんな精一杯の謝罪と共に、俺は構えていた銃を捨てて全速力で彼女の元へと駆け出した。
「……はい?」
突然の道連れ宣言に対して、正にきょとんと言った擬音が相応しい様な困惑を見せる猫宮さん。
至って普通の反応だ。
何しろこれまで彼女の存在は蚊帳の外になりつつあったのだから。
加えて明らかに「こっからは俺とプラントのタイマン戦だぜ!」的な雰囲気を作っていたんだ。
まさかそこに、突然自分が強制的に参加させられるとは思っても見なかったのだろう。
「え?……は?いや、ちょ、……はぁ!?」
「……自分、何やっとるん!?」
「言い訳に思われるかもしれないがやりたくなかったのはマジなんだ!!ただもう俺に出来るのはこれしかない!」
後出しのように発言を重ねるのも情けないが、実際躊躇っていたのは本当の為仕方ない。
罪悪感に苛まれながらも、俺は一目散に猫宮さんを巻き込む形で接近させてもらう。
「……い、いや、普通に倒すよ!?」
向こうからしてみれば俺は所詮死にかけで、挙句の果てに武器すら手放した男。
ならば余計な事をされる前に速攻仕留めるのがベスト……と考えたのだろう。
猫宮さんは慌ててこちらに向けてマシンガンを構える。
だが、直前で彼女は気付いた。気付いてしまった。
「……あっ!まさか、そういう……?」
俺の、真の狙いに。
恐らくだが、この一瞬で猫宮さんが最初に警戒したのはスカブラ回避だろう。
ぴったり攻めるのを止め、再び生存を目的とした行動をひたすらやられるとしたら。
言うまでも無いが、相手プレイヤーからしたら厄介極まりない立ち回りだ。
とは言っても俺の体力を鑑みれば仕留めるのもそう難しい話じゃない。
意識を存分に集中させ、動きをしっかり捉えながら攻撃を行えば体力を削り切れるのは時間の問題。
……だが、ここでミソになるのは俺を倒したいのなら俺に意識を強制的に持ってかれてしまうという点だ。
プラントの射線に対して、俺と猫宮さんは重なり合うように位置している。
つまりプラントからしてみれば、対象を問わなかった場合の敵に対しての被弾率自体が上がっているんだ。
どの道猫宮さんも後には残しておけない存在。
ついでに巻き込んで倒せてしまえるのなら願ったり叶ったりだろう。
彼からしてみれば何なら直前より役得とすら言える状況だ。
……当然、そんな中で俺だけを狙うなんて事をしてしまえば、同時に自分自身も狙われてしまう事を猫宮さんなら理解できるだろう。
銃を捨てた(表面上は)無害な俺と、果敢に一網打尽を狙うプラント。
この二人を天秤に掛けたとして、優先的に倒すべき相手はどちらだろうか。
猫宮さん自身の個人的感情で判断するのなら、きっと俺を仕留めに来る筈だ。
何をするか分からないという警戒心と同時に……少なからず因縁めいたものが俺達の間にある訳だからな。
直前インタビューも相まって、さぞ優先的に潰したそうだと見受けられる。
しかし、彼女はこうも考えてしまうのだ。
ここで俺を狙う事……というより、狙った結果としてプラントからの攻撃を浴びてしまったら。
果たしてそれは勝利に近付ける選択肢と言えるのだろうか?と。
「~~~!!」
迷い悩んだ挙句、彼女は見事俺の思い通りに動いてくれた。
そこから先は一瞬の出来事だ。
猫宮さんは真後ろに立つ俺を一旦視界から外し、攻撃を仕掛けようとしていたプラントに向けて銃弾を放つ。
突然の行動に少なからず驚いていたのは彼も同じだ。
回避をしようとするも僅かに反応が遅れ、数発食らってしまう。
「ぬぐ……!」
被弾を確認すると猫宮さんが次に取った行動はグレネードの投擲。
ピンの外れた手榴弾が弧を描いてプラントの元へと山なりに飛んでいく。
地面に着地した瞬間、大爆発が広がるなんてのはネオコロシアムのプレイヤーなら周知の事実だ。
「あぁ……!?当たるかい、そんなもん!!」
とは言え裏を返せば本来着地の瞬間まで爆発はしない。
後退してやり過ごす事は容易だった……のだが。
猫宮さんは再度発砲を行う。
その弾丸の向かう先はプラント……ではなく空中に浮かんでいたグレネード。
「なっ……!?」
結果として予想外の衝撃を与えられたグレネードは地面にぶつかるよりも先に爆発を開始する。
それは……正にプラントの目の前で行われるのだった。
爆音と同時に激しい爆風が巻き起こる。
さすがにあの体力量では耐えきれない程のダメージだろう。
そして猫宮さんは素早く振り向き、続いてこちらに向けて攻撃を開始しようと銃口を向けた。
隙の無い完璧で手早いプレイング。
両方の相手の目論見を封殺出来る最高の立ち回りだ。敵ながら改めて尊敬する。
ここで俺が銃を再び構えようとしても絶対間に合わない。
万が一手に持つことが許されても、反撃をしようとトリガーに指を掛ける前に銃弾が俺の体力を削り切る筈だ。
だからこそ、最期の攻撃は一瞬で終わらせる。
俺は先ほどの桐原さんと同じようにグレネードを手に持ち、そして……
あえて、すとんとその場に軽く落とした。
「なっ……!?」
「言ったろ……?申し訳ないが道連れになってくれってさ」
たちまち二度目の爆発音が、俺達の元に鳴り響いた。
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