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猛攻

この局面において最も重要なのは初撃だ。

何をするにしてもまずは、一番最初のインパクトで意表を突くに限る。

残り体力の少なさを鑑みても、とにかく相手に何もやらせない事が重要だろう。



その為に利用すべき要素は緩急。



これまで回避のみに徹していた俺が突然ガン攻めの姿勢を見せたら果たしてどうなるか。


具体的な対応までは読めないが、直前までとの動きのギャップによって多少なりとも動揺を誘える可能性はかなり高い筈だ。


と言うより、そうなってくれなきゃ俺にはもうどうしようもない。


なので、あわよくば動揺を誘えるかも?などという希望的観測ではなく……動揺する。と予め行動予想を決め打った上で攻撃に移る。


リスキーな択である事は承知の上だ。


成功確率もお世辞にも高いとは言えない。



だが、この期に及んでリスクを背負う事を躊躇していても意味が無いだろう?


駄目で元々、人生はギャンブル。とどっかの大王も言っていたしな。

どうせ死ぬならリターンがでかい方へ舵を取ろうじゃないか。




……さて、そうなるとまず狙うべきは。




俺は一人のプレイヤーへ視線を寄こす。





「プラント、僕がkakita氏を優先的に狙うから君は援護をしつつ猫宮氏の方にも警戒を……」




「分かっとる……!ってアレックス!!前見ろや!!」



プラントが叫ぶのと俺がアレックスの元まで辿り着くタイミングは、ほぼ同時だった。


突然の接近に驚いたのだろう。

アレックスの体が僅かにびくっと震える。


「なっ……!?」




「行くよ」



その単純極まる三文字の言葉を、果たして彼はどのように解釈したのだろうか。


単なる攻勢に赴く姿勢を表す意思表示とだけ捉えたか。

捨て身の特攻に順ずる虚勢と判断したか。



あるいは……死神の宣告のように感じたのかもしれないな。




この状況で最も脅威なのは、未だに二人共生存しているアサルトラグーン。

何度も言った事だがペアマッチにおいて最も重要なのは人数差だ。

二人が織りなすコンビプレイの前では……多少の体力差など簡単に覆ってしまう。



だからこそ、今仕留めるしかない。




何もさせるな。

有無を言わすな。

思考すら追い付かせるな。



速攻を何よりも意識しつつ、俺はとうとう発砲を開始した。



「ここに来て攻撃だと……!?」


照準を合わせる位置は上半身。

額、胸部、顔面……比較的ダメージ配分量が高い部位が集まってるんだからな。


手を止める事など考えず、無我夢中で撃ち続ける。



「くそっ!」


アレックスは急激な攻めに対して一歩飛び退いて距離を取ってきた。

彼の特徴の一つだ。

状況に関わらず常に一定の距離を保って戦闘を行おうとする……確かにそれを順守していれば安定性は増すだろうが……



俺にとっては無意味な行いだ。



対象が後ろへ離れようが俺の攻撃に全く支障は無い。

遠ざかろうが何だろうが、結局は当てればいいだけ。


狙いが少し小さくなった程度でエイムの精度が鈍る程、俺はやわな人間じゃ無いんでな。





僅か数秒で著しいダメージを負った相方を見かねたのか、ここで隣に立っていたプラントが慌てて銃口を向け出す。


「あんま好き勝手やっとんちゃうぞ!俺だってちゃんと居るんやからな!」



追撃を行おうと走り出す俺に向けて放たれる弾丸。


プラント的には、恐らく単純な攻撃と言うよりも威嚇射撃としての目論見が大きい選択だったと思う。



あくまで狙いは俺を倒すのではなく相方から引きはがす事。

故にここで生き残ろうとするのならば、俺が回避を選択すると踏んだのだろう。


その隙にアレックスの姿勢を立て直させて再起を図ると……まぁ、即興にしてはかなり理想的な算段だな。



だが、それでも俺は止まらない。



「あぁ……?」



当然放たれた弾は背中に当たり、俺の体力は更に少なくなっていく。



しかし、どの道死を前提にした立ち回り。

だったら相手の狙い通りに動いてやる理由なんて無い筈だ。



今は遮二無二に攻める以外に、俺に出来る事なんてありはしないのだから。



やるべきことは既に固まっている。


だから走れ、足を止めるな。



相手の命が尽きるその瞬間まで、間髪入れずに撃ち続けろ。






「このままでは……プラント!ここは一旦君に任せ」


「やらせないよ」



作戦提起を行おうとしたアレックスの僅かな隙すら見逃さない。見逃す訳には行かない。



刹那の暇に俺は武器を素早くショットガンに切り替える。

プラントに任せて何をしようとしてたのか。

さすがにそこまでは予想しきれないが……




どの道頭を撃ち抜いてしまえば終わりだ。

その一手を打たれる前に、俺は最後の一発を放つ。



「もらった……!」




極めて殺傷力の高い散弾は、アレックスの頭部を見事に貫いた。



疑いようのないまでのヘッドショット。


先程までの乱戦に加えて、今の一連の猛攻を受けた彼の体力はとうとう底を付いてしまう。




「そ、ん…な……」


弱々しい断末魔と共に地面にゆっくりと倒れ伏せるアバター。

俺はその様子を静かに見下ろす。

当たり前だが、確実に死んだかどうかは目視で確認しておかなきゃならないからな。




……よし、これでアレックスはゲームオーバー。



と同時に俺の最低限の目標も達成された事になる。




この後俺が死んだとしても迎える状況は互いに一人ずつでの三つ巴戦。

そうなってしまえば有利要素となるのは元々持ち合わせている体力量。

即ち、唯一体力が満杯な桐原さんが断然有利という訳だ。




これにて俺の最期の仕事は終わり。





……なんてことはあり得ない。




確かに最低限はこなした。

だが所詮は最低限。その程度で満足してたまるか。


まだ体力は2割残ってる。



なら俺がやるべき事は?




……もう言うまでも無いな。





俺は素早く振り向き、「次はお前だ」と言うようにプラントの方へと銃を突き付ける。


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