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死ぬ気

【グランドペアマッチ本番!桐原さんと優勝目指す!!】58分前に配信開始




89388人が視聴しています。





「くっ……まだか……!?」


歯を食いしばりながら、俺は藁にも縋る思いで桐原さんの報告を待つ。


既にスカブラ回避を開始してから約3分が経過していた。


勿論現時点においても未だ継続済みのままである。

即ち必然的、相手の乱射も止んでいないと言う事だ。

皆、細心まで注意を払いながらリロードを行っている為、安直に隙を狙うと言うのも難しい。



乱戦が始まりながらも、戦況はいずれも大きな動きを見せないままじわじわと進んでいく。

俺にとっては、正直快くは思えない状況だ。



対して相手プレイヤー達も……ひたすら攻撃をかわし続けられる事にさぞ苛立ちを感じていたのだろう。


それぞれ俺に対しての感想を遠慮なしにぶちまけて来た。


「いやもう……どんだけ続けられんねん!あんた、限界とか無いんか!?」


「分かっていた事だけど凄まじいね。ここまでとは……」


「にゃんでそんな芸当、出来るのさ……人間の域超えてない?」



各々の言葉には様々な感情が乗っかっていた。


怒り、敬意、畏怖……一身に受けるには色々複雑すぎる混沌具合だ。



……でも、そうだな。

正直自分でも割と驚いている節はある。

まさか3分以上もこの地獄の様な時間を耐え抜けるとは思っていなかった。


人間は、死ぬ気でやれば大抵のことは案外実行できる生き物なのだと今一度気付かされる。


まぁ人外扱いは結構傷つくが……異端の目を向けたくなる気持ちは大いに理解できた。




だが、さすがに限界はないのか?という台詞は看過出来そうにない。


心の中で大きく叫ぶ。



そりゃあるに決まってるだろ……!!



痛い。痛い。痛い。

先程から絶えず指が絶大な痛みに対する悲鳴を上げ続けている。

指先には焼ける様な熱感が走り、付け根の部分まではミシミシと圧力がかかって止まらない。


精神面については言わずもがな。

終わりの見えない苦痛を前に、既に俺のメンタルは大根おろしの如く擦り切れていた。



痛い、辛い、止めてしまいたい、痛い。



……それでも、止める訳には行かない。



ここは、ここだけは耐えるんだ……!



己に強く言い定める。


どれだけ辛くても、苦しくても……今だけは甘えちゃいけないだろう。

俺の行動によって勝率は10%にも50%にも、90%にもなり得るんだ。


彼女から貰った信頼に応えたい。

色んな人達から頂いた恩を返したい。

支えてくれたリスナー達の期待を裏切りたくない。



そんな使命感を抱えたまま、俺はひたすら指を酷使しながら進展を待ち続ける。




……そして、回避を始めてから216秒後。



とうとう、その時が来た。





普段とは打って変わって、勢いづいた調子の桐原さんの声が通話越しに響く。



「し、ししょ……倒…た!黄泉乃さん倒したよ!!」




「……!」



想像以上の大声に合間合間でノイズキャンセルが起こる。


故に音声が途切れ途切れになって上手く全容が聞こえてこなかったが……それでも最も重要な部分はしっかりと聞き取ることができた。




『黄泉乃さん倒したよ』


その一言だけで、今の俺には充分である。




「……そんにゃ、アリスちゃん……!」


同時に戦場には愕然とした猫宮さんの声が響き渡った。





報告をきっかけにして、自分の身体に失いかけていた英気が取り戻されていくのがはっきりと分かる。

途方もない作業だと思われていたものに、一気に終着点が見えてきたのだから当然だ。



……いよいよ最終段階。


この乱戦に桐原さんも交じってもらい、着実に勝利を掴む。

残りの俺の体力は既に半分を切ってしまっているが……万全の桐原さんと二人でならほぼ確実に勝てる筈だ。


俺がスカブラ回避を続けるのは、彼女がこの地点に到達するまで。


約2分と言った所だろうか……?

そりゃ辛い事に変わりはないが……明確な終わりが見えてくれている分さっきまでよりかは断然マシだ。


彼女の功労を称えつつ、仕上げに向けてしっかりと指示を出しておくとしよう。


「良くやってくれた桐原さん!後はこっちに合流して来てくれ!」




「う、うん……それは分かってるけど。でも……えっと」



「……ん?何かあったのか!?」




「最後に、黄泉乃さんが撃ってて…………と、とにかく気を付けて!師匠!」



「……え?気を付けてってどういう……ってまずい!」



抽象的な注意喚起に首を傾げそうになるが、当然敵はそんな事情などお構いなしに攻めてくる。


「……アリスちゃん。後は任せて」




一瞬足を止めた俺に向けて猫宮さんはマシンガンを乱射してきた。

被弾寸前の所で、再び回避に移行して弾丸を何とか回避する。


「っぶねぇ……」



正に危機一髪。

後1秒でも転がるのが遅れていたら直撃は免れなかっただろう。

もう終盤まで来てるんだ。よりにもよってこんな所で凡ミスする訳には行かない。

残り僅かだからこそ、油断せずスカブラ回避を続けねば……!




「……あ?」



その瞬間、俺の脳内には無視できない程の巨大な違和感が発生していた。



感覚について具体的な解説を行う事は出来そうにない。


明確な知覚……ってよりかは虫の知らせや予感がした、と言った漠然としたものの方が表現としては近いだろう。



ただ、何となく……本当に何となくとしか言えないんだが。




……今の猫宮さんの撃ち方、何か変じゃなかったか?

当てる気がいまいち感じられなかったような……どちらかというと誘導の様な意図の方が感じられた。



俺単体を狙っていない……いや、間違いなく狙ってはいた筈だ。



だが、あくまでそれは二の次。



本質はそこじゃないと言った感じで……何か別の狙いがあるのか?



だとすれば一体何を……




本当の狙いがある事までは分かったが全容まではいまいち掴めない。




そんな中で最後のピースをはめてくれたのは、ついさっきの桐原さんの言葉だった。





『最後に、黄泉乃さんが撃ってて…………と、とにかく気を付けて!師匠!』




「……まさか」




ラビリンスチームの真の策謀を悟った刹那、俺の目の前には既に一発のNATO弾が迫ってきていた。







走馬灯とでもいう奴だろうか。

死を目前にした俺の脳内は、今までより一層素早い思考速度を誇った。



避ける?

いや無理だ、もう一秒後には当たる。

ステップを入力してもアバターがそのコマンドに対応するまでの硬直が微かにあるんだ。

大振りなモーションに入る前の段階で確実に被弾するだろう。



つまりどう足掻こうが被弾は避けられない。

ならばこの状況で今俺が取れる最善の手段とは何だ?

考えろ。


……弾丸の向かう先は、このままなら恐らく俺のこめかみど真ん中。




最悪なのは脳天直撃による大ダメージを負う事。





だったら、ここは……



「うおぉぉ!!」





堂々と叫ぶ……が、相反して行動はあまりに微々たるもの。





1秒間の間に俺は、アバターの体の向きをほんの少しだけ右に逸らした。

当初の狙っていた部位とは異なる場所に着弾させようという算段だ。

何よりも意識したのはとにかく動きを最速で行う事。


挙動を最小限にとどめた成果もあって、ラグを発生させずに操作を適用させることを可能にした。



……だが、目論見を成功させようと被弾そのものを避けられたりはしない。

額に向かっていた弾丸は、結果的に俺の肩をぴしゅんと音を立てて貫く。



「ぐっ……!」


一瞬にしてごっそりと減る体力ゲージ。

何だかんだ半分くらいを維持できていたんだが……一気に三割近くまで削られてしまった。

肩も頭よりはマシだが、ダメージ配分量は平均よりやや高い。



「き、桐原さんに改めて感謝しなきゃな……!」


それでも最悪の顛末そのものを避ける事が出来たのは、彼女の素早い伝達のお陰である。

あの注意が無ければきっとヘッドショットは免れなかっただろう。

不幸中の幸いという奴だ。



……だが、これまで丹念に積み上げてきた計画は今の一撃で全て破綻してしまった。

元々体力を一定以上保つのが前提の策だったんだ。



さすがにこの残り具合じゃ遂行はとても出来そうにない。



さて、どうするか……




俺は状況整理を行おうとしているアサルトラグーンの方へちらりと視線を向ける。



「な、何が起こった!?今、kakita氏の体力がいきなり減って……」


「まさか最後の土壇場で狙ったんか…? ほんま恐ろしい奴やで黄泉乃アリス……せやけど、今はこっちが攻めに行く最大のチャンスや!アレックス!!」


「……そうだね、プラント。桐原氏がここに駆け付ける前に猫宮氏もろとも仕留めよう!」



……まぁそうなるか。

二人共、今の狙撃を皮切りに攻め気が一層増している様だ。

当然だろう。



警戒対象のスナイパーは消え、ねちっこく避け続けてきた男の体力も突如としてガクンと削られた。



プラントとアレックスからしたら現状得な事しか起きて無いんだからな。




と来れば……ここからの乱戦の一層の激化はとても避けられそうにない。





……うん、無理だな。



どう足掻いてもこれ死ぬわ、俺。





桐原さんの到着まで後2分。

この体力量じゃスカブラ回避をやろうと彼女が来るまでにギリギリ削り切られて終わりだ。


かと言って回避を止めようがむしろそれは死期が早まるだけの行いに過ぎない。




つまるところ、ここから何をしようと俺が死ぬことは既に確定しているって寸法だ。





「……OK。把握した」



俺はその事実を受け入れる。



そしてその上で命尽きる瞬間まで可能な事を精一杯考えた。

最も、既に一つしか選択肢は残ってない様な気もするがな。



最早どう足掻こうと殺される運命なら、いっそ守りは捨てる。

どの道遅かれ早かれの話だ。

結末が決まっているのに無暗に粘るだけじゃナンセンスもいい所である。



つまり今の俺に出来る事はたった一つ。



体力が尽きるまで、がむしゃらに攻める。



後に残った桐原さんの負担を極力減らせるように、ここで全敵の体力を少しでも減らして逝く事だ。




残された猶予はどれ程だろうな……?

一分はまず無い……長く見積もって40秒ぐらいだろうか。




……うん、充分だ。



約40秒、最期に俺に残された時間をフルに使って……





文字通り、【死ぬ気】で攻めてやるさ。

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死ぬ気って聞くとリボーン思い出す

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― 新着の感想 ―
[一言] 窮鼠猫を噛むと言うが、獅子(kakita)が死ぬ気で戦うってなったらどうなるかは明白だよね。
[良い点] かっけぇ〜!!!!キチ砂の最後っ屁の次は魔王様トランザムして特攻ー!!!! [気になる点] 果たしてどこまで削りきれるのか!? あとを託される弟子娘(でしこ)の活躍は!? [一言] 続き…
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