最後っ屁
今回ちょっと短めです。申し訳ありません。
「黄泉乃さんは7秒ごとに撃ち合いの途中で無意識に距離を取ろうとする。だから、そこを狙って撃つ……!」
「うぅ……」
「で、体力が削れて来ると焦って闇雲に撃ち返してくるから…一息タイミングをずらす感覚を意識して攻め続ける」
私自身ですら把握しきれていなかった動きの癖を、桐原さんは一つ一つ正確に見抜いてくる。
的確に隙を見出し、その都度最適解と言える攻撃を繰り返されていく。
回避をしようが読まれ、反撃に転じようが避けられ……正に手も足も出ないと言った有様だ。
そんな中で私は、己という存在に強い憤りを抱いていた。
……いやもう本当に、何が『彼女の存在こそニューウィークの最大の弱点』だよ。
思い違いも甚だしい。
度を越えた分析の浅ましさに反吐が出そうだ。
胸を張って過ちを主張する程恥ずかしい事なんてきっと無いだろう。
で?その最大の弱点と見定めた女の子に今無様にやられてるのは誰?
狙撃の才能にかまけて近接戦の練習を怠っていたのは?
俯瞰視点で見ていながらkakitaさんの狙いに終盤まで気づけなかったのは?
……そう、全部私だ。
もう少し近距離の立ち回りが上手かったら。
あるいはいち早く彼の作戦の意図を察し、それに対応した行動が出来ていれば。
現状は全く別のものに変わっていた事だろう。
それが明らかに分かるからこそ、自分の過失にこれ以上なく腹が立ってくるのだ。
けれど、いくら後悔を重ねても現実は何も変わってくれない。
失った体力が戻ってくるわけでもないし、急に限界を超えた強さを得られたりもしない。
奇跡なんてものに縋っても無意味だ。
私に待ち受けているのはただ、このまま蜂の巣にされてお終いという未来だけ。
既に結末は見え透いていた。
どれだけ足掻こうと時間稼ぎにすらなりはしない。
彼女の攻撃の手が緩むことも決してないだろう。
無理無理。もう120%これは絶対死ぬよ。
そして、私は生きるのを諦める。
……けれども、勝つ事を諦めた訳では断じてない。
「……やるしかないか」
意を決した私は、手持ちの武器を再びスナイパーライフルへと切り替える。
「?……いや、気にしなくていい筈」
桐原さんはその挙動に僅かに動揺を見せたものの、気にする必要はないと悟ったのかすぐさま攻撃を再開してきた。
……それでいいよ。
別にこの期に及んで延命なんて期待してないから。
くるりと、私は彼女に背を向けた。
「え……?」
彼女との撃ち合いに参加する意味は最早一つも無い。
なので桐原さんは、文字通り視野外に置いておく。
それが多分、今できる上での最善の判断な筈だ。
どの道最期の抵抗。
だったら付け焼刃や奇跡になんて期待せず、最大限の得意分野で挑むべきだろう。
……私がやれる事は、どこまで行こうと狙撃だけ。
絶対に、ここの一発だけは外せない。
残り僅かの体力が尽きるその時までに、私は急いで事を為す。
まずはスコープを開き、絶えず行われている乱戦地帯に再び焦点を当てた。
そして、狙うべき部分のみに一点集中。
勿論それはkakitaさん。
とは言っても、彼本人を直接狙う訳では無い。
先程も言った通り、絶えず動き続ける人間に銃弾を当てるのは至難の業だ。
平常時ですらきつかったのに、余裕がない今偶然当てられる筈がないだろう。
だからこそ私が狙うのは、人物ではなく地点。
素早く照準を合わせ、一瞬瞬きを行った後。
私は最期の一発を放った。
同時に相方へ、伝えるべき要項を迅速に伝えておく。
「又旅。今あんたが見てる方向から7歩右斜め上の場所に撃ったから。今から9秒後にkakitaさんをそこに誘導しておいて」
「え?ゆ、誘導って……!それよりアリスちゃんの方は!?そっちは大丈夫なの!?」
「……ごめん、私はここでリタイアみたい。……後は任せたよ、又旅」
一方的に、こちらが伝えたい事だけを伝える。
本当に……又旅には最後まで申し訳なさが絶たないな。
ごめんね、不甲斐ない相方で。
結局私は今回の大会じゃニューウィークに翻弄されてばっかりだ。
又旅のサポートも大してこなせなかった。
俗に言う戦犯って奴だろう。
でも、最後の最後で私にできる事はやった。
後はそれを、又旅が最大限活かしてくれる事を信じるしかない。
……ま、何て言おうが結局相方頼りの策である事実に変わりは無いか。
「はぁ……本当にごめんね」
大きく息を吐いてもう一度謝罪を行う私の背中には、容赦なく無数の弾丸が浴びせられた。
当然微量の体力ゲージはたちまち底を付く。
そうして画面上には、冷酷に死を告げる文章だけが浮かび上がった。
〈You Are Dead! 〉
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