違和感
書籍化打診のお知らせが来た!と思ったら夢の中の出来事でした。
朝から悲しい気持ちになりながら学校行きます(泣)。
【スカブラ回避】……回避としゃがみコマンドにのみ全神経を集中させ、延々と二点を繰り返し行うもの。
そのプレイはネオコロシアム界隈に中々の賛否と議論の余地を生んだ。
ぶっちゃけ、私は否定派だった。
確かにスカブラ回避が結果的に劇的な勝利を生んだのは事実だけど……あれは色んな状況が偶然上手い具合に重なっただけ。
運要素を考慮に入れず、デメリットを再確認してみれば実用化は非常に難しい。
何より、当の本人が技に対して非常に前向きでない姿勢を見せていた。
生みの親だからこそスカブラ回避のダメな所はより鮮明に分かるのだろう。
kakitaさん的にもアレはもう二度とやりたくない…といった様子だった。
……だと言うのに。
◆
「本っ当に……!どこまでも食えないなぁ……kakitaさん」
精一杯の歯ぎしりと共に、私は不満を吐露する。
スコープが見据える先に映る地帯では、4人のプレイヤー達による激しい銃撃戦が繰り広げられていた。
……いや違う。4人じゃなくて3人だ。
約一名、さっきから銃を構えずひたすら地面を転がり回ってる男が居る。
一心不乱に撃ち合う他のメンバーをよそに……それはもう延々コロコロと。
事情を知らない人間が見たら、戦場に迷い込んだダンサーにでも見えるんじゃないかな?
当然、意味のない立ち回りなんかじゃない。
一見やけくそのようにも見える動きだが、そのプレイの中には針の穴に糸を通すような繊細さが絶えず籠められている。
ただ闇雲に回避を行っているのではなく、各相手毎の視線、射角、武器、テンポ、独特の癖。
それらの要素を複合的に計算し、器用に銃弾の嵐を掻い潜っているのだ。
何となくじゃ絶対に真似できない。
この局面においては練りに練られた最良のムーブと言えるだろう。
「……あー良くないなぁ、これ」
じわじわと、廃墟の屋上から狙っているだけの私にも次第に焦りが芽生えてくる。
まさかこの局面でスカブラ回避を使ってくるとは、想像も出来なかった。
いやでも、あれだけ自分自身で懇切丁寧にデメリット語っておいていざ公式大会で使うって……普通ありえる?
大会見てる10万人以上の視聴者達の中ですら、使用を予想できてた人全然居ないんじゃないの?
……なんて、どれだけ心の中で不平を漏らそうがkakitaさんの選択は実際これ以上なく戦況を有利に動かしていた。
まず秀逸なのが、「攻撃が不可能」という最大のデメリットが緩和されている事だ。
現状は三つ巴に別れての乱戦。必然的にkakitaさんが攻撃せずとも又旅もアサルトラグーンの二人もダメージを受ける状況にある。
流れ弾だったり、途中で標的を変えたり、私の狙撃だったり……理由はそれぞれあるけど、とにかく体力が減る要因は無数に存在するんだ。
だからこそ回避一辺倒でも多少なり勝ちの目が見えてくる。
そして個人的に最も嫌なのは……私の狙撃がほとんど無力化されている点。
そもそも狙撃なんてのは基本的に油断した相手の隙を狙う行為。
ガチガチに警戒を張られていては通じない方が断然多いのだ。
加えて、kakitaさんは休むことなく回避を行っている。
それは即ち標的が常に動き続けているという事。
相手の行動パターンを予測して狙い撃ち……ってのも私なら出来なくはないけど。
さすがにここまで不規則な挙動を繰り返されていたら話は別だ。
必然的に狙撃は攻撃の間僅かに足が止まるアサルトラグーンの方に向けて行う事を強いられる。
狙撃そのものを止めればいいと思われるかもしれないが、そういう訳にもいくまい。
実際、あの二人だって紛れも無い強敵である以上、優先的に倒さなければいけないのは確かなのだから。
でも結果的にそれは、全員の削りを目的としたkakitaさんの思惑通りの行動になってしまう訳で……
まずい。
どんどん思考が悪い方向へと誘発されて行ってる。
行動の一つ一つが間違いなのではないかと、薄暗い疑念が次々と心の奥底から湧いて来てしまう。
きっと、こうやって私が焦りを抱く事すら彼の計算の内なんだろう。
……落ち着け。
頭の中で何度も何度も、その言葉を反芻させる。
続いて私は一旦狙撃から意識を離し、何度も深呼吸を行った。
吸って、吐いて。
吸って、吐いて。
酸素を取り込むと同時に、余計な猜疑心を排出させていく。
20秒程それを繰り返した結果、私は多少の落ち着きを取り戻すことができた。
……そうだ、決して焦りすぎてはいけない。
警戒するのは良いとしても、等身大以上の実力を想定して杞憂を抱えさせられてしまっていては向こうの思う壺。
今は冷静に、論理的に、且つ的確に、戦況を判断するべきだろう。
まず私が注視したのは、kakitaさんの体力値。
一見先程までと変わりないようにも見えるが、よくよく目を凝らすと少しずつ減ってきてはいる。
……考えてみれば当たり前の話だ。
以前スカブラ回避を行った際は見事に全発回避という芸当を見せていたけど、あれはスカルブラザーズとか言う奴らが技術も何もない素人だったからこそ起こり得た事態。
本人も言っていた通り、相手の実力次第じゃどう足掻いても当たる事はある。
即ち現在彼が狙っているのは全弾回避……ではなく被弾率の減少という訳だ。
当然いつしか体力が尽きる瞬間は来るだろう。
更に拍車をかけるのは、精度に比例して使用者に襲い掛かってくる激しい疲労。
指先の痛みや精神的な苦痛……それらは長くスカブラ回避を行うにつれ着実に蓄積されて行ってる。
いくらkakitaさんと言えども所詮は人間、無限に続けられる訳がない。
どこかで限界が来る筈なんだ。
直接正面からの撃ち合いに参加できない以上、ある程度は相方に対して祈る事しか出来ない。
「……ここが正念場だよ。又旅、頑張って耐えて……!」
アサルトラグーンかkakitaさん、どちらか片方でも倒すことが出来れば戦況は一気に単純化する。
いくら又旅も手負いになっていると言えど、背後には体力満タン状態の私が付いているんだ。
負ける事なんてありえない。
……この場さえ。
この場さえ耐えきれば……ラビリンスが……!
「優勝……で…き……る?」
己で出した結論の末には、何故か疑問符が付属していた。
自分でも理由は分からない。
え……?……このまま行けば勝てるん……だよね?
……いや、やっぱり変だ。
口に出して自分たちの勝利条件を再確認したからこそ違和感が明確になる。
だって。
ここまでの全てが、不本意ながらkakitaさんの思い通りに進んでいると言うのに。
「……なのに何で、最終的に私達が勝てるようになってるの?」
考えてみれば最初の時点からおかしい話だった。
もし、kakitaさんがあの場の乱戦を制したとしても……私はどうする気だったの?
当然、又旅を倒したとしても私を倒すまで終わりじゃない。
ペアマッチである以上、二人を仕留めなければチームの陥落にはならないんだ。
そんな簡単な事を、この期に及んで彼が忘れる筈も無いだろうに。
私への対策を最初から捨てていた……?
いや、あるいは……既に対策済みだった……?
ここで、今の今まで忘れていた一人の少女の存在を思い出す。
「……そう言えば、桐原さんはどこに?」
kakitaさんの言葉を馬鹿正直に受け取るなら既にやられているんだろうけど……さすがに信じられない。
それに、私達は桐原さんが隠れて狙っている事を予期した上で突撃を選んだんだ。
……でも、結果的に今も彼女は姿を現してこない訳で。
一体どういう……
その瞬間、自分でも驚くくらいに私の頭は素早く回転を始めた。
これまで出てきた要素が単語として脳内を駆け巡る。
時間稼ぎ。
kakitaさんの思い通り。
私への対策。
桐原さんの存在。
それら全てが繋がり合い、求めるべき結論を導き出す。
【ニューウィークペアの真の狙い】
「……!まさか……!?」
気付いた頃にはもう遅い。
既に、私の背後から銃口は向けられていたのだから。
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人名を間違えるのは明らかに誤字の域を超えていましたね……
(前話の一場面で猫宮さんに呼びかける所が間違いで桐原さんになっていました。)
本当に毎度、お世話になっております。
 




