王者のプライド
大会編も既に6割強程進んでいます。
日々皆様の温かい感想や的確な誤字報告に救われてる当作品です……本当にありがたい。
……そうだな、どの道このシチュエーションで俺の方から仕掛けても大してメリットはない。
ここはもう少し粘れないかどうか試してみよう。
時間稼ぎと情報収集を目的として、俺は再び彼らとの会話を試みる。
「早速戦いを始めよう……って言いたいところだけど、まだ疑問が残ってるんだ」
「ん?何やねん?」
「さも余裕そうに俺達の前に現れた割には、二人共随分と負傷してるじゃないか」
プラントとアレックス、両名の体力は4割弱ほど既に失われている。
大方他のチームとの戦闘によって受けたダメージだろう。
舐めプ……はさすがにないだろうが、損失分を回復させていないのは何故だろうか?
そこがどうも腑に落ちない。
疑念を抱く俺に、アレックスはあっさりと答えを教えてくれた。
「ああ、体力ゲージの事だね。実は……包帯を全部使った上でこれなんだよ」
「……なら、元々相当のダメージを受けてたって訳か」
「ま、そういうこっちゃな。ホンマあの酔いどれ姉妹共……!温存とか考えずアホみたいに乱射して来おってからに……!」
吐き捨てるように恨み言を零すプラントからは、相当の憎しみを感じる事が出来た。
酔いどれ姉妹と言う口ぶりから察するに、十中八九彼らの相手をしていたのはアクアマリン。
……まぁうん、ご愁傷様としか言いようがないな。
アルコールと言う魅惑の物質を摂取した以上、彼女達に常識や基本と言った概念は完全に脳内から消え去っていく。
そうして迎えた酩酊状態、繰り出されるプレイは完全な気分次第と来た。
当然終わってみるまで戦闘結果はどうなるかは予想できない……一部のギャンブラーが好みそうなタイプだ。
今回の場合は、専らガン攻めオンリーだったようだな。
酒を飲んだ彼女らが行うのは今その瞬間にできる気持ちいいプレイだけ。
優勝なんて全くの視野外。
だからこそ後先考えずしっちゃかめっちゃかに目の前の相手を全力で倒しに行く事もある。
その2チームと関わる事のない第三者からしてみれば得でしかないが……実際、遭遇してしまった側からすればたまったものじゃない。
ゲリラ豪雨にでも見舞われたのだと自分に言い聞かせる位しか出来ないのが、何とも悲しい話だ。
とは言え、体力の減り具合を見るにアサルトラグーンは逃げずに正面戦闘を選んだ筈。
その上で今ここに立っていると言う事は……何だかんだ言いつつもしっかり倒して来たのだろう。
そこは納得、と同時に全体の戦況も少しずつ把握できてきた。
……が、説明を受けてより濃くなった疑問が尚一つ残っている。
「だったら何で、わざわざ俺と猫宮さん達の戦いに横入りしようと思ったんだ?」
当然彼らの目的は俺と猫宮さんの両方をこの場で仕留めること。
だとしても、今ここで姿を現す理由はどこにあると言うんだ?
幾ら考えても明確な利点が俺には思い浮かばない。
百歩譲ってもどちらかが倒れるまで、即ち決着が着くまでのうのうと静観していればいいだけの立ち位置。
そうして後から残った方に止めを刺しに行く……プラントの言葉を借りるなら、そんなやり方こそ正に【漁夫の利】と言う奴だろう。
にも関わらず、アサルトラグーンが選択した一手は馬鹿正直に戦闘に交じるというもの。
メリットが無い所かデメリットを充分に生む可能性のある行為。
一体そこに、どんな狙いがあると言うんだ……?
「……君の言う通り、僕らにとっては参戦しない方が都合のいい盤面だろうね」
「確かに芋ってればわざわざ正面からかち合うより勝率は上がる……けどな、俺らはそんな勝ち方ハナから狙ってへんねん」
「……そんな勝ち方は狙ってない?」
「インタビューでも語った通り、事前段階で既に大分プライドに傷が付いて来てるんだよ」
「最強プレイヤーkakitaだの……完全無欠のチームラビリンスだの……ものの見事に注目集めて行かれたんやからな」
「だからこそ僕たちは、あえて真っ向から君たちに挑み、打ち破って見せる」
「そうする事で、堂々と真の最強が誰かっちゅうんを今ここで証明したるんや!!」
声高らかに自論を展開する彼らからは、並々ならぬ覇気を感じ取ることができた。
……成程、そりゃ俺には予想だに出来ない筈だ。
彼らの行動理念に最初から利益や不利益と言った概念は存在していない。
ただそこにあるのは、長年最強チームと謳われた『アサルトラグーン』としての揺るぎないプライド一つのみ。
故に俺達の前に毅然と姿を現した上、遠慮なく会話にも乗ってくれたと言う訳か。
正直、勝敗を重視する俺からしてみれば少々尊重しかねる主張だった。
ただ、そういった部分を度外視した上で発言単体を吟味してみるのなら。
……そりゃもう、死ぬほどカッコいい回答としか言いようがない。
the・主人公って感じだな。
「……ご丁寧にどうも。猫宮さんも静かに聞いていてくれてありがとうね」
「別に、忖度したとかじゃにゃいからね。こっちとしても得られる情報があったから大人しくしてただけだもん」
「ま、もうお互いおしゃべりする必要はあらへんやろ。……こっから先は手ぇ動かす時間やで」
プラントの一言を皮切りに、たちまち俺達の間には切り裂くような鋭い空気が張り詰める。
一触即発。今はまさに戦闘が始まる寸前の合間だ。
彼の言う通り、さすがにここまで来てこれ以上の時間稼ぎは叶わないだろう。
ここで俺は、改めて最後の分析をしてみた。
現状は……1(俺)vs2(ラビリンス)vs2(アサルトラグーン)。
まず物理的な人数差の時点で圧倒的に不利な訳だが。
多分この状況でならどちらのチームも俺を一番に落とそうと試みるだろうな。
後々の事を考えても、それが最も賢い選択肢である事は疑いようのない事実。
……当然、そんな状況で一目散に攻めようが数発与えたお返しにあっさり死ぬのがオチだ。
眼前に立つ猫宮さんやアサルトラグーンの二人にばかり気を配っていると、黄泉乃さんの狙撃によって殺られる。
かと言って遠くばかりを警戒していては本末転倒。
とどのつまり八方塞がりである。
うん、以上の点を踏まえるとここで攻めに行くのはまず無い。
……とすると非常に心苦しいが、アレに頼るしかないな。
心の中で盛大にため息を吐く。
闇雲に使う技じゃ無いと言いつつ、何だかんだ月一くらいの間隔でお披露目してる気がするんだが。
いやもう本当に……何度やろうが気分が盛り下がる要素しかない選択だ。
指は痛むわ、精神的ダメージもあるわ、回避一辺倒になるわ……言おうと思えば無限にデメリットを出せそうな気すらしてくる。
ポンポンと浮かんで来る不満と同時に頭に聞こえて来たのは、かつての俺自身が発した言葉。
『あの方法自体を一概に否定はしない。ただ、その試合の戦況を鑑みて……やるべきかどうかを良く考えてくれ』
……ただ、ここまで来たら仕方ないよな。
言い聞かせる形で、無理矢理己を納得させる。
確かにデメリットだらけで、確実性も無くて、戦術と呼ぶには余りにも不完全な代物。
それでも俺が、あの方法に頼る理由は一つ。
試合の戦況を鑑みた上で『今がやるべき時』だったから。
……ただそれだけだ。
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the・主人公って感じだな。(主人公並感)




