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乱入

固唾を飲みながら俺の名を呼ぶ猫宮さん。

その様子からは焦りや迷い……そんな感情が微かに見えた。


そんな中で俺は、絶えず余裕を醸しながら会話を続けていく。


「正直もう少し時間がかかるかと思ってたけど……思いの外早く釣れたみたいだね」

「……釣れた?」

「ああ。普通ならあんな無防備な状態で立つ理由なんてないだろ?当然猫宮さんがここに今来たのも全て狙い通りってことさ」



「ぐっ……!」


してやられたと言うように猫宮さんは唇を噛む。

元々覚悟はしていただろうが……それでも相手の思い通りに行動してしまったという事実は彼女にとって中々に辛いものだろう。




……と言っても、今の俺の台詞はぶっちゃけてしまうとブラフだ。


勿論何もかも狙い通りという程事態が上手く進んでくれてる訳じゃない。

少なくともあと数十秒悩むか……あるいはもう1チーム位ついでにこちらへと誘導したかった。


理想を100と定めたとして、大体65点ぐらいの結果だろう。

失敗と言うにはほど遠いが、胸を張って成功とも主張しきれない微妙な点数である。



ただし……最も重要なのはその損失点をただ悔いるのではなく、どう埋めていくかについて考えることだ。


今回の場合は、あえて虚勢を張る事によって猫宮さん達の認識を誤認させる算段。

狙い通りという台詞を聞いた結果、猫宮さんには少なからず心の中に迷いが生じた筈だ。

実際ただの言葉単体にどれだけの効果があるのかなんて分からないが……やれる事はやっておくべきだろう。



何も試合に使うのは指だけじゃない。

頭も口も……体の全体を利用して勝利への筋道を明瞭なものにしていく。


培ってきた経験や技術、知識と言った要素の一つ一つをフルに活用するのだ。




互いに無言の空気が僅かに流れた後、再び猫宮さんが口を開く。


「一応聞いておくけど、茜ちゃんはどうしたの?」

「道中で先にやられちゃった。…って言えば信じてもらえるのかな?」

「……いや、絶対信じにゃい。どうせどっかに隠れて私を狙ってるんでしょ?」



彼女が導き出した想定は、おおよそ安牌と言える選択。


確かにこの状況で桐原さんが健在だとしたら、背後からの挟撃を警戒するのが普通だろう。


実力的に一歩及ばないからこそ掠め手で裏をかく……ま、基本の思考だな。


それが正解か、不正解なのか、わざわざ俺が明言する利点は一つもない。

ここはどちらとも取れる言い回しで濁しておこう。



「…………どうだろうね」


「何でもいいよ。とにかくkakitaさん、貴方はここで私達が必ず倒すから」



猫宮さんの声音からは、確かな覚悟が感じ取れた。


迷いが完全に薄れた訳じゃないだろうが……既に本人なりの決断は脳内で済まされたのだろう。



……こうなると仕方ないな。

出来ればもう少し会話で時間を稼ぎたかったが、そうも言ってられない。

無害な振りをするのはもうおしまいだ。



「行くよ」


アサルトライフルを構え、駆け足で迫って来る猫宮さん。

俺は合わせるように下ろしていた銃を前に向け、カウンターの姿勢を取った。


数秒後には銃撃戦が始まる。


最も公平な1vs1なんて間違っても望んではいけない。


恐らく猫宮さんの背後では黄泉乃さんが既にこちらへと照準を合わせている筈だ。


目の前の猫宮さんは当然として、はるか遠くからの狙撃にも気を配らねばならない。


……かなりきつい状況だが、今はどうにか耐えるしかないだろう。

再度決心を固め、俺は攻撃キーへと指を合わせた。




その瞬間、重い発砲音が俺達の元に響き渡る。



「……!」


慌てて攻撃を取りやめ、素早く回避へと移行する俺。

目の前の猫宮さんからのものじゃない。

別の誰かからの銃撃だった。



……黄泉乃さんか?


いや、それはありえない。

いくら何でも発砲音を聞き取れる程こっちまで近付く必要は無いんだ。

恐らくレッドウォール付近で彼女は狙撃を狙っているのではないか、と個人的には考えている。



とすると今の攻撃は、間違いなくラビリンス陣営とは関係のない第三者によるもの。



それを証明するかのように、弾丸は俺の元には来ず、猫宮さんの鼻先を掠めていった。

反射的に彼女が身を翻していなければ、恐らく直撃は免れなかっただろう。


「あっぶにゃ……ちょっと、誰!?」


猫宮さんは咄嗟に発砲元らしき岩陰へと振り向く。



そこから出てきたのは、二人の男。


アサルトラグーンに所属するプラントとアレックスだった。



彼らは飄々と、挑戦的な台詞を俺達に向けて発する。



「こういうのを正に漁夫の利って言うんかな。間に合って良かったわ」

「君たちはどちらも極めて驚異的で恐ろしい存在だからね。……ここで一気に仕留めさせてもらう」



対して俺と猫宮さんは、それぞれ思い思いの感想を口にする。


「驚異的って……そりゃこっちの台詞だよ」


「もー!にゃんでこんな時に限って邪魔が入るのさ!」



本当に、恐ろしいなんて台詞は決して貴方達が言えたもんじゃない。


最も……わざわざ乱入という選択肢を選んでいる時点で、自分たちの実力に揺るぎない自信を持っているであろう事は言うまでも無いんだろうが。




結果的に図らずも事前予想での一位、二位、三位が一堂に会していると来た。


ここから予想されるのは、激しい乱戦の勃発。


敵同士がそれぞれ入り混じってる以上は四方八方に弾丸が飛び交う事になるだろう。




そんな未来図を頭に浮かべ、俺は計画通りと言うようにほくそ笑んだ。



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― 新着の感想 ―
[一言] いつも更新楽しみにしています。 漁夫るって言葉が飛び交うこの類のゲームで、トッププレイヤーが「漁夫の利っていうのかな?」と発言するのは違和感ありますが…実際は漁夫っておらず乱入なので、あえ…
[一言] 混戦としてきたな… さて、ここからどう開いていくのか
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