発見
今回から一気にお話が動きます。
終始、一方的な展開だった。
行く当ても無く困惑を重ねる二人に向けてひたすら引き金を引いていくだけの時間。
抵抗以前に狙撃点すら分からないんだ。
ワンサイドゲームにも程がある。
配信映えの観点から見れば良くないのかもしれない。
けど、今の私達にとってそんな都合は二の次。
ロマンチシズムやフェア精神なんてものはとうの昔に捨てた。
むしろ手加減を美談のように語られる方がおかしいだろう。
「ど、どうすれば……大丈夫か?ばぁさん」
「もうここまでなんでしょうか?これじゃあどうしようも……」
「諦めちゃならん!健太にええとこ見せたいじゃろ!」
「……むぅ」
とは言え、一方的に老人達をいたぶるこの構図には如何せん胸の痛みを感じたりもする。
運が悪かったのと単純に警戒不足……としか言えないけどさ。
しかし当然手加減はしない。
最後の希望すら潰すように疲弊した二人の元へ追っ手を運ばせていく。
「……又旅、今行けば反撃もらわずに潰せるだろうから後はお願い」
「よし!トドメ刺してくる!」
くれぐれも慈悲なんてものを期待しないで欲しい。
そもそも私、死神の世界から魂求めてやって来た人形だしね。
と、免罪符のように己の設定を改めて脳内で唱えてみた。
◆
「やっぱアリスちゃんは凄いね。うん、私達にゃら絶対この試合勝てるよ!」
「どうも。じゃ、kakitaさん相手でも心配いらないね」
「…………それは……まぁうん、ケースバイケースってことで」
「……そこで言い淀まないでよ。気持ちは分かるけどさ」
急なテンションの変わりように私は虚を突かれる。
相変わらず又旅のスタンスは良くも悪くも不安定だ。
勢いよく大言壮語を振りまいたかと思えば、途端に弱気になる事が多い。
一分前の発言を即座に自分自身で否定する、なんて事もそこそこあったりする。
……でも仕方ないか、今回ばかりは相手が相手だ。
私が言った台詞も半ば冗談。
自信が無い訳じゃないけど……それでも胸を張って大丈夫なんて絶対言えない。
ケースバイケースという言葉も的を射ているものだ。
少し、今後考え得る状況を簡単に区分化してみよう。
①kakitaさんと他のチームが相討ち。
②kakitaさんが他のチームに倒される。
③kakitaさんを孤立させた状態で戦闘に挑む。
④万全の状態のニューウィークペアと戦う。
⑤万全の状態のニューウィークペアに奇襲を仕掛けられる。
①と②は可能性としてはかなり薄いが、当然最高最善のパターン。
③はその二つには少し劣るけど、充分好条件だ。
現実的な選択肢でならこれが一番理想的だろう。
④は微妙……終盤でそんな展開を強いられでもしなければ極力避けたい。
⑤、言うまでも無く最悪。
周囲に気を配ってるからないとは思いたいけど、万が一そんな事が起こった場合復帰は極めて困難だ。
まとめると、明確な有利条件が見受けられない以上は引き気味で行くのが一番だろう。
結局③の選択肢を現実にしたいのならやはり、最優先で倒すべきは桐原さんだ。
2vs1を軸にして攻める事を前提として立ち回る事を今一度己に言い聞かせる。
……と、その時だった。
「…………居た!kakitaさん居たよ!」
「!?」
又旅の索敵報告を聞いて、心臓が跳ね上がる。
嘘……な訳ないよね。又旅に限って。
ってことは……もしかしたらこの場で彼を……
「え、えっと……具体的な状況は!?そこに何人居る!?」
嗚咽交じりに、私は慌てて詳しい状況説明を求めた。
今の今まで想定の域を出なかった話が、急に現実のものになりかけていたのだ。
焦るのも当然だろう。
重要なのはどんな状態で彼が居るのか。
徘徊中なのか、じっと身を潜めているのか……はたまた戦闘中か。
そして一番重要なのは、桐原さんがまだ生き残っているかどうか、だ。
ここの結果次第じゃ……一気に戦闘が始まる可能性もある。
私達にせよ、kakitaさんにせよ、それぞれの命運がかかった状況。
だからこそ私は、震える思いで又旅の返答を待つ。
緊張を消すために唇を噛むと、口内に少し鉄の味が滲んだ。
さぁ……どうなる?
「………………周りには茜ちゃんも他のチームも居ない。kakitaさん一人だよ」
「……!」
その言葉を耳にした瞬間、はっきりと口角が上がったのが自分でも分かった。
……行ける。今が最大のチャンスだ。
さっきも言った通り、kakitaさん一人の状況は現実的な選択肢の中なら一番理想的なもの。
彼さえ潰してしまえば……その後は奇跡でも起きない限り順当に勝てる筈だ。
ポーカーズだろうと、アクアマリンだろうと、アサルトラグーンだろうと……今の私達なら敵じゃない。
ここで仕留められれば不安要素は完璧に無くなるんだ。
急いで又旅に確認を行う。
「本当に一人なんだよね?じゃあ今すぐ倒しに行こう!!」
正直、言うまでもない事だ。
そもそもkakitaさんを積極的に倒そうと提案したのは彼女の方なのだから。
私に言われずとも、既に又旅の決意は固まっているだろう。
……などと思っていたのも束の間。
「一人……にゃんだけど。…………え?どういうこと?」
「……はい?」
又旅の声音からはかなりの困惑が感じられた。
その真意が、私には全くつかめなかった。
……何を悩む事がある?
だって、優先的にkakitaさんを潰したいって言ったのはそっちだろう?
私ならまだしも、この期に及んでどうしてあんたが……
「……アリスちゃん。説明するより早いだろうから、一回自分の目で見てみて?」
「……分かったよ」
言われるがまま、スコープを使って彼女の視線の先へと照準を合わせる。
「……はぁ?」
そこに映った光景を見て、たまらず間抜けに口をあんぐりと開けてしまう。
「…………どういうこと?」
結果的に私が状況を捉えて発した最初の言葉は、奇しくも又旅と同じものだった。
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今日は午後から二度目のワクチン接種。
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