攻めか守りか
「はぁ……はぁ……」
「やばいぞジョーカー!俺達もうほとんど体力残ってねぇ!」
「分かってる!!だが……クソ、どうすればいいんだ?」
約五分の攻防の末、ポーカーズの二人は既に虫の息という所まで追い詰められていた。
なまじ体力が多いだけに逃げ回る背中をずっと狙い続けるのは少々大変だったが……そろそろ終わりの時が近いようだな。
俺は包帯で僅かな傷も完治させつつ、止めを刺そうと二階に逃げ込んだ彼らの元へ赴いていった。
この体力差なら1vs2でも何ら問題はない。
そもそも数の有利を活かそう、なんて思考に行きつく余裕すらもう向こうには残ってない筈。
桐原さんは一階と二階を繋ぐ階段の横に待機させておく。
こうしておけば、万が一敵を取り零してしまった場合も彼女が対応してくれる……という寸法だ。
眼前にて即座に臨戦態勢を取る俺を見て、二人は恐る恐ると言った感じに後ずさりを行い始めた。
きっと彼らの目には俺の姿は悪魔のように映っている事だろう。
「来やがったな…こうなったらジョーカー!お前の反逆の力を見せてやれ!!」
「よし、任せろ!ペルソ……って出来る訳ないだろ!俺は怪盗団やってる方のジョーカーじゃ無いんだぞ!」
「……クールに見えて意外とノリいいんだなぁ。ジョーカー君」
敵そっちのけで大喜利の様な会話を繰り広げ始める二人。
これは余裕……ではないよな。どう考えても。
むしろ、諦観が極まった末の行いと見るのが妥当か。
……色々いっぱいいっぱいなのは分かるが、当然見逃す訳にはいかない。
最後に謝罪を一言残しつつ、しっかりと銃口を二人に向ける。
「ごめんね。君たちは後々残しておくには余りに厄介すぎる存在なんだ」
キングはぶんぶんと勢いよく首を横に振り始めた。
「いやもう俺ら何もしません!!これからはkakitaさん達の為に戦うんでここはどうか慈悲を……!」
言うに事欠いて終いには命乞いすら始め出すキング。
そんな彼を、ジョーカーは厳しく戒める。
「……やめろキング、みっともないぞ。この人がそういう誘いに乗らない性格なのはもう分かってるだろ?」
「ああ、ジョーカー君の言う通りだ。……それに、生憎こっちにはもう心強い相方が居るんでね」
「そ、そんなぁ……」
がっくしと項垂れる様子を見据えながら、俺はそっと引き金を引いた。
◆
「……あ、お帰り師匠!どうだった?」
「問題ない。無事片付いたよ」
「そっか……良かったぁ」
桐原さんはほっと安寧の息を吐く。
それに合わせて俺もほんの少しばかり肩の力を抜いた。
まだ段階としては序盤も序盤だが……目先の山場は乗り越えたと言っていいだろう。
しかし、10分以上経ってようやく脱落チームが一つ……か。
予想以上のスローペースっぷりだ。
状況の停滞は依然として俺達にとっては心苦しい事である。
「さて……こっからどうしたもんかな」
このままずっと廃墟に籠っていれば当面の安全は約束されるが…いつまでも居られたりはしない。
ネオコロシアムの特徴の一つとして、レッドウォールと言うギミックがある。
読んで字の如く、フィールド全体を覆う真っ赤なエネルギー状の壁。
これは時間が経つにつれ、少しずつ中央へと縮小していくのだ。
レッドウォールの外側に居るプレイヤーは、一秒ごとにじわじわとダメージを受け続ける事になる。
最も数秒程度なら大して気にすることは無い減少量だが……2分もすれば最大値からでも半分以上の体力を持ってかれてしまう。
プレイヤー達は、常に壁の内側で戦う事を強いられる訳だ。
……ま、こういった措置が無い限り皆安全な端っこから動かなくなるだろうしな。
ゲーム性を保つためには仕方ない部分でもある。
そして俺達が今立つ廃墟は、次回のレッドウォール縮小時にマップからはみ出てしまう。
ダメージを受ける前にさっさと去らねばならない。
名残惜しいが……憩いの場とは一旦ここでお別れだ。
……で、問題はその先をどう動いて行くかについて。
戦場の範囲が狭まるという事は、必然的に敵との遭遇率も上がっていく。
ここからはより一層警戒を強める必要があるだろう。
……だがそれは同時に、敵を倒すチャンスが増えたとも解釈できる状況な訳だ。
あえて積極的な姿勢で立ち回っていくのも全然悪くない。
攻めと守り、果たして現段階ではどちらを優先すべきだろうか。
それぞれに相応のリスクとリターンが存在する。
堅実に行くなら後者だが……マニュアル通りの動きじゃいずれ限界が見えてきてしまう。
だったら攻めてみるか……いや、その結果他のプレイヤー達に囲まれでもしたら……
「……うーん」
明確な正解が存在しない悩みに、強く顔をしかめた。
あと数分でレッドウォールの縮小が始まってしまう。
どう動くにせよ、まずはダメージを受ける前にここから立ち退くべきだ。
そろそろ選択を迫られる頃合いだろう。
……と、その時だった。
「あの……師匠、ちょっといい?」
「?」
今まで無言だった桐原さんが、唐突に口を開き出す。
呼びかける声音からは緊急性の様なものは感じられない。
恐らく、新たな敵を見つけたとかでは無いのだろう。
……となると、何だと言うんだ?
俺は時間を気にしながら、手早く彼女に意図を問う。
「どうした?」
「…………上手く行くかは分からないんだけどね。一つだけ作戦を思いついたの」
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次回からラビリンス視点も見せていこうと思います。




