奇襲
精神状態が辛くなった時はア●パンマン強さ議論スレを覗いて笑顔になってます。
入口のすぐ横、それぞれ左右に置かれている二つの木箱の影に俺と桐原さんは身を潜めた。
彼らが扉を開き、中へと足を踏み入れた瞬間が奇襲開始の合図だ。
息を殺しながら刻一刻と好機を待ち続ける。
程なくして、微音だがボイスチャットの音声が扉の外から漏れ出てきた。
「今の所は順調だな。敵にも見つからずに進められている」
「おう。んでもって、しばらくはあそこの建物に引きこもるんだろ?ジョーカー」
「黄泉乃アリスが一番怖いからな。一先ずは建造物を利用して身を隠そう」
……成程、どうやら向こうも大筋の狙いは俺達と同じ様だ。
第一に狙撃を警戒し、尚且つ他のチームとの正面戦闘を極力避けられるように進む。
その二点の条件を満たす為に最も有効な方法は……ずばり籠城である。
いくら黄泉乃さんと言えども建物に身を隠してさえしまえば狙撃は出来ないからな。
安定を求めるならお誂え向きの場所だろう。
尚且つここなら敵との不意の接触も防げ、更には二階から戦況を一瞥する事だって可能。
幾ばくか行動範囲を制限こそされるが、こと防衛の観点においては優秀極まりない。
つまりこの廃墟、一見ただの薄汚れた建物にしか見えないが……
実際は様々な好条件が揃う、非常に素晴らしい優良物件だったのだ。
常に危険が潜む戦場の中でなら目がくらみ、引き寄せられてしまったとしても何ら不思議ではない。
さながら砂漠のオアシスそのものである。
今の今までいつ頭を打ち抜かれるか分からない恐怖に駆られていたんだ。
そりゃ安心安全の場で引きこもりたくもなるよな……凄くその気持ち分かるよ。
うんうんと、大きく頷いて同意を示す。
……だが、生憎ここは既に俺達の拠点だ。
誰が何と言おうと戦場では早い者勝ちが基本のルール。
優秀な物件に多数の人が集まるのは自然の摂理だろう。
そんな中で平然と侵入を試みる不埒な輩共には、お灸をすえてやらねばなるまい。
何、心配せずとも不愛想に『帰れ!』なんて言って追い返すつもりは無い。
……むしろ、『簡単に帰すつもりは無い』と言った方が正しいだろう。
したり顔と共にぼそりと呟く。
「たっぷり遊んで行くがいいさ……遊び疲れて眠りにつくまでな」
「し、師匠……何かちょっとキャラ変わってない?」
扉の前で、とうとう二つの足音がぴたっと止まった。
間違いない。もう目前まで来ているのだろう。
少しずつ高鳴っていく心臓の鼓動を感じながら、俺はそっとマシンガンを両手に構える。
数十秒後には戦闘が…………いや、違うな。
今回行うのは圧倒的な攻めによる蹂躙。
最初から最後まで一方的な展開を維持したまま勝つつもりだ。
戦いと呼べるような状況を生み出す気はさらさら無い。
力強く心の中で宣言させてもらう。
絶対に殺る。例え天変地異が起ころうともあの二人はここで殺る。
鬼の様に荒々しい決意と共に、俺は扉が開くのをじっと待った。
やがて、ギィ……という軋む音と共に外から一筋の光が差し込む。
「じゃ、入るか。お邪魔しまー……」
挨拶を言い終える前に、体の中央周辺部分へと照準を合わせる。
恐らく向こうからも木箱からはみ出た銃口が見えていたんだろう。
キングの視線は一瞬にしてこちらに釘付けになった。
「……す?」
後に続いて入って来たジョーカーも一瞬遅れて気付く。
「しまった……!」
状況を悟り、二人は動揺と共に体をぴたりと硬直させた。
それに合わせて俺は……
「いらっしゃいませ」
優しい歓迎の挨拶と共に、連射を開始する。
勢いよく発射された弾丸は、次々にポーカーズの体を貫いていった。
この際エイムの精密性はある程度度外視してもいい。
そもそも予め出所がはっきり分かってる以上は外す方が難しい話だ。
なら……今優先すべきは着弾数よりも発砲速度。
だからこそ俺はひたすら撃つ。撃って撃って撃ち続ける。
相手の体制が整うその時まで……延々と弾丸のシャワーを二人に浴びせていく。
息つく暇すら与えない。この場で蜂の巣を二つこさえてやろうじゃないか。
発砲する手を止めないまま、淡々と状況分析も怠らずにしておく。
「……やっぱり、体力の減少速度は普段と比べると結構少ないな」
これだけ絶えず攻撃を浴びせ続けてるんだ。
普通なら体力ゲージは8割以上減っていてもおかしくない筈だが、実際与えたダメージ量は全体の約半分程度。
事前に体力を通常より多く設定しているとは聞いていたが……成程、思ってたより増えているようだな。
……だが、今の二人の削れ具合からも情報を得る事が出来る。
ここまでの連射で約50%弱。
その点を踏まえれば、大まかだが今大会での総体力量をある程度測る事が可能だ。
この目安は今後の立ち回りにおいても非常に重要な指標となるだろう。
普段では一歩引かざるを得ない状況でも、今回の体力量でなら気にせず攻め込める場面だって出てくる筈だ。
これを知っているのと居ないのとでは、行動の選択肢の豊富さが大きく変わってくる。
あくまでアバウトな想定値だが……忘れないよう必死に頭に叩き込んでおくとしよう。
……さて、そろそろか。
「くそ……!よりにもよって一番最初に魔王と会っちまうのかよ!」
「やけになるなキング!一旦ここは退いて……!」
させない。
廃墟からポーカーズが去る前に、桐原さんに対して合図を呼びかける。
「今だ、桐原さん!」
「うん!」
俺が声を張り上げるのと同時に、桐原さんは二人の足元に向かってグレネードを投げ込んだ。
響き渡る爆発音。
たちまち黒煙が廃墟の一階を包み込んでいく。
結果的に双方の視界が塞がれたが……次に立つべき地点はもう決まっている。
迷うことなく俺達は、先程まで彼らが立っていた場所へと入れ替わるように移動した。
煙が晴れ、改めてポーカーズと睨み合う俺達。
向こうの体力を見る限り……どうやら直接の被弾は避けられたようだな。
あの一瞬で素早く回避を選択し、爆風をやり過ごされた訳だ。
撃たれながらも冷静な判断力の元、最悪の結末を避ける効率的な動き。
……さすがに強いな。
とうに分かっていた事だが……生半可な実力じゃ簡単に倒せそうにはない。
だが、それでも現状が俺の計画通りに進んでいるのは変わりない事実だ。
爆発のダメージなんて所詮当たればラッキー程度の認識。
あのグレネードの本質は他にある。
答え合わせをするように、ジョーカーは現状を声に出して危ぶんだ。
「しまった……退路を塞がれたか」
廃墟の入り口、それは彼らにとっては唯一の出口とも言える存在。
そこへの道を塞ぐようにして、俺と桐原さんはしっかりと銃を構えて立ち尽くす。
絶対に通さない。そんな俺の心意気は言わずとも向こうに伝わっただろう。
そう、今の攻防での真の目的は逃げ道を塞ぐ事だ。
俺達がこの位置を取ってさえしまえば廃墟からの脱出は困難を極める。
当然間を掻い潜らせるつもりなんて微塵も無い。
不意打ちでダメージを与えられ、更には退路すら既に断たれてしまった。
彼らが取れる対抗策としては正面から俺達を打ち破るか……はたまた永遠に廃墟の中で逃げ回るか。
どちらの択を取るにせよ、成功確率が絶望的である事は言うまでも無いだろう。
正に今のポーカーズは追い込まれた袋のネズミそのもの。
……しかし、だからと言ってまだ終わりではない。
目の前の小動物が、状況次第では強靭な獅子に化ける事だってあり得るんだ。
それを防ぐ為には一縷の油断も隙も見せずに叩き潰すしかない。
評価やブックマークをして頂けると大変励みになります。
書いてて思ったのですが延々と永遠って似て非なる単語ですけど微妙に使い分けが難しいですよね。
僕が言いたいのは永遠。(至言)
【追記】
ご指摘いただきダメージ値を30%から50%に変更いたしました




