直前インタビュー
インタビュー回
一応大会という事なので参加チーム全体を記憶の片隅に入れられるよう簡単な紹介があります。
参加者たちに行われる開始直前でのインタビュー。
何気に十万人を超える観客の前でアピールを行える中々のチャンスだ。
上手くボケる事が出来たのならそれだけでも登録者数増加へと繋がるかもしれない。
ま、俺は下手に滑って空気を凍らせるなんて最低な顛末を防ぐために堅実に行くつもりなんだが。
多分誰もkakitaに笑いのセンスなんて求めていないだろうしな。
普通でいい。普通で。
インタビューは事前に行われた優勝予想を元に、下から順番で行われる。
俺と桐原さんは緊張を胸に抱えつつも、他のプレイヤーの挨拶を聞いていく。
果たしてどのような対応をするのだろうか……?
「ではまず、事前予想では第六位。大人気ユニットであるポーカーズより放たれた二枚の切り札……ジョーカーさんとキングさんです!」
漫画やアニメでしか許されない様な厨二っぽい二つ名と共に紹介が始まっていく。
しばしの間をおいて彼らの声が実況枠からも聞こえてきた。
「……あ、もしもし。もう通話繋がってますよね?えーご紹介に預かりました、ジョーカーです」
「キングっす。今日はよろしくお願いしゃーす!!」
初っ端という中々にきつい立ち位置だと言うのに、揚々と挨拶を行う二人の男。
たかがその一言だけでも場慣れ感が強く伺えた。
俺は予め手元に用意しておいた対戦参加者全員分のデータを記したメモ帳に視線を寄こす。
名前の通りトランプを題材にした男5人組の配信者グループ、ポーカーズ。
甘い声と軽快な話術で昨今の女子高生たちの間で大人気……らしい。
今回はその中からFPS系統のゲームが得意な二人が選出されたという訳だ。
特筆すべき彼らのプレイスタイルとしては圧倒的な防御&回避全振りの安定感を重視した立ち回り。
粘り強く相手の攻め手が潰えるチャンスを待って、終盤に余力を使って一気に押し切る。
……出来れば早い段階で仕留めておきたい厄介なペアだな。
「いやぁ、ポーカーズのお二人は事前予想では六位という事ですが……やはり覆したいですか!?」
「あはは……でも皆さん強豪揃いですので、高望みはしないようにしようと思ってます」
「ま、今回は爪痕残せりゃ万々歳って感じなんでね……精々謙虚に行かせてもらいますわ」
スタイル通りの堅実な応答を行うジョーカーとキング。
あっさりとした受け答えからは野心の様なものは感じられなかった。
……とは言え勿論油断をするつもりは微塵も無い。
本当に勝てると全く思ってない奴が、この場に立ってる筈がないんだからな。
特に大きな問題も無くインタビューは順調に進んでいく。
「続きまして第五位。何よりも強い武器は年の功!?40年間を共に過ごした老夫婦が戦場を駆け抜けていく!山田家より、仁平さんと花子さんです!」
「えっと今日は、うちの健太……ああ孫なんですけどね。あのぉ……これね、見てくれてるらしいのでね…………はい。頑張ります」
「健太ぁ~見とるか~?ばあちゃん達頑張るから応援してな~」
若者向けのゲーム配信にしては余りに異様な光景に思わず息を飲む。
「……やっぱり純粋な初見でのインパクトは山田家のお二人が一番だな」
今年で68歳を迎えるらしいが、にわかには信じ難い話だ。
還暦を過ぎた老夫婦がゲーマーになるって……つくづく世界は広いと感じさせられる。
会話のみでは普通の老人にしか思えないが、実際の試合では有無を言わさぬ素早い攻めで相手を蹂躙していくからな。
全くもって恐ろしい。
「第四位。最終兵器は何と言っても酒!アルコールの力で見事優勝をもぎ取れるか!?飲酒系ストリーマー姉妹……アクアマリンのお二方です!」
「ふぁ~い。私アクアマリンのアクアの方で~す……あれ?私アクアで合ってるよね?」
「あたしは……多分妹のマリンです。えーはい、全員倒します!!倒す倒す!」
「はは…もうすっかり姉妹揃って出来上がってるみたいですね。頑張ってください!」
既にへべれけ気味の彼女らの声を聞いて馬場さんはほのかに苦笑いを浮かべた。
……心中お察しします。
実況の立場からしたら放送事故がひたすらに怖い場面だろうが、それでも平然と対応するその姿勢は感服の一言に尽きる。
本番を前にして飲酒なんて一見ふざけてるようにしか見えないが、これが彼女らの真骨頂なのだ。
酒の力によって生み出される奇想天外なプレイは予想以上に対応が難しい。
良くも悪くも型にはまらない……ある種最も厄介な相手かもな。
……と、ここまで紹介されてきた六名 三チーム。
今をときめくイケボグループに……老夫婦と酒飲み姉妹。
実力は勿論の事、皆揃って個性が強い人間ばかりだ。
まぁ人気配信者って名目がある以上、そりゃキャラが濃いのも当然か。
最も俺達もそれなりにインパクトがある存在だとは自負している。
少なくとも元軍人のアラサー男と初心者上がりの未成年女子という異色の組み合わせは、話題性において他とも全く見劣りはしないだろう。
そう、無理にでも目立たねば……なんて余計な背伸びはいらない。
盛り上げは馬場さんに任せて、俺達は出来る限りの自然体で挑もうじゃないか。
「さぁ……行こうか桐原さん。くれぐれも無理はしないでね?」
「う、うん……自分のペースで、だよね」
基本的な受け答えは全て俺が行う。
桐原さんには負担がいかない様極力背後での相槌係を行ってもらうよう予め相談済みだ。
それを順守していれば問題は無い……と信じたい。
「では続きまして……事前予想では第三位!!しかし注目度で言えばナンバーワンではないでしょうか!私個人としても非常に楽しみなチームです!」
「ふー……」
大きく息を吐く。
注目度ナンバーワンとは、中々に壮大な肩書だな。
……何だかんだやっぱり緊張はする。
思い出すのは小学校時代に幾度となくやらされた一分間スピーチ。
あれを10万人以上の前で行うイメージだ。
だが、多分桐原さんは俺の何倍も緊張に打ち震えている事だろう。
俺が物怖じしていたら彼女は猶更追い詰められてしまう。
ここは年長者としてしっかり先導出来るように頑張ろうじゃないか。
雑念を振り払う為に両頬を勢いよく叩く。
ヒリヒリと沁みるような痛みは、逆に俺を冷静にしてくれた。
「現在話題沸騰中の企業、ニューウィークより参戦いただきました!kakitaさんと、桐原茜さんのお二人です!!」
「よし……行こうか」
俺達は馬場さんの合図の元、意を決して実況席へと通話を繋いだ。
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今の所は一日一話投稿を連日続けられておりますが……また作者である私自身の肉体及び精神面の問題や、突然の急用によって頻度が不透明になるかもしれません。
その際は出来る限り早めに事前告知をしようと思っています。
皆様には歯がゆい思いをさせてしまうかもしれませんが、ご容赦頂ければ幸いです。。




