表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/59

最強のコンビ

肩まで垂れ下がるほどのセンター分けの黒髪、光が薄いグレーの瞳。

表情筋という概念を感じさせない程、常に横一直線の眉と口元。

淡い紺色のドレスも相まって全体的に薄暗い雰囲気と魅力を醸し出している。


諸々ひっくるめて無機質な美少女……と言うのが初見時の簡素な印象だ。




そんな彼女の名前は黄泉乃 アリス(よみの    )

猫宮さんと同じくラビリンスに所属しているvtuberだ。



そして同時に、今回の大会における猫宮さんの相方枠でもある。



死神の世界から生物の魂を求めてやって来た人形のお嬢様。

現世では女子高生として身を潜めつつ配信者として人気を馳せ、効率よく魂を集められる様画策している。

(公式サイトより引用)



……死神なのか人形なのか、はたまたお嬢様なのか女子高生なのか。

若干設定の渋滞感が垣間見えるが、正直今はどうだっていい事だ。

適当な裏事情の想像に脳のリソースを割く余裕など無い。




黄泉乃さんの最大の特徴はネオコロシアムでのプレイスタイルにある。



一言で表すなら、彼女はスナイパー。

つまりは遠距離においての狙撃に特別秀でたプレイヤーと言う訳だ。




……と言った感じに説明してしまえば何てことないようにも思える。


人によって得手不得手があるのは当然。

そんな中で黄泉乃さんは遠くから狙うのが得意、とそれだけの事。

しっかり前以て作戦を練れば対処の仕様は無数に存在するだろう。




…………だが、それはあくまで通常時においての対策に過ぎない。

大人しく常識の範疇で留まってくれるなら俺が頭を抱える必要は無いんだ。



彼女の腕前は秀でただの得意だの、そんなありふれた範囲で収まってはくれない。



どうしても端的に説明するのなら、天才、化け物……といった単語を当てはめるべきだろう。

それ程までに黄泉乃さんのスナイパーとしての実力は洗練され切っている。



切り抜きで見た光景には心底驚かされた。



画面の端に映った埃の様な敵の影。

機能上本当にギリギリ表示されている……と言うほど距離は離れている。

どう考えてもここから攻撃されるなど、普通は考えもしないだろう。



……だが彼女は違った。


迷うことなく切れ端サイズの敵に照準を合わせ始める。


まるで息をするかの如く自然に、素早く、柔軟に。

きっと初見のリスナーならばおふざけにすら見えるだろう。


「私ね、毎日ジャンクフードやデリバリーばっかの食生活にそろそろ危機感を感じて来たの」


当然の如く先ほどまで続けていた雑談も一切止めないと来た。

傍から見たら完全にエンジョイプレイヤーの振る舞いだ。

どれだけ甘く見積もっても狙撃を試みているようには普通思えない。



しかし何だかんだでペラペラと口を動かしつつも、悠々と狙撃点の微調整を終えたかと思えば……


「ん」



黄泉乃さんは微かに喉を鳴らしつつ、僅かな迷いすら見せずにスナイパーライフルを相手に目掛けて放つ。



弾丸は寸分狂わず狙った地点へと真っ直ぐ飛来していき、瞬く間に対象のこめかみを綺麗に貫いた。

やられた方はきっと何が起きたかすら分からずに困惑しつくしていた事だろう。


誰にも予想できない程に見事なヘッドショット。正にスーパープレイだ。



【うめえええええええええ】

【は?】

【あれ当たるのは草】

【なんや今の……】

【当たった!?】

【ナイスゥ!】

【凄すぎて意味分からん】

【これはww切り抜き確定www】


コメント欄は一連の流れを目の当たりにして大きな盛り上がりを見せた。

配信を楽しみに見ている視聴者なら極めて自然な反応だ。



だが相反して黄泉乃さんは気にも留めず冷静に雑談を再開する。


「でさ、最近ちょこちょこ自炊始めたんだけど……」



彼女にとって今のプレイは別段反応を寄こすほどのものじゃないのだ。

あくまで本人からしてみれば当然の結果に過ぎない。


偶然でも高望みでもなく、最初から狙撃が成功することを完全に確信していた。



つまり何時如何なる場合でも黄泉乃さんはあのレベルのスナイプを行えると考えていいだろう。


……必然的に敵側は、超精密射撃による突然の死が到来することを常に警戒せねばならない訳だ。



これから対戦する身としてはふざけるなと声を大にして言いたい。


単純な腕前もそうだが、一番恐ろしいのは迷いの無さ。

ぶっちゃけエイムの実力だけを抜き出すなら俺すら優に超えている。



少なくとも今大会……いや、恐らくユーザー全てを比較対象に挙げても、彼女の右に出る者は居ないだろう。



ただ、化け物じみたエイム力と比べると真正面の撃ち合いでのプレイは多少粗削り。



そこに付け入れば勝機は見えるが……何度も言った通り今回のルールはペアマッチ。



その穴を埋める存在、猫宮さんが居るからこそラビリンスは最強チームと名高いんだ。





戦場でのインファイトを猫宮さんに任せ、はるか遠くから黄泉乃さんは追撃を行う。


片や近距離戦の猛者、片や常識外れの超凄腕スナイパー。


互いの強みを生かした高度なプレイング……シンプルながら、いやシンプル故に何よりも強靭且つ揺るがない。




一番嫌なのは明確な弱点が存在していない点だ。

どれだけ一部に特化した相手だろうと弱みを軸に攻め方を考えればやりようはある。


ただ、二人はそれぞれの弱点を打ち消し合える相互関係であって……そこら辺も抜かりない。





客観的に分析するのなら一番完成されてるのは明らかにラビリンスのコンビだ。



彼女達を相手にどう立ち回れるかが……今回の大会における最大の課題だろう。


評価やブックマークをして頂けると大変励みになります。


すいません。見積もりと違って大会開始までもう一話かかりそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] これは面白くなってきた!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ