大会前夜
新章開始。
時系列が大会前夜まで飛びます。
【大会前夜、諸々雑談】1時間前から配信中
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「でまぁ、改めてなんだけど……大会中はコメントの民度気を付けようね。プレイの粗探しとか相手企業との対立煽りとか本当にいらないから」
既に何度忠告したか分からないが、リスナーに向けて再度言い聞かせておく。
いつもより数段強めの口調になってしまっているのは自覚していた。
しかし配信上においてコメント欄の荒れ具合は深刻な問題である以上は厳格に対応せねばなるまい。
前日ともなれば再確認は必須だ。
そんな俺の意識の持ちようを皆にも分かってもらう為、きゅっと顔をしかめる。
コメント欄には同調の声が次々に募っていった。
【把握】
【そこ大事ね】
【りょ!】
【荒らしも自治厨も互いに自重しような】
【楽しい大会にしたいですもんね】
【そもそも全員俺より上手いしな……】
「うん、皆ありがとう。あくまで大会は互いに切磋琢磨していきたいからね」
素直な反応に感謝をしつつもまだ不安は絶えず胸に残ったまま。
一見全体を通しても心配ない反応に見えるが……
それでも明日のコメント欄がそこそこ荒れるであろうことを既に俺は覚悟しつつあった。
……まぁ、根本から企業間での戦いをコンセプトにした企画だからな。
どうしても主軸が対立系に進む以上、そういった流れは受け入れる他ないだろう。
止めて欲しいどうこうの意識は最早関係ない。自然災害ぐらいの感覚だ。
前提として、配信者としての俺達は今後を重視した立ち回りを意識して試合に臨む。
腹の底までは知らないが、少なくとも表向きでは皆勝敗はさておき基本は和気あいあいとした接し方をするつもりだろう。
この大会は後々互いの利益に繋がる人脈を新たに築くチャンスも大いに存在しているからな。
わざわざ邪険に振舞って好感度を下げる者など出てくる筈がない。
しかしリスナーが参加者の意思を汲み取って行動してくれるかと言うとそんな事は無く……
実際は真反対と言っていいくらいに企業毎のファン同士で対立していると来た。
〇〇の方が上手い、××のチームが勝つに決まってる、△△みたいな雑魚が勝つのは有り得ない。
あくまで全体と比較したら僅かな割合に過ぎないが、最近はそんなコメントもよく見るようになった。
視聴者数、勝敗、プレイの練度等々、一応優劣を付けられる要素は数多く存在している。
となると他人の褌で相撲を取りたがる人間が往々にして出てくるのは受け入れるしかない。
ただ、試合に全力で挑むのは当然だが……同時に仲良くやりたいと言うのが俺の心境だ。
そもそもゲームってのは普通楽しくプレイするものだろ?
だからこそ視聴者達の諍いを案じなければならない現状には、少しやるせなさを感じる面もある。
倦怠感を振り払うように、俺はコメント欄の中から適当に話題を探す。
様々な声が飛び交う様をじっくり眺めていると、一つの質問が目に入った。
「……kakitaさんから見て一番強い相手チームはどこですか?……あーっと」
天井を向いて困惑を露わにする。
こればっかりは少しばかり回答に悩まざるを得ないな。
対立どうこうに気を付けろと言った早々にこう言った質問を拾うのは我ながら少々迂闊だったかもしれない。
別に普通なら特別気にするよう内容でも無い筈なんだがな。
答え方によっては一部に火種を注ぎそうな状況だが、さて……
「……うーん、取り合えず大前提として皆超上手いからね。状況次第で簡単に左右する話ではあるよ」
まず用意するのは無難を極めた前置き。
なるべく全方位に角が立たないように出来る限り曖昧な判断を残すつもりだ。
とは言っても実際に参加者全員がアホみたいに強いのは本当の事。
少なくとも俺一人でも二人同時に相手できるなんて楽観視できるチームは存在しない。
タイマンでなら誰にも負けない自信はあるが、ペアマッチにおいてそんな条件を軸にするのもナンセンスな話だろう。
多人数でのプレイともなれば予想外のムーブを見せる事だってある。
従って一概に強弱の観点で判断を下すことはできない。
その上で俺が見出すべきは、一番安定した立ち回りが出来ている相手チームだが……
さすれば、脳裏によぎるのはやはりあの二人組。
「……ただ、やっぱり現時点で一番警戒してるのはラビリンス。猫宮さん達のチームかな」
【はい】
【知ってた】
【デスヨネー】
【あそこはやばいんよ】
【ラビリンスの動き次第で変わってくるゲームではあるよね】
……皆も概ね同意見の様だ。
伊達に優勝予想で一位を取った訳じゃないな。
苦笑いを見せつつ、脳内で彼女達についての情報を今一度思い起こしてみる。
強豪たちの中でも一際存在感を放つvtuber企業、ラビリンス。
その理由はやはり純粋な実力によるものが大きいだろう。
まず猫宮さんについては……今更言うまでも無いが非常に優れたプレイヤーだ。
特に近接戦においての実力は今大会の中でも一二を争う程。
加えてサポートも万全、際立って非の打ち所がないプレイスタイルには心底感服させられる。
あれが敵に回ると考えると今からでも総毛立つ思いだ。
……更にそれだけでは終わらない。
猫宮さん一人が強いだけなら優勝予想でトップを取る事は無いだろう。
確かに彼女は強い……が、正直彼女だけなら対処の仕様は幾らでもある。
堅実なプレイを維持する事さえ出来れば、十中八九俺が勝つであろう勝負。
しかしさっきも言った通りこれはチーム戦。
真に恐れるべきは猫宮さんの相方の存在なのだ。
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もう一話雑談回を挟んで大会本番を始める予定です。
出来る限り更新ペースを戻せるよう頑張るつもりなので何卒宜しくお願い致します。
無理しない範囲で無理をしたいと言うジレンマ……




