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元軍人の俺は最強のFPS系配信者として再び戦場で無双する  作者: ゆずけんてぃ
配信者デビューと弟子になりたい少女
30/59

頼み

「よし、今日はここまでにしておこう。お疲れ様」


既に練習を始めてから1時間30分が経過していた。

潮時と見て俺はネオコロシアムを終了する。


つい先ほどまで通常配信も行っていたんだ。過度なオーバーワークは体に良くない。


「お疲れ様です。今日も…ありがとうございました」



そういう彼女の様子は、やはりどこか陰鬱としていて。

通話越しでも漠然とした不安を駆り立てられてしまった。


……まずいな。

このままだと実力以前に彼女のメンタルに限界が来るもしれない。

真面目さも突き詰めすぎると考え物である。



どうにかして精神的に楽にする方法を……



……そうだ。

俺の頭に一つの妙案が思い浮かぶ。


「桐原さん。良かったら気分転換にストファイでもやらない?」

「え?いいの!?やる!」


提案を受けた途端に桐原さんの声のトーンが一気に跳ね上がる。


好きな格闘ゲームをやればいくらか気が晴れると踏んだが……どうやら正解だったようだ。


家庭版のストームファイター5。実況用として買っておいて良かった。

安堵しながらディスクをゲーム機器に挿入していく。



互いにキャラ選択を行っている所でふと桐原さんは疑問を呈する。


「あれ?でも師匠ってストファイ……ていうか格ゲーやったことあるの?」


確かに俺は初配信でFPS以外のゲームはからっきしである様な言い回しをした。



世界大会で優勝している自分が、操作方法すら分からない初心者と戦うのはさすがにアンフェアだと感じたのだろう。


そんな彼女の気遣いに対して不敵な笑みと共に答える。


「ふふふ……これでも俺は学生時代はそれなりに名の通った実力者だったんだぜ?」



勿論これは嘘なんかじゃない。


配信内で口にしたことはまだ無いが、当時はよくゲーセンに通ったものだ。



アーケード台に座りながらスティックを巧みに動かし敵をなぎ倒していく毎日。


一体何枚ストファイに100円を費やしたか分からない。

お陰で、少なくとも周りの同級生の中では抜きんでて強くなれた。



プロにも勝てるなどと自信を持って言えないが……それなりにいい勝負は出来る筈だ。



「よし、じゃあ始めようか!」

「対戦よろしくお願いします」





『ラウンド1……ファイト!』




「行くぞ!」

まずは挨拶代わりに遠距離攻撃を放つ。

↓↘→+パンチ、10年前から変わらないコマンドだ。


桐原さんは素早い判断の元ガードでしっかりと防ぐ。



と言ってもこれは所詮牽制、ここからどう立ち回っていくかが重要であ



「……え?」


「もらった」



考えている隙を狙われ、あっという間に懐へと潜り込まれてしまう。



そこから息つく暇すら無い程の桐原さんの攻撃が始まった。


いや、最早攻撃というより……蹂躙と言った方が正しいだろうか。



目にも止まらぬコンボが次々と俺のキャラに浴びせられる。


発生、持続、範囲、ダメージ……何もかもが計算されつくされている動きだ。


比例してどんどん体力が底を付いていく。


その間桐原さんは独り言を延々と唱えていた。


「弱二連、掌底で打ち上げ……そのまま空強繋げて……左受け身読んで鳳仙脚入るから……」

「ちょっと、一回タンマ!え?え?」

「ガー不技振って……で、しゃがみ弱入れたらコンボ継続っと」


俺の提案は聞く耳すら持たれない。

当然だ。勝負の世界に待ったなどありはしないのだから。



時間にして僅か22秒。


『You Lose』


一撃を入れる事すら出来ぬまま戦いは俺の完全敗北で幕を閉じた。

誰がどう見ても一方的な試合展開と判断するだろう。


それなりにいい勝負が出来る。などという甘い見通しは圧倒的な実力の前にあっさりと砕かれたのだった。






「対戦、ありがとうございました」

「ど、どうも。分かってたことだけど本当に強いね、桐原さん」

「えへへ……一応何年もやって来たゲームだし。普通だよ」


謙遜しつつ柔らかな笑みを浮かべる桐原さん。


だが、何故だかこの時の俺は彼女の笑いにそこはかとない威圧感を覚えていた。

まるで魔王と対面しているような気分である。




本当に、さっきまでの体を強張らせていたネコでのプレイングからは考えられない程流麗なコンボだった。


優秀な判断力に確かな経験が加わった結果、ここまで強くなるとは……


凄い……それ故にどうしても勿体ないとも思えてきてしまう。



あともう一か月猶予があれば大会でも怯むことなく立ち回れるだろうに。

ないものねだりをしてもしょうがないのだが、それでも考えずにはいられない。


せめて何か……緊張緩和の切っ掛けになる物を探せればいいのだが。


そんなことをひたすら考えていた時だった。




「……あの、師匠。折り入って頼みがあるんだけど」


非常に珍しい向こうからの提案。

基本受動的な彼女にしてはかなり稀な発言だ。


僅かに驚きながらも、平常心を装いながら相槌を打つ。


「頼み?」

「は、はい」


何を言い出すか想像もつかないが……ひょっとしたら桐原さんは打開策を見つけたのかもしれない。


そうでなくとも自分自身で考えて何かをやろうとした。その事実だけでも価値があるんだ。



だからこそ俺は精一杯の誠意をもって答える。


「俺に出来る事だったら何でもやるよ。遠慮せず言ってね」




少々の沈黙の後、彼女は提案を始めた。





「え……っと、その……突然すぎるお誘いかもしれないんですけど」


「……お誘い?」



開始早々独特の言葉選びに疑問を持つ。


パソコンからは桐原さんの息を飲む音が聞こえてきた。



お誘いの意味は詳しく分からないが、それなりに重い内容だということが伺える。


……一体どんなお願いが来ると言うのだろうか。

額に伝う汗を感じながら、彼女の答えを俺は待つ。





「も、もし良ければ……今週末、私のおうちに来てくれませんか?」

評価やブックマークをして頂けると大変励みになります。


今の所新作短編は

『俺に彼女が出来た結果、超絶ブラコンの妹がNTRモノにハマり出した』

的な感じのを考えております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも面白いです。 信じて格ゲー勝負に挑んだ柿田さんが、 まさか魔王と化した茜さんに蹂躙されるなんて……。 でもあまり残念でもないし当然ですね。 相手は大会チャンピオンですから……。 や…
2021/09/22 15:42 退会済み
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