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Vtuber

沢山のブックマークや評価、温かい感想に救われています

翌日、11月後半特有の冷たい空気を感じながら目を覚ます。


寝ぼけた眼で時計を見ると短針はぴったり5時を指していた。

「……軍人時代の習慣ってのはそう簡単に消えないもんだな」

早朝も早朝、配信者には全くもって必要のない早起き具合である。

2時間ほどかけてゆっくりと身だしなみを整え、朝食を済ませておいた。




そうして俺は、改めて昨日の雑談配信の投げ銭を確認してみる。

もしかしたら夢だったりしないだろうか。

そんな期待を微かに持ったりもしたが……


「はぁ……やっぱ現実だよな」

目の前に表示される揺るぎない数字にため息をつく。


端数まで含めた総額は142万6056円。

中古車くらいなら買えてしまいそうな程の額を一夜にして貢がれるって……俺はホストか?



と言ってもこの分のお金がそっくりそのまま手元まで入ってくる訳では無い。

投げ銭は総額の内三割を配信元のサイトに還元しなければいけないというルールがあるのだ。

更にそこから俺の場合は半分を所属している企業に取られる。

勿論あらかじめ承認した上で契約している為なんら問題は無い。



まとめると俺個人の利益として入ってくるのは元のおよそ三分の一程度。

従って今回の場合は……45万円くらいだな。



「いやおかしいだろ、45万?」

声に出して現状の異様さを再確認する。


差額で考えると物凄く減ったように見えるが、それでも大金であることに変わりない。

そこらのサラリーマンの月収を優に超えるレベルだ。

たった一時間で貰えていい額ではない。



ここで一瞬、俺の頭に邪な考えがよぎる。


何気ない雑談配信でこんなに稼いでしまえるのなら……記念日だとどうなるんだ?


例えば登録者数40万人突破とか、誕生日とか。

そういった風に記念日と銘打った上で配信を行ってみたりしたら……



果たして、一日でどれだけ稼げてしまうのだろうか?



「……馬鹿、何考えてんだ俺は」

両頬を勢いよく叩いて気持ちを切り替える。

こんな風に大概の人間は中途半端に成功すると途端に調子づいてしまう。


軍人時代を思い出せ、柿田通。

己を律し、最大限ストイックな姿勢で臨むべきだ。

今が恵まれすぎているだけで…それがいつまでも続く保証なんてどこにもないのだから。





気分転換にコンビニまで出向き、昼食を買う。

料理は一通り出来るが今日は気分じゃ無かった。


適当に菓子パンやインスタント食品をカゴに放り込んでいく。

そのままレジに向かおうとした俺だが直前であることに気付いた。

「……あ、今月号まだ買ってなかったな」

慌てて雑誌コーナーへと踵を返す。



そこには芸能界の裏を暴く週刊誌や中高生のほとんどが読んでいる少年誌、他にも様々なジャンルの本が並んでいる。

豊富な種類の中から俺はとある雑誌を手に取った。


本の名は〈月刊バーチャルメディア〉。


「今じゃ配信者が特集組まれる時代だもんなぁ」


と感慨深げに呟いてみた。


10年前からしてみれば考えられない事態である。

あくまで一般の枠だった人達が、今じゃアイドルの様に扱われているのだ。

最も俺も当事者なんだが……



しかし、この本で取り扱われている配信者たちは皆、通常のものとはまた少し異なる。

一風変わった共通点があるのだ。



俺達の住む世界とは別次元に存在し、配信を行う。

人々は仮想世界(Virtual)にて生きる者たちを総じてVtuberと称した。



これがまぁ……めちゃくちゃ話題になった。


フィクション世界の美男美女が意気揚々と配信を行う。

視聴者と共にゲームをしたり、雑談をしたり……言わば二次元と三次元の交流が行われるのだ。


次元一つ隔てた存在と身近に接する事が出来る。

そんな画期的なシステムにアニメやゲームが好きな人間は当然の如く食いつくわけだ。



……と、俯瞰した目線で語っているが俺もその内の一人になりつつある。

だからこそこうしてVtuber関連の本を定期購読しているのだ。



「あ、今月の表紙猫宮さんか」


本を手に取って早々映るのは如何にも二次元と言った美少女。


銀髪ツインテールに丸く大きい赤色の目。


桃色の和服を纏っていて、頭頂部には猫耳がちょこんと乗っている。



あざとい。全くもってあざといな。

オタクってこういうの好きでしょ?と言った感じが全身図から見て取れる。


……実際好きな為何とも言えない。




彼女の名前は猫宮 又旅(ねこみや またたび)


猫と人間のハーフで猫語と人語の両方を操ることができる。

気ままな性格である日ふと思い立って配信を始めたそうだ。

チャームポイントは猫耳と甘い声。

(公式サイトより引用)


……まぁここら辺については目を逸らすとして、解説を続けようか。


猫宮さんは日本でトップクラスのVtuber企業〈ラビリンス〉に所属している配信者。

チャンネル登録者数は驚異の120万人。何と俺の3倍だ。

これだけでも充分凄さは伝わってくるだろう。


最近じゃ活躍は配信に留まらずCDデビュー、果ては彼女を題材にアニメを作るなんて噂すら立つ。

Vtuber文化にそれなりに触れている人間なら名を知らぬ人間などまず居ない。



と、彼女は正に時代の最先端を行く存在なのだ。



……それと同時に、俺にとって非常に関わり深い人物でもある。


話したことがあるとか……お世話になったとか……そんな一言じゃとても言い表せない程に。



少なくとも猫宮さんが居なければ、配信者kakitaは間違いなく存在しなかっただろう。




……そう、あの日。


あの日彼女と出会ったことによって、俺の人生に大きな変革がもたらされたのだ。

ブックマークや評価をしていただけると大変励みになります。


ここからようやくFPSの描写が出来そうです

タイトル詐欺と言われないよう頑張りたい……

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― 新着の感想 ―
[良い点] 全て [一言] 新キャラ凄いもぐもぐしてそうですね笑笑
[良い点] 新キャラの猫宮さんいい設定ですね!設定がVtuberっていうのも現実的で素敵だと思います! [気になる点] 次の話!! [一言] 投稿頻度がよくて毎日が楽しみになりました!! これからも…
[良い点] 題材と、読みやすさ。 [一言] 所属企業に50%支払のはVtuberの場合ですかね。 通常の配信者は広告料の10〜20%くらいです。 Vtuberはモデル利用費を含むので、比較して非常に高…
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