配信終了
序盤は宮園視点
優しいご指摘誠にありがとうございます
これを糧に進めさせて頂きます。
社長室にて配信を眺めながら、私はひたすらにやけ切った笑顔を浮かべていた。
「ふふふ……初配信でもうリスナーとの適度な距離感が作れてるじゃん」
途中で敬語も抜けたし、もう緊張の心配は無さそうだね。
順調な進行具合に喜びながら、机に置いていたワインをぐっと呷る。
普段あんまりお酒を飲まない私だけど……今日は祝杯と言った所だ。
吹き抜けるような葡萄の香りに浸りながら先ほどの流れについて考える。
「ぷはぁ……しっかし、くしゃみ助かる。ねぇ……」
あれは専らVtuber界隈限定の様式美。
通常の顔出し配信者じゃ基本的に見られないコメントだと思ってたけど……
「多分、猫ちゃんの方のリスナーさんが結構来てるのかな?」
考えられる可能性としてはそんなものだろう。
元々猫宮又旅を起点にして話題になったんだしね。
FPSプレイヤーは勿論として、Vtuberファンの視聴者も多い筈だ。
「うんうん。いい流れですな~」
グラスを左右に揺らしながら私は現状を喜ぶ。
純粋に社長としてもやはり新規客の参入は嬉しい事である。
配信は、何だかんだで数字を一番に重視しなきゃいけないジャンルなのだから。
画面の中の先輩はコメントの中から適当に質問返答を行っていた。
「好きな食べ物?あー……シュークリームとかパンケーキとかかな。基本甘い奴」
【可愛いww】
【乙女か】
【草】
【軍人って虫とか食ってそうなのに……】
【ギャップあっていいと思います】
【普通に休日スイパラとか行ってそう】
「いやいやそんな、可愛いって……28の男に対する評価じゃなくないか?」
独特の流れに困惑しつつ苦笑いを見せる先輩。
確かにアラサーの男性がここまで可愛い可愛いと連呼されるシチュエーションは中々珍しいものだ。
……ま、これも全部狙い通りなんだけどね。
古来より王道の萌えジャンルとして一つ、ギャップ萌えという物がある。
普段の立ち振る舞いとは違った顔を覗かせた際の落差で可愛いと思う感情を指す言葉だ。
修羅場をくぐり抜けてきた凛々しい雰囲気が醸し出される顔立ち。
同時に持ち合わせている圧倒的なFPSの腕前。
またそれらと相反してどこか女の子らしい一面がある。
正に先輩はギャップ萌えの体現者と言える存在だろう。
私は誰よりも先輩の魅力を知っている。
理由は簡単だ。
「本当に……柿田先輩は可愛いなぁ」
今は私が、世界中で一番彼の事を愛しているからである。
◆
「麻雀はルール知ってる!そうだな、参加型の配信とかやってみたいね」
視聴者と共に今後の予定について軽く話し合う。
かれこれ開始から40分、すっかり配信内の空気は澄み切っていた。
楽しい時間を共有している事実に心地よさを感じながら会話を続ける。
「後は……下手くそでも良ければ別ジャンルのゲームにも挑戦していきたいかな」
予防線を張りつつ皆の反応を伺ってみた。
FPSを中心に配信するのは既定路線だが、可能なら多岐にわたってより視聴者層を広げていきたい。
さて……どうなる?
【柔軟に行く姿勢はグッド】
【全然いいと思うよ】
【誰だって最初は初心者やで】
【格ゲーとかならそれこそ先輩に教えてもらえばいいんじゃね】
「……教えてもらう、か。確かにそれもいいかも」
好意的な反応に安心しつつ俺は社内の先輩との関わり方について改めて考え込んでみた。
格ゲー……一応俺も昔は少々嗜んでいたな。
確か会社の中で有名なのは桐原茜さん…だったか?
何でも18にして世界大会で優勝を成し遂げている凄腕プレイヤーらしい。
あくまで資料として見せられただけなので何とも言えないがな。
俺としては可能なら是非ともプロの技術をお教え願いたい。
だが……諸事情により少々難しそうである。
『茜ちゃん死ぬほど人見知りなんですよ。社内でも私にしか心開いてませんし』
宮園曰く桐原さんは相当のコミュ障だそうだ。
それはもう……最低限の会話すらままならない程らしい。
当然初対面の人間にノウハウを教えるなんて以ての外。
そんな相手ともサラッと心を通じ合わせている点が我らが社長殿の凄い所である。
露骨に教えてもらいたいなんて姿勢を出して彼女にプレッシャーを与えてはいけない。
一先ず話題に区切りをつけておくとしよう。
「……まぁ、相手の反応次第かな」
曖昧な態度でお茶を濁し、俺はこの場を収めたのであった。
配信を開始してから既に一時間が経過している。
既に予定した段取りは全てこなし、話すべき内容ももう無い。
引き延ばす理由は皆無、そろそろ潮時だろう。
「じゃあ今日の配信は……この辺にしておこうかな」
【もう一時間か】
【楽しかったです!】
【皆、チャンネル登録は済ませたか!?】
【正にあっという間やね】
【もう28時間くらい配信してほしい(無茶ぶり)】
【kakitaさんの印象がいい意味で180°変わった配信だった】
コメント欄には名残惜しそうな皆の声が募る。
……正直、俺も同じ気持ちだった。
予想以上に配信という行為に執心していた事実に我ながら驚く。
前日までの緊張が嘘みたいな気持ちの変わりようである。
だが、別にこれで終わりという訳では断じてない。
いやむしろ……ここから始めていくんだ。
「じゃあ、次の配信は明後日の18時から。皆が期待してるであろうネオコロシアムをプレイ
しようと思ってるよ」
【了解です】
【明後日把握】
【遂にkakita視点のプレイが見れるのか】
【キーマウ操作時の手元見てぇ】
【同接5万は超えそうだな】
【お疲れ様でした】
【おつ!最高の一時間だった!】
「改めまして……今日は本当にありがとうございました!」
とても一言じゃ伝えきれない感謝の気持ちを抱えながら、再度頭を下げる。
皆の優しい対応があったからこそ、今日はフラットな姿勢で配信を行えた。
そして……配信を心から楽しむことが出来たんだ。
本当に、周りの世話になりっぱなしだな。俺は。
どれだけ自分が恵まれている環境に居るかを強く実感する。
だからこそ、次はこっちが頑張る番だ。
精一杯配信をこなして皆を楽しませる。
確かな成果を残して会社に利益をもたらす。
それこそが……俺に出来る最大限の恩返しなのだから。
胸中に強い決意を抱きながら、俺はそっと配信終了ボタンを押した。
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もうキタ――(゜∀゜)――!!やm9(^Д^)プギャーはネットじゃ死語なんですよね……
今時の子はアスキーアートとかも知らないのだろうか。




