初配信前日
キャラ紹介とかをそろそろやりたいとおもっちぇます。
一話の前へ割り込み投稿する形で大丈夫でしょうか?
伝説を残したFPSプレイヤー、kakitaが配信者としてデビューすると言う情報はSNS全体を著しく沸かせた。
発表された途端にトレンドの一位をあっという間にかっさらっていき……
ニューウィークの公式アカウントの告知に対してはいいねが5万件以上。
スカルブラザーズとの試合の切り抜きに関しては既に300万回再生を突破していた。
更に、人気の火付け役になった存在である猫宮さんもその件について触れる。
「そうそう、kakitaさん企業入ったんだよね!いやー初配信楽しみすぎるにゃ~」
視聴者参加型の麻雀配信の中で、真っ赤な瞳を輝かせた彼女はさぞ嬉しそうに語っていた。
当時の配信を見ていたリスナー達も必然的にその話題で盛り上がる。
【あれ見てびびった!】
【又旅ちゃん的にも色々運命感じるよね】
【コラボしてくれへんかな】
【正式にコラボ待ってる】
【また二人のペアマッチ見たいです!】¥1000
「もー皆落ち着いて。まず向こうがいいって言わなきゃ駄目にゃんだからね!」
猛り立つコメント欄を制する猫宮さんだが……案外満更でもなさそうだった。
日が経つにつれ、どんどん皆のkakitaに対する期待値は高まる一方だ。
配信者となった彼は、一体どんな歴史を残すのだろうか……と。
◆
「せ、先輩……大丈夫?」
「既に吐き気すら催してきているが多分きっと恐らく大丈夫だ」
「駄目じゃないですか!ほらほら、落ち着いてください」
緊張の極致に至った俺を案じて宮園は一生懸命背中をさすってくれる。
学生時代の後輩に動揺を抑えてもらう光景は傍から見たら滑稽そのものかもしれないが……
……さすがに今回ばかりは許してくれ。
初配信を控えた前日、俺達は本社の打ち合わせ室で最終会議を行っていた。
当日のトーク内容、全体の段取り、周辺機器の設定確認は既に完了済み。
なら後は何が必要かと言うと……緊張に打ち勝つ精神力だ。
「なぁ宮園、やっぱ明日配信見に来る視聴者って……相当な数になるよな」
恐る恐る聞いてみる。
「……嘘ついてもどうにもならないんで正直に言いますね。絶対えげつないレベルで来ます」
絶対。力強いその二文字に胃がキュッと音を立てて締まり出す。
おまけにえげつないという修飾語まで付いてきた。
分かってはいたがいざ直前になると様々な杞憂が脳を駆り立てていく。
本当に俺なんかがうまくやれるのだろうか……?
掛けられている期待の大きさは溢れる程理解している。
しかし期待とプレッシャーは表裏一体。
見方を変えてみると俺には多数の重圧が掛かっているとも解釈できるのだ。
スマホを眺めながら宮園は苦虫を嚙み潰したような表情を見せる。
「出来る限り少なく見積もっても5……いえ6万人以上は確定かと」
「……6万人以上の人間の元に顔を晒すのか」
「大丈夫ですって。今の先輩はちゃんとカッコいいですから」
顔出しをするにあたってしっかり髪型はツーブロックでまとめたし髭も剃った。
一応汚らしいと言う印象を抱かれない程度にはイメチェンできたと思う。
まぁ、元々ルックスを売りになんてしてないしそこは大丈夫か。
そして数分後。
「何だかんだ戦場に初めて立った時よりはマシだけどな」
「……いやさすがにそれは比較対象が強すぎるでしょ」
間をおいてシラフに戻った俺を見てたまらず宮園が突っ込む。
全くもってその通りだと思います。
……でも実際、あの瞬間の緊張を超える事なんてのは多分今後の人生においても無いだろう。
訓練とは違う。一挙手一投足の判断の誤りが死に直結する世界。
明確な正解なんてものはなく、臨機応変に喰らいついていかねばらない。
先が見えない恐怖と戦いながら、必死に駆け抜ける毎日を俺は過ごして来た。
「それと比べたら……配信でミスを起こしたって別に死ぬ訳でもないんだ」
「むしろ死んだら怖すぎません?」
そうやって考えてみると案外行けるんじゃないだろうか。
勿論思考放棄と言われたら一概に否定は出来ない。
が、考えすぎてどつぼにはまる位ならいっそ捨ててみるのもありだ。
「まぁ、リスナーの皆さんは上司でも無いですし……気軽にやるのが一番だと思いますよ」
「上司じゃない、か……そうだよな」
非常にいい事を言ってくれた。
別に向こうだって率先してこちらの粗を探してくる訳でもない。
それどころか俺の配信を見ることを楽しみに来てくれるんだ。
なのに勝手に怖がっていたら……失礼じゃないか。
ドンと胸を叩いて己を鼓舞する。
大丈夫。お前はやれる人間の筈だ、柿田通。
変に懸念がどうとか、失敗しないようにしなきゃなんて意識はいらない。
気取らず、飾らず、自然体で臨もうじゃないか。
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次回いよいよ初配信です。
ここまで長かった……




