収入
短くて申し訳ない……
普段の俺なら動画投稿者?と首を傾げて混乱しつくしていただろう。
だが、この時は違った。
【もし一週間が本当なら今すぐ企業はスカウトしておけって話】
先程見た切り抜き動画のコメント欄にあった一つの意見。
これを見ておいて宮園の言葉の真意と、今の俺自身の立場が分からない程鈍感ではない。
……とは言え、どうするべきだろうか。
じゃあ誘われたしプロゲーマーになります!と気軽に選択できるような問題じゃないのも事実。
この選択は今後の俺の人生を分かつほど重要なものだ。
しっかりと考え、結論を出すべきだろう。
「……!すいません!あまりに急すぎる提案でしたよね」
逡巡する俺を見て慌てて宮園は手を取り下げる。
まぁ、本来もっと段階を置くべき話である事は間違いないな。
……何となく、少し焦ってるようにも見えた。
「少し考えさせてもらえるか?大丈夫、ちゃんとお前の伝えたい事は理解してるから」
「はい。どれだけ時間をかけてもらっても構いませんので」
ぴしっと背筋を伸ばして姿勢を正す宮園。
お言葉に甘えて、じっくり考え込むとしよう。
いの一番に頭をよぎるのは収入の件について。
少々俗っぽいと思われるかもしれないが仕方ない。
人間は結局、金が無ければ生きてはいけないのだから。
「その……具体的な給料とかはどうなんだ?」
「……一概には言えませんね。各々の実力によってかなり違ってきますので」
「まあ、そりゃそうだよな」
「例えば…先輩も知ってる猫宮又旅さん。彼女の年収は少なくとも一億円以上と言われています」
「……マジで?」
「はい。あくまで投げ銭額やメンバーシップ等の情報を鑑みた際の推定ですが」
予想をはるかに超えた額を聞かされて思わず口元を抑えてしまう。
あの子……そんなに稼いでいたのか?
確かにVtuberというジャンルが想像を超えて流行っているのは聞いている。
中でも特に有名であろう猫宮さんなら、それくらい行っててもおかしくないのかもしれない。
……しかし、重要なのはあくまで俺が配信をするという点。
少々質問の仕方を変えるべきだろう。
「あくまで推測として……お前は配信者としての俺がどれぐらいまで稼げると思う?」
現在の界隈の発展を担う社長の嘘偽りない意見が聞きたかった。
宮園は現に企業を成功させて結果を残してるんだ。
……だからこそ、正確な査定をしてくれると信じている。
顎に手を置いて俯く宮園。
少しの間を置いた後に、おもむろに彼女は答えを出した。
「運によって左右こそされますが、柿田先輩なら最低でも5000万は行くと思います」
「……それは通算総額の話か?」
「いえ、年収の話です」
そう言い放つ宮園の表情は凛としている。
その顔を見て冗談だろ?と聞く気にはとてもなれなかった。
とは言え5000万なんてどでかいスケールを出されてそのまま飲み込めはしない。
落ち着いて目を閉じて、すっと呼吸を整える。
時間はあるんだ。ゆっくり問いただしていこう。
「冗談じゃないのは分かってるが……少し買い被り過ぎなんじゃないか?」
「全然。むしろ今提示した額は最低保証みたいなものですよ」
「……5000万円だぞ?」
「はい。それこそ猫宮さんに比肩する事だって夢じゃありませんから」
質問は全て淡々と返されていく。
当然、と言わんばかりの態度に俺は固唾を飲んだ。
今の話を聞く限りデメリットが無さすぎる。
それはそれで疑いたくなってしまうのは人間の性とでも言うべきだろうか。
……正直給料を度外視するとしても純粋に配信活動をやってみたいと言う気持ちすらある。
従って今の状況は願ったり叶ったりの筈なんだが……
果たして俺は、素直にこの誘いに乗じてもいいのだろうか?
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次回柿田の決意、及び宮園の謝罪回です。




