電話
ごめんなさいお昼に何とか行けました!
何とか今日は一日二話いけるかも……!
慌てて充電していたスマホを手に取る。
そのまま応答しようとするが……直前で俺の指はピタッと止まった。
「……誰だこれ?」
そこに表示されていたのは見知らぬ番号。
てっきり実家の両親からのものだと思っていた俺は少々面喰う。
そもそも家族とごく一部の知人としか連絡先を交換してない筈なんだが……
考えられるパターンは二つ。
①イタズラ電話。
わざわざ説明するまでも無いな。
適当な番号にかけまくっている暇人がたまたま俺の番号を引き当てたと言うだけの話。
普通に考えるならこの線が濃厚だろう。
②俺が教えていないにも関わらず番号を知っている人間が掛けてきた。
……正直字面だけなら中々に意味不明である。
ていうかこれが本当に起こっているなら呑気にしてる場合じゃない。
端末のハッキングを疑うべきだ。
まあ、十中八九①だろうな。
②に関してはどんなレアケースだよって話である。
どちらにせよ出ないのが一番という事は分かっているのだが……
俺は、そっと応答ボタンをタップする。
実は後者の方には心当たりがあったのだ。
スマホを変えたばかりでも番号を知る事が出来る人間。
そんなエスパーの様な芸当を為せる奴が、かつての知人に一人いた。
とは言えそいつと関わりを持っていたのは10年前までの話。
存在自体を忘れ去られていてもおかしくない位の期間が開いているのも事実。
……結局出た理由は直感としか言いようがないな。
「もしも」
「もっしもしー!!柿田先輩久しぶりー!!元気に軍人やってたー!?」
俺の声を遮る爆音が耳元に響き渡る。
思わず反射的にスマホを耳からぱっと離してしまった。
「うわ!声でけぇよ!!」
「えへへへ……私からのサプライズですよー!びっくりしました?」
そのびっくりとはどういうニュアンスなんだ?
久しぶりの再会に驚いて欲しいのか、単純な叫びで驚かせたかったのか。
結果どっちの意味でもびっくりしてるんだが。
俺の直感はものの見事に的中していた。
底抜けた明るく陽気な声。他人の都合や事情などお構いなしの態度。
よく言えば大らかな人間で、悪く言えばデリカシーの無い奴。
10年経ってもそれらが全く変わってない事実に嬉しいような悲しいような、複雑な感情を抱く。
「……久しぶりだな宮園。お前の方こそ元気だったか?」
「うん!現在進行形で超元気!」
言われなくても声のトーンでその様子がよく分かる。
宮園 皐月は中高時代の二年下の後輩だ。
当時テニス部に所属していた俺はマネージャーであるこいつとそれなりに関わりがあった。
友達……とまで言っていいのかは分からない。
それなりに話す仲だったって感じだ。
さてこの宮園だが、めちゃくちゃ当時から友達が多かった。
可愛らしい容姿に明るい性格。更にコミュ力がずば抜けて高い。
多趣味且つ聞き上手で、どんな相手とも目線を合わせて対話をすることが出来る。
現代の言い方で表すなら……正に陽キャの代名詞とでも言うべきであろう女。
「はーい二人組作ってー」
という聞く人によっては鳥肌すら出そうなセリフにも全く恐れる必要のない人間。
それが宮園皐月なのだ。
で、こちらとしても聞きたいことは色々あるんだが。
まずは一番の疑問から問いただすとしよう。
「一応聞いとくが、誰から番号聞いた?」
「妹ちゃんからです」
……あいつ、あっさり漏らしやがって。
確かに妹は俺よりも数倍宮園に懐いていたからな。
そりゃ聞かれれば素直に教えるだろう。
しかしここまで簡単に連絡先を得られるとは……
全くコミュ力とは時に恐ろしい武器になるものだ。
教訓を得つつ次の質問に移る。
「で、何でわざわざ十年振りの友達ですら無い先輩に電話かけてきたんだ?」
「え~私ずっと友達だと思ってたのに!先輩は違ったんですか!?」
悲しそうな声を出す宮園。
話を逸らされたくない俺は適当にあしらっておく。
「それはともかくとして、一先ず理由を教えてくれないか?」
「理由ですか……まぁ、今めちゃくちゃ話題になってるから。ですかね」
「……相変わらず情報通だな。お前は」
「えへへ。私世界で一番友達多い自信ありますし!あらゆる情報が必然的に入ってくるんですよ」
世界一などとでかいスケールを気軽に出すが、否定できないのが恐ろしい
実際俺の名が広がってることを一日も経たずに嗅ぎ付けてる訳だからな。
kakitaという名前で察することはできるだろうが、そこから電話番号を調べて即連絡する勢いの良さには感服すら覚える。
「で、ここからが本題なんですけど。久しぶりに会ってお茶でもしません?」
「え?会うって……いつだよ?」
「今から」
「……は?」
迷うことなく返され、たまらず絶句してしまう。
せめて24時間以上は猶予を与えて欲しい。
こいつは他人の予定とか、そういう都合を考えたことは無いのだろうか?
……いや、別に俺には何も無いんだが。
否定も肯定もせず曖昧な態度で一旦お茶を濁す。
「アポなしでいきなりそれはどうなんだよ」
「いいじゃないですか、暇なんだし!軍人辞めて、もう美咲先輩とも別れたんでしょ?」
「お前……!何でそこまで知ってるんだ!?」
「質問の答えは直接会ってお伝えしまーす。じゃ、15時に渋谷駅前で会いましょうね」
言いたい事だけを言って、宮園は電話を切る。
ツーツーと耳元で響く音が何故だかやけに空しく感じられた。
まるでゲリラ豪雨のごとき往来を受け、残された俺はただ茫然と立ち尽くす。
「……マジかよ」
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感想で何件かご指摘いただいてるフルダイブの件に関してなんですが
一応今後の展開で何とか出してみたいなーと前向きに検討はさせてもらっています。
軍人時代の経験を生かした動きを実際に……という描写はタイトル的にも必要だと思いますので。
 




