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『電車』だけれど、オムニ『バス』③

作者: 近未来ミイラ

『ヒト図鑑』


ヒトって動物、種類は一つ?

いろんなヒトを、まとめたよ。


白い杖を持って歩く、目が見えない人。

スマホを見ながら歩く、周りが見えない人。


年老いた男性に、席を譲る人。

席を譲られても、頑なに断る人。


女性蔑視で、会長を辞任する人。

女性同士で、秘密の夜を過ごす人。


ゲームでお金を稼ぐ人。

汗水流しても見合ったお金がもらえない人。


誰かに認めてもらいたい人。

誰のことも認めたく無い人。


書く人。

読む人。


言いたいことしか言わない人。

言いたいことも言えない人。


本音をついつい口に出し、

叩かれる人。叩く人。


テレビに向かって「こいつそんな可愛く無いよね」って言う人。

テレビに向かって「あぁもう本当にかっこいいマジかっこいい」って言う人。


明日を生きたい人。

今すぐにでも、居なくなっちゃいたい人。


みんなバラバラ、みんなそれぞれ

何でそんなに足が揃わないの?


しょうがないか、ヒトだもん。

そういうもんか、ヒトだもん。


みんな違って、みんないいって、

言いたいだけの、ヒトだもん。


「そう言うお前は誰だ」って?

私ももちろん、ヒトだもん。


お前とアイツと、それから私

みんな一緒に、ヒトまとめ。




『リアルウインクキラー』


「リアル鬼ごっこ」や「リアル脱出ゲーム」といった言葉が作られているのだから、「リアルウインクキラー」があっても、なんら不思議なことではない。しかし、そのゲームのウインクキラー役が自分に任命されたことは不思議でしかなかった。

ある日、朝起きて歯を磨いていた時、鏡の中の自分の肩のところに、ピンク色の可愛いインコが乗っているのが見えた。しかし、実際に自分の肩に触れてみても、そこには何もいない。鏡の中のインコは流暢にこう言った。

「私の姿が見えるということは、お前が世界初の『ウインクキラー』だな」

私はウインクキラーというゲーム自体は知っているものの、自分がウインクキラーと言われると、当たり前のように訳がわからなかった。

「え?私がウインクキラー?」

「そうだ。お前のウインクしている姿を見たものは、10歩歩いた後に死ぬ。リアルに、死ぬ。これこそが『リアルウインクキラー』である。お前は今日から1年間、『ウインクキラー』として、ウインクで人を殺せるようになるんだ」

しかし、私はそのインコに向かっていたって真面目な顔をして問いかける。

「でも私、ウインクできないんですけど?」

「ウインクなんて所詮小技だよ。筋肉の使い方さえ覚えればすぐできるようになるよ」

インコはそう言うが、私は今までの17年間でウインクをできたことが一度もないのだ。できるわけがない。インコは続ける。

「じゃあ、早速今ここで練習してみるかい?」

……10分くらい練習すると、ある時、ぱちっと片目だけを閉じる、鏡の中の自分の姿を見ることができた。

「やった!ウインクできた!」

しかしそれからすぐ、私の表情は暗くなり、絶望のあまりそこから一歩も歩けなくなってしまったのだ。



『その猫』

話を聞いてもらう前に、まずは僕の自己紹介。吾輩は猫である。名前はもう無い。つい昨日までは、一緒に暮らしていた真衣子さんが、僕のことを『ミコ』と呼んで可愛がってくれていた。オスの僕には少し女々しすぎる気もしたけど、なんだかその名前が愛おしくって、呼ばれた時には、たとえ寝ていても起き上がって、真衣子さんの所まで走って行っていた。真衣子さんはお喋りが大好きで、いつも僕を膝に乗せながら、その日あった事を楽しそうに話してくれていた。

でも今日の朝になって気づいた。僕のことを『ミコ』と呼んでくれる人は、僕にお話をしてくれる人は、もうこの世に1人もいなくなってしまったということに。

人間は、『人は2回死ぬ』なんてことを言う、1回目は、身体的な死。そして2回目は、その人の心から忘れ去られてしまった時、言わば、存在意義の死。どうやら僕には、後者の死が先にやって来てしまったみたいだ。僕を生きがいとしてくれる人もいなければ、僕の生きがいとなる人もいない。僕もきっと空腹のまま、数日後にはもう片方の死を迎えることになるだろう。

死ぬことがこんなに怖くないなんてね。



『コーヒーカップ』

2人の男が、1つの丸い机を挟んで向かい合い、座っている。机の上には、コーヒーカップが1つあるだけだ。コーヒーカップという割には、コーヒーが入っていない。空っぽのただのカップを、じっと見つめている2人。

ふと思い出したかのように、片方の男が口を開いた。

「なぁ、コーヒーカップの取っ手は、右と左のどっちについてるんだ?」

もう一方の男は、悩む様子もなく淡々と返す。

「このコーヒーカップですか?どう見たって左側に取っ手がついているじゃないですか」

「でも、俺から見たら右側についてるぞ?」

「じゃあ、こうしたらいいんじゃないですか」

そう言ってから男は、コーヒーカップの取っ手に指をかけ、少し持ち上げ、くるりと180度向きを変え再びその場に置いた。

「これで、左側に取っ手がついていることになったでしょう?」

「だがしかし、今度はお前から見たら右側に取っ手が付いていることになるだろ?」

「いやいや、それは心配なく」

男はそう言いながらくるりと後ろを向いた。

「こうすれば、僕からもあなたからも、左側に取っ手があることになる」

「うーん」

男は、男の話を聞いても納得していないようだ。それから男は、男に、男の方を向き直すようにいい、男と目があったのを確認してから再び口を開いた。

「そうだ、お前、ウインクはできるか?」

「ウインクですか?えぇ、できますけど。急に変なこと聞きますね」

「ちょっと一回ウインクしてみてくれないか?」

「なんでですか!」

「お前がウインクで瞑った目の方を、俺たちの中で『右』と呼ぶことにしよう」

男は少し不審に思ったが、少しの間の後渋々口を開いた

「分かりましたよ。じゃあ」

男は右目をパチっと瞬かせた。しかし、残念ながら男本人は、左目も閉じてしまっているということに気づいていない様子だった

「できてないじゃないか!」

「え?嘘!?できてましたって!」

「いや!両目しっかり閉じてたから!そんなんじゃウインクキラーで楽しめないじゃないか!」

「こんなおっさんがいい歳してウインクキラーなんかで遊ぶことないから困りません!」

「いやいやいや、おっさんだってウインクキラーで遊ぶことくらいあるだろうよ!」

「ないでしょうよ!そんなおっさんいたらもうおっさんじゃないでしょ!」

「別にウインクキラーで遊んでも遊んでなくてもおっさんはおっさんだろうが!」

「そうやってすぐ『おっさん』ってくくりで『ひとまとめ』にするの良くないと思いますー!」

「そうやってすぐ人の良くないところを指摘するのも良くないと思いますー!」


「あなたたち!やめなさい!」


突然響き渡ったその女性の声に、男たちの威勢は完全に失われた。

「さっきから聞いていれば、いい歳したおっさんが何子供みたいに言い争っているの!ほら、これでも見て、心を落ち着かせなさい!」

そう言って女性は、男たちに持っていたスマホの画面を見せた。

「なんですか?この猫」

「私が飼ってる『ミコ』ちゃんよ!可愛いでしょ?」

「あ、ああ、たしかに可愛いですねぇ〜」

それから男たちが30分ほど女性の話に相槌を打つことになったのは、言うまでもない。


女性が立ち去ってから……

「右とか左とかじゃわからんな。もっと別の表し方はないのか?」

男は男の問いかけにさらりと答えた。

「ありますよ。例えば、方角なんかどうです?」

「方角か!それはいいな!ちなみに、今北はどっちだ?」

「北ですか?北は確か左側だったと思いますよ」

「おお、こっちか」

「いえ、そっちは南です?」

「あ、なんだよ、お前から見て左側ってことかよ」

「そうですよ。あなたから見れば右側が北です」

「ということは東はどっちだ?」

「東は、そうですね。左側に北があると考えた時の真正面ですね」

「つまりお前から見た真正面、俺から見た真後ろってことだな」

「そうですそうです」

「おお!方角ってスゲェな!右とか左とかよりよくわかるな」

「そうですよ」

「ところで、お前はどうして今まで経験がひとつもないのに、我々と同じ音楽業界を志望しているんだ?」

「たしかに私は右も左も分かりませんけど、方角なら知ってるんで、いけるかなーって思って」


お読みいただきありがとうございます。

次がいつになるかは未定です。

気長に待ってくれると、とても嬉しいです。

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