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萌え袖ニートの萌実さん。  作者: ソメイヨシノ
1/12

一袖


氏神の桜が至るところで咲き乱れ、人々の心を魅了する頃、俺は自宅から近い私立高校に進学した。


自分の人柄を漢字二文字で表すなら、「平凡」の二文字に尽きるだろう。

スポーツや勉強に関しては決して他人に自慢する要素などなく、普通の家庭で16年間育ってきた。


しかし、一つ悩みの種と云うか、困った奴がいて、俺の人生はそいつに振り回されきた。


そいつは自称、萌え袖を極めたニートの萌実。



"萌え袖ニートの萌実(もえみ)"だ。



俺は高校生になってからも打って変わらず交友関係は狭く深くの関係を貫いていた。


だか、一つ問題がある。それは、二年前まで女子高だったこの学校では当たり前のように女子が大勢いる。

中学時代から発症している軽い女性恐怖症のせいで、今でもクラスの大部分を占める女子達とは、ほとんど話せていない。


既に、夏休み一週間前だと云うのに俺には夏休みの予定がない。

クラスメイト達は、部活や課外活動に勤しむのだろうが、俺は部活には入っていないので、本当に退屈な三十日間になるのだろう。

まぁ、そのほうが気が楽で良いのだが……………。



「おい! 早良(さわら)! おい!」

友達の中谷(なかたに) 達也(たつや)に肩を揺すられて我に還る。

「何だよ?」

「お前のこと呼んでる美少女が教室の前に居るって言ってんだよ!」

と中谷は言ったが、正直意味がわからなかった。

「とにかくあの子の所に行け!」

指された方を見てみる。そこには、制服を綺麗に着こなした美少女が立っており、俺の名前を呼んでいた。

「………え?………なんで居るんだよ……」

あいつ不登校…いや、ニートじゃなかったのかよ

「あいつお前の知り合い?」

中谷は俺に問いかける。

「あぁ、一応幼馴染みだけど……」

「くぅぅーー。 羨ましいなぁ! とにかく行ってこい」



少女の前に歩みよると、彼女は目を光らせて話し始めた。

「久しぶり、健一(けんいち)! 元気にしてた? ご飯ちゃんと食べてる? まだ、あのゲーム続けてる? 私、トップ100位以内に入ったよ!あと、昨日スーパーに行ったらおばさんに会って………」

「いやいや、ちょっとストップ!」

小さな口からマシンガンのように飛び出てくる言葉を制した。

「何よ?」

明らかに不機嫌そうな目で俺を見つめてくる

「いや、ひ、久しぶり。 えっと、半年ぶり位か? 最近会ってなかったよな。」

「そうね。 入学式から5回位しか学校に来てないからね。」

やっぱりニート兼不登校だった。

等とやりとりしている内に周りに人が集まってきた。 これはマズイ。 突然の美少女の来訪に自クラスからも他クラスからも見物人が増えて来ている。

彼女も周囲の状況に気づきいたのか

「あっ、健一、授業終わったら一緒に帰ろ! 正門で待ってるからね!」

そう言うと彼女は足早に人混みの中に消えていった。

「誰? 早良の彼女?」

「普段女子とも話して無いのに……」

後方のクラスメイト達からの心無い言葉が背中に突き刺さる。

ふと、誰かに肩を叩かれた。

「お し あ わ せ に」

最悪だ。 中谷に軽蔑の目で見られている。




先ほどの件以降の授業の内容は覚えていない。

周りのからの好奇心たっぷりの視線を浴びせられた彼女には後でお(きゅう)を据えてやろうと決意した。




「女の子を待たせるな! 私じゃなかったら、あんた振られてたよ!?」

俺は日直の仕事で少し彼女を待たせてしまった。

「ごめん。ごめん。」

ぷんすかしている彼女をなだめるように言った。



帰路につきながら彼女の顔色を伺いつつ聞いてみた。

「ところで萌実。 なんで、今日は学校に来たんだ?」

普段から家に引き込もっている彼女が近所のコンビニやスーパーならまだしも、学校に朝から来るなんて珍しいレベルの話じゃない。

「………あんたに渡したいものがあるのよ」

一瞬ドキッとした。 これはもしかすると……

「はい。これ、萌モコのライブチケット。 たまたま二枚当選したからあんたにあげる。」

俺に手渡されたのは、彼女が中学のころから熱中しているアイドルグループのライブチケットだった。

「あ、ありがとう。 お前、まだ萌モコ好きなのか。 しかし、なんで俺なんだ?」

俺以外にも友達(?)はいるだろうに。

「はぁ? 萌モコは私の全てよ!」

「いや、あの、ごめん。」

急に怒られたので反射的に謝った。

「別に健一を誘ったのは、たまたまよ。 家族は私となんか一緒に行きたくないだろうし。 とにかく! たまたまなんだからね!勘違いしないでよね! ………………ちょっと、ツンデレ萌実さんになってみました。」

舌をチロッと出して俺の方を見てくる。

「要するに、友達が俺しかいないってことだろ?」

少しからかう様に言ってみた。

「はぁぁ?? 友達? いっぱいいるわよ! あんたなんかよりね!!」

案の定怒って言い返してくる。

「"リアル"で、じゃなくて、"ネット"で、だよな」

「ほんっと、ムカつくわね。あんた! 昔から私をからかって………」

そう言いながら俺をポカポカ叩いてくる。



とても、懐かしい気持ちになる。



そうこうしながら帰っていく内に萌実の家の前に着いた。

「じゃあ、また明日ね。………あ、明日、学校行けるかわかんないや。」

そう言って、萌実は視線を足元に落とした。

「あんま無理すんなよ。 なんか悩み事とか有ったら遠慮せずに言えよ? 相談相手にはなってやるから。」

「うん。 ありがと………」

彼女はすぅーと息を吸った後、玄関のドアに手を掛け。

「それじゃあね! いやぁ、今日は萌モコファンクラブの皆と今度のライブに関する打ち合わせがあるんだよね。 これは、オール確定ですなぁ!」

「おい!健康にだけは気をつけろよ。 夜更かしは身体にも美容にも悪いぞ」

「…………知ってるわよ……」

萌実は、小さく呟いて玄関のドアを開き、家の中に入って行った。



彼女が最後に見せたあの悲しげな表情が幼い頃の記憶の中の彼女と重なり、俺は彼女の家の前から動けなくなった。

街灯に交じる赤色の夕焼けがあの日と同じ光景で………


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