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5.ヒロインと侍女

 ある日。その日は昼時間に入ってしまった生徒会業務が少し長引いた日だった。授業の開始時間までいつもより時間が短かったのだが走るのは令嬢としてはしたないため、少しだけ急ぎ足で教室へ向かっていた。その途中でどこかから諍いの声が聞こえてきた。聞き覚えのある声にひかれてついそちらへ足を向けてしまったのが失敗だった。

 そこにはマルティナとマルティナの侍女、そしてフィリップ王子がいた。少し離れて王子の護衛であるローランもいたが、こちらは争いの場には入らないと決めているような距離だ。おそらく王子から手出しはするなと言われたのだろう。


「さすがに見過ごせない」

「フィリップ様!助けてください!」

「わたしはマルティナ様のために!」


 うん。見なければ良かった。本当にとても後悔した。ここまで後悔したのは後にも先にもこれが最初で最後だろうと思う。

 しかし、王子が巻き込まれているのに見て見ぬふりはさすがに出来ない。ローランも私に気付いて目で訴えている。仕方ないが私も参戦するしかないだろう。


「フィリップ様、どうされたのですか?そろそろ授業が始まりますわ」

「レベッカ…もうそんな時間か」

「ええ。それにしても…何がございました?」

「何よレベッカ!あんたなんかに用はないのよ。フィリップ様、この侍女に何か言ってやってください。あたしの言うことはちっとも聞かないんです!」

「違います!マルティナ様のためを思って…どの殿方をお選びになるのか問うていただけでございます」

「それにしては少し乱暴だったように見えるが?」


 王子の言葉に頷く私。それはそうだろう。だって、二人しかいなかったはずなのに、マルティナの制服はひどいことになっている。泥まみれでぐしゃぐしゃだし、誰かに掴まれていたかのように襟元は少しよれている。頬もほんの少しだが赤く腫れているように見えた。

 どこからどう見ても、侍女がマルティナに何かしでかしたとしか思えない状況だ。


「フィリップ様、お手を煩わせて申し訳ございませんが、マルティナ様を医務室へお連れいただいてよろしいでしょうか?私はマルティナ様の侍女に話を伺いますわ」

「分かった。ローラン、悪いが授業に遅れると伝えておいてくれ」

「私もお願いいたしますわ」

「かしこまりました」


 ローランは直ぐ様教室へ向かう。護衛が持ち場を離れて良いのかと思う方もいるだろうが、王子もそれなりに鍛えているので大丈夫だ。それに学園内のセキュリティ自体は王城に匹敵するほどなので問題はないだろう。


 さて、そうは言ったもののどうしよう。

 先ほど、マルティナは何を血迷ったのか、それとも気を良くしたのか、王子から手を差し出される前に王子の腕に絡みつきながら医務室へ向かっていった。王子はそれに無表情で対応していたのだが、相当嫌だったのだろうと思われる。しかし、もしも怪我などしていたらいけないと思ったのかそれなりの扱いをしていた。それを見て、自分が言ったこととはいえ、少しだけ胸が痛んだ。


 …そんな私の気持ちはどうでも良い。

 それよりも今からが問題だ。侍女に何をどうやって聞けば良いのだろうか。淑女教育でも王妃教育でも、尋問のようなことは一度も習ったことなどない。ひとまず座り込んでしまっているマルティナの侍女に手を差し伸べて立ち上がらせると、生徒会室へ案内した。


 今いる場所は学園内にいくつか点在する小さな庭園だ。テーブルやベンチなどもあり、ランチをここで取ることもある。ただ、ここは共有の場であるため、庭園に面した教室からは丸見えである。さすがに皆の前で話すことではないだろうと思い、今ならば誰も居ない生徒会室を選んだのだった。


 そうだ。生徒会の説明を少しだけしておこう。学園の生徒会は各学年の成績優秀者が選ばれることとなっている。

 私の学年では、カールと私だ。ここであれ?と思った方は鋭い。カールがフィリップ王子よりも成績が上なのか?答えは否だ。

 では何故生徒会役員に選ばれたのかというと、非常に単純な理由だ。学年毎で交互になるのだが、私の学年では男性は平民から、女性は貴族から選ばれる。平民男性のトップがカールであり、貴族女性のトップが私だっただけだ。ちなみに貴族男性トップは当然ながらフィリップ王子だ。来年は王子がおそらく生徒会に入ることとなるだろう。代わりに私は外れるはずだ。

 身分差別はしないと言いながらも、こういった点ではやはり身分を意識してしまう。生徒の中のトップとなる生徒会内での偏りを防ぐためにこういった仕組みになっているのだ。

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