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4.ヒロイン

学園生活スタート☆

 それは私が通う学園での出来事だった。

 当時の私に乙女ゲームの知識はない。だからヒロインであるマルティナの行動は常軌を逸していると思っていたし、皆の注目の的になっていた。

 しかし、記憶を戻した今ならばマルティナが何をしたかったのか分かる。マルティナは間違いなく逆ハーエンドを狙っていたのだ。ただ、そんなエンドは配信などされてはいなかったので、実際のゲームで逆ハーエンドが考えられていたかどうかは分からない。

 お分かりになっただろう。マルティナの常軌を逸した行動とは、複数の異性と交際をしようとしていたことだ。体の関係は分からないが無かったと思いたい。

 何故ならこの国では一夫一妻制であり、これは王家ですら同じだ。そして純潔に重きを置かれている。特に貴族ではその傾向が顕著である。

 公爵令嬢である私も例外ではない。


 そういえば言っていなかったかもしれないが、私には婚約者がいる。彼の名はフィリップ・ヴェランデル。お気付きだろうか?そう、この国の王子であり次期国王だ。

 貴族の中でもトップに君臨する公爵家では、幼少の頃に婚約が決まることなど珍しくない。特に長子は必ずと言っても過言ではない。例に漏れず、私もそうである。ちなみに弟も既に婚約が決まっている。

 だが、マルティナに婚約は結ばれていない。マルティナ自身がそもそも貴族内ではとても有名な人物である。

 ストレーム家の末子とはいえ、二人の兄と二人の姉には幼少の頃に早々に婚約が結ばれたにも関わらず、マルティナには婚約が結ばれることはなかったそうだ。理由は大人達しか知らない。しかし、噂になるのには十分なネタであった。


 そんなことを聞いて知ってはいたのだが、実際に見るのとではだいぶ違う。

 現場を見かけた時には本当に驚きすぎて固まってしまった。思い返すと笑えてくるほどだ。


「貴方の作る料理には愛を感じるんです」


 そう言ってマルティナは学園の料理人であるベンにしなだれかかるマルティナ。そこに高貴な貴族の面影などなかった。

 そういえば、マルティナの学科は平民が通うことの多い一般教養の学科だった。通常貴族に生まれた者であれば、学園で学ぶ一般教養は幼い頃からこの学園に通うまでに既に学んでいることのはずだ。

 私は当然ながら学んでいたし、私の通う学科は経営学に特化した学科だ。領地経営も含んでいるため、貴族が通うことが多い学科である。

まあ、学科については人それぞれとしか言いようがないため、マルティナが一般科であってもそんなものか…………と思うはずがないよ!

 まさか公爵家の令嬢が学ぶべき内容を学んでいないと?その時点でもかなり驚いたことを覚えている。

 ただ、こちらは今なら分かる。おそらくゲームの強制力だ。マルティナの能力云々ではないはずだ。たぶん…。


 そして今、目の前に繰り広げられているこの状態。先日、私と同じ学科に通う、この国で三本の指に入るであろう商会の跡取り息子であるカールと、経営科の教室でいちゃいちゃしていたはずなのだ。

 それなのに、学園内にある小さな教会の裏庭で料理人のベンとの逢引きをしていた瞬間を私は目撃してしまった。


 私は一日に一度は教会でお祈りをするようにしている。いつもは昼時間に済ますのだが、今日は昼に生徒会の集まりが入ってしまいお祈りの時間がなく、帰宅前に寄ったのだった。

 いつものように静かな教会で静かにお祈りをしていたのだが、裏庭から人の声が聞こえてきたため珍しいことがあると、少しばかり興味本意で覗いてしまったのだ。…覗かなければ良かった。

 貴族に生まれた者としてはあり得ない行動を見てしまい、私は頭が真っ白になった。瞬きも出来ないまま、その場で立ち尽くしてしまっていた。


「レベッカ?終わったかい?」


 フィリップ王子に声をかけられなかったら、おそらくまだ茫然としたままだったであろう。固まってしまっていた私を見て王子は私の視線の先を辿り、その光景を見て首を振っていた。それにどういう意味があったのか分からないが、シッと口に指をあてて静かに私を連れ去った。


 また別の日。

 生徒会の関係でどうしても教職員達の各部屋へ尋ねないといけないことがあった。そこでブルーノ先生の部屋で見てしまった。親子ほど年齢の離れている先生の頬にマルティナがキスをしている瞬間を。別に見るつもりは無かったのだが、扉が少し開いていたのだ。一応ノックをしようと扉に近付いたら隙間から見えてしまったのだ。ノックをしようと手を握ったまま、またしてもその場で固まってしまった。部屋の中ではまだ何かしらいちゃいちゃしている。しかし、先ほどの光景があまりにも信じられないことだったため、その後は全く記憶にない。私はいつの間にか王子に連れられて、教室まで戻って来ていたのだった。

 あ、そうだ。先生との関係は不倫ではない。私達と同年代の子供もいるが、奥様とは子供が小さい頃に死別している。だからまぁ、問題はない…のかな?

 いやいや、それにしてもだ。貴族の行動としてはあり得ない。常識が通じない貴族の、それも公爵家の人間がいるのだと、この時に私は初めて理解したのだった。


「フィリップ様…私…常識というものを改めて考えてしまいますわ」

「どうしたんだい、レベッカ?君は十分に常識人だよ?それこそ僕の隣に相応しいほどに」

「そうでございますか?フィリップ様がそう仰るのでしたら、安心しましたわ」


 ホッとしたので、にこりと王子に向かって微笑むと王子もにこりと微笑み返してくれた。

 この国の第一王子であるフィリップ王子は綺麗な金の髪に水色の瞳をした素敵な私の婚約者だ。頭も良い。だから王子が何を考えているかなんて私が気付くことが出来るはずはなかった。いや、一生気付くことは出来ないのだけどね。

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