13.覚醒
サブタイトルに騙されてはいけない…
別に何かの才能に目覚めたりしません。いや、ホントに…。
そして、私が目を覚ました時点へと時間は戻る。
すべてを思い出した頭で周りを見渡すと、ふと不思議に思う。今、私が寝ているこの場所は王城の一室と思われる。私の実家である公爵家にはこんな部屋はないし、よく見れば所々に王家の紋が施されている。
(私…マルティナ様に断罪されたのよね?何もしていないけれど…。それにフィリップ様はマルティナ様側に…)
前世の記憶が甦った今なら分かる。先日のマルティナが起こした事件は間違いなく、乙女ゲームでよくある悪役令嬢への断罪シーンだ。
ん?そうなると私が悪役令嬢なのか…。本当にこれっぽっちも何にもしていないけれど。しかしよく分からないのは今の状況だ。
私はマルティナに断罪され、フィリップ王子はマルティナの味方になっていたはずだ。にも関わらず、何故私は王城内の一室で寝ているのか?王子の婚約者だから?いや、でも王子には見限ら………れていない?
先ほど、サイドテーブルの花を取り替えてくれていたのはそういえば婚約者だった。
私の婚約者である、この国の第一王子であるフィリップ様だった。思い返すと王子が慌てる姿を見たのは始めてかもしれない。
ふふ、と思わず笑みが溢れた。
「良い夢でも見てたのかい?」
あまりにも自分の世界に入りすぎてその気配に全く気付いていなかった。突然声をかけられて、びくりと身体が震えた。
「ああ…ごめんね、レベッカ。怖がらせるつもりはなかったんだ。体調はどうだい?」
「あ…ええ……その…まだ、ぼんやりしていますけど…大丈夫ですわ…」
「それなら良かった。二日ほど眠っていたからお腹が減ってないかい?先に温かいスープでも作ってもらおうか?」
「あの…」
「ん?」
「マルティナ様とは…」
「………」
この沈黙が怖い。ちらりと王子の顔を見てみると、いや、本当に顔も怖い。見かけ上はにこにこと笑みを浮かべているのだけれど。これまで王子を怖いと感じたことはなかったが、今は何だか…こう…魔王?みたいな黒い空気を感じる。…何だ魔王って。前世の記憶なんて甦らなくて良かったな。
「あ、ああああの…スープをいただけますか?」
「うん、用意させようね」
そう言って扉に向かって行こうとしていたはずなのに、途中で私が寝転んでいるベッドまで戻ってきた。
「その前に…僕の名前…呼んでくれる?」
「え?」
「レベッカ、お願い」
「フィリップ様?」
「良かった…」
「?」
王子はホッとしたように心からの笑みを浮かべ、私の額にちゅっと小さくキスをして「すぐに準備させるね」と言って扉へ向かって行った。
私は顔を赤くさせながら呆然として王子を見ていたのだった。