森の民
さてと、ぼちぼち行きますか。
「マイラ、しばらくは忙しいけど、一日に1回は様子を見に来るってカシムさんに伝えて」
「え?うん」
マップで方位を見て、歩き出す。
「せめて自転車があればなぁ…」
「くすくす、物好きね…」
小さな声が聞こえた。はっと声の方を見たけど、誰もいなかった。
気のせいかな?
一日歩ってやっと山の麓まで来た。今日はここまでかな?
次の日、もう果物の実がなっていた。凄く早い。
野菜も、今日は魔物にやられる事もなく、豊作だ。
食用にできる魔物肉で、今日使う分位を渡して、果物を幾つか貰う。冷蔵庫がないので、今日は種を蒔かない事にする。その代わりに、建材に使える苗木を植えた。
もっと時間があったら、この辺の木はたくさん植えよう。
今日は山超えだ。…はぁ。
あれ…道ができている?誰か人が住んでいるのかな?
単に踏み固められただけではなく、目印のように石が置かれている。それにこの山には木がまばらにだけど生えている。
その道を辿る事にした。
平地に比べて魔物が若干強く感じる。精霊達にも手伝ってもらって、魔法中心で戦う。
最近のラノベは呪文唱えないのが普通になってるし、こんなもんなのかな?
これって流行りのチートなのだろうか?でも魔法は弱いのしか使えないし、剣ではホーンラビットとゴブリンがやっとだ。スキル買ったけど、役に立ってるのかな?まあ、安いし。
スキルも色々あるけど、正直あり過ぎてどれを買っていいか分からない。精神耐性みたいに買わないで取れたのもあるし。
森に隠れるように家が見えた。人の気配はあるけど、息を潜めている感じ。
「森の人達は放っておいて」
つむじ風と共に現れてそんな事を言うのは、精霊と思われる女の子。
「あなたは精霊?なら、契約をして欲しいんだけど」
「嫌よ。私は自由が好きなの。ここの人達もそう。それにホトス様は亡くなってしまわれたのだし、言うことを聞く義理もないわ」
「ここの人達は困っている事はないの?」
「あったとしても、自分たちで何とかするわよ。このバルスを乗っ取ろうとしている神と、その使いには頼らないわ。あなただって、いいように利用されてるだけでしょ?」
「んー?そうは思わないかな。死んじゃった私に第二の人生を送れるようにしてくれた人だし、今の生活も割と楽しいし」
「単なる物好きよ。まあ、世界樹を植えてくれた事だけは感謝してもいいけど」
「世界樹があると、薬を作れる以外にいいことがあるの?」
「…呆れたわ。あなた、何も知らないのね」
苗木がそれしかなかったから植えただけなんだけど。
「私が元いた世界は世界樹なんてなかったし、魔物も精霊もいなかった」
「はあ?何それ。世界樹がなくてどうやって魔素を生み出していたの?」
「魔法もなかったから」
「変な所ね。植物だって育たないじゃない」
「育ってたよ?ここみたいに次の日に野菜が実ったり、苗木が三日で育ったりはしなかったけど」
「バルスでもおかしいわよ!例え世界樹があったとしても、不可能だもの」
ポイントで買った種だからかな?
「まあ見た感じ、あなたに植物の適性があって、なおかつ魔法も使っているからかもしれないけど」
「魔法って、水やりしかしてないけど」
「あなた、馬鹿なの?充分に手を加えているじゃない!」
「そうなのかな?種が特別だと思ってた」
「…なんでこんな常識知らずが御使いなのよ」
「だってここに来て三日しか経ってないもん。分かる訳ないし」
「…今度は開き直るの?変な子」
「説明書読むの苦手だし」
「は?…もう、何でこんな子が御使いなのよ」
「それは私が一番知りたい、かな」
「弱くて、ほっとくと死にそうで、けど魔力だけ美味しそうで…分かったわ。契約してあげる」
「いいの?」
「あなた、一瞬で移動出来るじゃない。ここにもすぐ戻ってこられるでしょ?」
「うん。そうみたい。トールのおかげで」
「なら、いいわ。名前は?」
「ミノリ。何でも知っているから、名前も知っているかと思った」
「名乗り合う事も重要なのよ。私はシルフィ。よろしく、ミノリ」
『契約ポイント1000が加算されます』
すると、話しを聞いていたのか、どこからともなくエルフ?達が現れた。
「行ってしまうのかい?シルフィ」
「ごめんなさい。でも、すぐに来られるから、ラトス」
「あなた達には精霊が見えているんですか?」
「我々は森の民。人族とは違います。多くの精霊を従える方」
「エルフってやっぱり不思議種族なんだ」
「エルフ?なんですか?それは」
「あ、いえ…森の民の人達は、何かして欲しい事とかありますか?」
「我々は、人族に支配される訳にはいかないのです」
「支配とか、ないですよ。ただ、幸せになれる手助けがしたいだけです」
「はあ…シルフィの言う通り、物好きな方ですね。それが本当なら、我々にも魔物から守るすべを、出来れば食料も」
「畑も小さくないですか?」
「いえ、我々は最低限があればいいのです。出来ればマトマとポテ芋を」
どんな芋か分からないけど、芋類なら長持ちもするよね。
「分かりました。何なら種も置いておきますか?緑の髪の方もいるようですし」
「言っとくけどシアにはあなた程の力はないわよ」
ふうん?ま、いいや…結界碑と、種をまいて、水魔法。
「ありがとうございます。御使い様」
「ミノリでいいですよ。また来ます」